オルブス・カラグリア
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ラゼルダ断崖を進むと、人工的に作られたであろう岩窟への入口があった。
四角く切り出した岩を積み上げて作られたその穴を潜って見れば、先へと続く岩窟の足元や壁面の1部は入口と同じように石が敷かれ、かつてここに人が居たであろう跡が残っていた。
「ここを抜けるのね」
『お日様が当たらないだけでも涼しそうでいいね』
さあ、行こうと進み始めようとした、我々の中でジルファだけが、じっと己の胸元を見つめたまま立ち尽くしていた。
「どうしたんだ、ジルファ」
「ああ、すまん」
アルフェンが声を掛けたら、ジルファは直ぐに反応した。
「それ、指輪?」
リンウェルが先ほどジルファが見ていたであろう、彼の首からかけられている紐にぶら下がったリングを指した。
「女房の形見だ」
「女房……って、あんた結婚してたのか!」
「意外か?」
「形見ってことは、亡くなったの?その、……レナのせいで」
リンウェルは酷く、憎しみの籠った声でそう付け足した。
「いや、病気だ。薬が手に入らなくてな。あっけないもんだった」
ああ……この状況下じゃね。でも、この状況を作り上げていたのはレナで………。
それでもジルファは、レナのせいにしないのか。
「あいつにも見せてやりたかった。この先の世界をな」
「ジルファ………」
「気にするな。言っておいてなんだが、別に珍しい話じゃない」
「でも……!」
険しい顔をしたリンウェルの頭の上にジルファはポンと手を置いた。
「………!」
「行くぞ」
そう声をかけてジルファは奥へと歩き出す。
その後をリンウェルとアルフェンが追っていく。
『シオンのせいではないでしょ』
小声でシオンに声をかければ、何?と睨まれた。
『複雑そうな顔をしていたから、レナが支配していなければ薬が手に入ったかも、とか思ってたんじゃないかなって』
「そんなわけないでしょう。どうして私が……!」
ふい、とシオンは顔を背け、つかつかと歩いていく。
じゃあなんで、あんな申し訳なさそうな顔してジルファの事、見つめてたのかな。
「髪が光ってる………」
ウルヴァン岩窟は一部が水に沈んでいて、泳いで進む事になったのだが、揚々と泳ぐ私の後ろからリンウェルが小さく呟いたのが聞こえた。
「星霊術を使う時だけじゃないんだな」
『星霊術じゃなくて爪術だけど……。まあ、それが水の民の特徴だからね』
アルフェンの言葉を訂正しながら、濡れて青く輝く髪をひと房手に取った。
「確か髪で呼吸をするから水の中でも生活出来ると言っていたな」
『うん。だから何時間でも何日でも潜っていられるよ』
「えっ、そんなの人間じゃ………!」
「リンウェル」
諭すようなジルファの声色に、リンウェルは、あ、と慌てて手で口を覆った。
『大丈夫。慣れてるよ。そう言って陸の民はいつも私たち化け物扱いして、道具のように捨てていった』
「………慣れていいもんじゃないだろ」
アルフェンが怒ったように眉を吊りあげた。
『ありがとう』
アルフェンは優しいな。人のために怒れる良い奴だ。
リンウェルは視線を水に落として、暗い顔をしている。
「………ごめん……」
彼女がそういうつもりじゃなかったのは分かる。だけど、無意識的に人は差別をするものなのだ。
『いいよ。さあ!私は平気だけど、皆は長いこと水浸かってると体温下がるしさっさと進もうか』
特に痛覚のないアルフェンは、暑さ寒さも感じないらしいから低体温症に本人が気づかない、なんて恐ろしい事になる。
水から上がってまた岩窟を進んで行けば、入ってきた時と同じような石造りの壁や床になってきた。
「もう少しで出口。そしたらシスロディアだよ」
「………」
来た時に通ってきたリンウェルがそう言うのだから間違いないだろうが、アルフェンは足を止め、先の出口を見つめた。
「どうした。また考えごとか」
「……俺たちはビエゾを倒して、カラグリアをレナから解放した。今度はシスロディアのダナ人を助けようとしている。苦しんでいる同胞を助けてやりたいとは思う。だけど、その先のことは……どういうことになるんだ」
「いい質問だ。数でならダナはレナを圧倒しているが、武器を取る者は少ない。その武器にしてもレナの物に遠く及ばん。仮に領将を全員倒してダナ全土を解放できたとしても、まだレネギスとその後ろにレナ本国が控えている」
この岩窟の中からでは見えないが、宙に見えていた2つ球体。
私の住んでいた星ではあんな近くに他の星は見えなかった。
見えるということはそれほど距離が近いと言うこと。移動手段のあるレナ側からすれば、すぐに向かってこれるはずだ。
「今、連中が本腰を入れて反撃してきたら、俺たちに勝ち目はない。たとえ炎の剣がどれほど強力であったとしてもだ」
ジルファの言葉に、リンウェルが、そんな……と嘆く。
「じゃあ、私たちは望みのない戦いを挑んでいるの?」
「明日の敗北しために、今日の勝利を捨てる必要はない。戦うことでもう一日生き延びられるなら、その価値はある。その一日を使って、明日勝つためにできることをするんだ」
『それは良くわかる。戦わなくして生き残ることは出来ない』
私も陸の民から逃げ、生きるために爪術の扱いを覚えた。
「より現実的な話をすると、連中がその力があるのに俺たちを一掃しないのは、俺たちが必要だからだ。だから連中が本腰を入れる前に十分な力をつけ。交渉の場に引きずり出す」
「レナと交渉するの!?」
ジルファの言葉にリンウェルは驚きを隠さない。
まあ、そりゃそうだよね。やられたらやり返したい。
「気持ちは分かる。だが俺たちが生き残るにはそれしかない」
「そんな……。でも、そんなのって……」
険しい顔をしてリンウェルは俯く。
ジルファのような考えの方が希少なのだ。
だが、やられたからといって同じことをやり返せば、また、そこから復讐の連鎖が始まるのは確かで、先を見据えるなら交渉は正しい判断なのかもしれない。
「話は終わった?先を急ぎたいのだけど」
空気をぶち壊すように、少しイラついた様子のシオンが声をかけてきた。
「シオンはどう思っているんだ?すべての領将を倒した後は?」
「私たちは同じ目的のために戦ってる訳じゃない。答える必要はないわ」
アルフェンの問にシオンは答えずつかつかと先に行ってしまった。
『交渉は難儀かもね』
やれやれと、先を行く彼女を追って、私たちは岩窟の外へと一歩進んだのであった。
凍てつく大地へ
なにもかも冷えっ冷えだった。