オルブス・カラグリア
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「やっぱりヴィアベルも心配に思ったのか?」
私は倒れた少女のため滋養強壮の薬草がないかギルド駐屯地へ探しに来たアルフェンたちと同行している。
『なにが?』
「なにって、倒れた女の子の事だよ。ついて行きたいって言ったのは、心配して一緒に薬草を探してくれるってことじゃないのか?」
不思議そうな顔をしたアルフェンに、いや、と首を振る。
『私も駐屯地で取りたいものがあってね』
へへっと、小さく笑う。
「取りたいもの?」
『まあ、薬草探しも一緒にしてあげるから、まずは中に入ろうか』
レナ兵が居なくなり、兵士たちが寝泊まりをしていた横穴は既にもぬけの殻。前にネアズと襲った時とは違って、今度は堂々と足を踏み入れた。
『前はゆっくり探す時間がなかったからね』
クックック、と笑みを浮かべてベッドの横にある棚を漁る。
「色々残ったままだな」
「ここに居た兵のほとんどがビエゾがやられたと聞いて慌てて逃げたしたようね」
『それに、今配給してる物資は城に押収されてたものを配ってるから、紅の鴉たちもここはほとんど漁ってないんだろうね』
なるほどな、と呟いてアルフェンも別の棚を空けて薬草を探し始めた。
『あった!』
見つけたそれが嬉しくて、思わずぎゅっと抱きしめる。
「あったのか!」
嬉しそうな顔をして振り向いたアルフェンは、私が胸に抱く瓶を見て、ああ……と残念そうな顔をした。
「アナタ……それ、お酒?」
『そう!そこのテーブルのグラスに飲みかけのが入ってるからぜったいあると思ったんだよ!!あ〜お酒ちゃん、会いたかったよ〜』
すりすり、とボトルに頬ずりすれば、シオンはドン引きしていた。
「あなたの欲しいものが見つかったんなら、薬草も探してちょうだい」
『うん、もちもち』
上機嫌で返事をしながら、他のお酒もないかなと探しながらついでに薬草も探すのであった。
薬草はアルフェンが無事に見つけ、ドクに間違いがないか確認してもらってから、少女が待つウルベゼクへと戻った。
薬草はティルザへと預け、少女が回復するのを待つ間、私はルンルンで酒を開けた。
「随分と楽しそうだな。そんなに美味いのか?」
『飲んだことないの!?って……そうか』
アルフェンは奴隷だったから酒を飲む機会なんてなかったのか……。
『美味しいわよ。ねー、シオン』
「知らないわよ。私未成年だもの」
『あ、そうなんだ。やっぱりこっちも子供はお酒ダメなのね』
「子供じゃないわよ。まだ成人していないだけで」
ぷい、とシオンはむくれている。
『歳は幾つなの?』
「19よ」
『アルフェンは……っと、記憶喪失なんだった』
まじまじと割れた仮面のしたの顔を見つめる。
『見た感じ明らかに子供ではないし………飲んでみる?』
ちょい、と酒瓶を掲げてみる。色味的に葡萄酒だろうか。
「ああ」
興味があるのかアルフェンは素直に頷いた。
『ちょっと待ってな〜』
酒と一緒に盗ってきたグラスに、瓶の中身を注ぐ。暗紅色の液体が注がれ、ふわりと果物の香りが立つ。
『とうぞ。苦手だったら残していいよ。私が飲むから』
そう言ってアルフェンにグラスを渡せば、彼はグイッとひと口酒を含んだ。
「これは……、なんというか味は酸味と渋みもあるが、口に含んだ瞬間の香りがすごくいいな」
『お、いける口か?』
もっと飲め飲めとグラスに注ごうとしたところで、上の階から少女が起きたと伝えるためにガナルが降りてきた。
『おっと、お預けか。聞きに行こうか、少女の話』
「ああ」
酒を置いて、急いで上へのハシゴを登る。
「驚いたな。まさかシスロディアからの客とは」
上の階に着くなりネアズがそう呟いていた。
「シスロディア?」
「このカラグリアのお隣さん。五領のひとつだ」
記憶喪失のアルフェンだけでなく、別の星からきた私も知らないからネアズの説明は助かる。
「あの壁の向こうかきたとなりゃ当然ではあるが………。本当に他所から来たってやつに会ったのは初めてだ」
「あの壁が開かれるのって、ごくたまにレナの輸送隊が通る時だけだったものね」
「その輸送隊に潜り込むようなやつはいなかったのか?」
ティルザの言葉を聞いてアルフェンが尋ねれば、いやいや、と紅の鴉の面々は首を振った。
「いくら自分とこが地獄だからって、わざわざ命懸けで隣の地獄に行くやつはいねえよ」
『確かに。でも、その子は来た』
まさに命懸けで、と起きてベッドに腰掛けてジルファと話をしていた少女を見る。
黒い短い髪に燈色の瞳。青い大きなフードの着いたローブのような服を着た明らかに10代の子供。
「名前はリンウェル。シスロディアの抵抗組織《銀の剣》に所属」
少女から聞き出した情報をジルファが語る。
「組織の指示で仲間と共に、ここを目指しただ1人辿り着いた、と。ここまではいいか?」
うん、と彼女─リンウェルは深く頷いた。
「最近になって弾圧が急に厳しくなったんだ。それで、カラグリアで革命が成功したって話が伝わってきて、それなら助けてもらえるんじゃないかって……」
「ちょっと耳が早過ぎない?」
ティルザが言うように早い気がする。
だって、まだ1週間だ。ここからシスロディア?までがどのくらいの距離なのか私は知らないからなんとも言えないが。
「気になるのは、なぜ彼女が来たのが今なのかってことだ。まるで狙い澄ましたようじゃないか」
ネアズも疑っている様子だ。
「でも!私たちが苦しんでるのは本当だよ!こまで来るのだって、命がけで………」
リンウェルの必死な表情は決して嘘を言っているようには見えない。
けれど、苦しんでるのは、か……。随分と子供らくない否定の仕方をする子だ。
「心配するな」
皆が疑る中、ジルファだけはリンウェルに寄り添うように、大きな手でぽんぽんとリンウェルの頭を撫でた。
「よくここまで来た。がんばったな」
「…………」
優しいジルファの言葉に、リンウェルは黙って大人しく撫でられていた。
「おい、シルファ、あんたまさか………」
ネアズが顔を顰める。
短い付き合いの私でも分かる。ジルファの性格上この子を放ってはおかないだろう。
「私は行くわ。アルフェン、準備なさい」
そう言ってシオンがアルフェンに歩み寄る。
「すべての領を倒すために先の剣を使う。そのために協力し合うという約束のはず」
シオンの衣服や上から目線の立ち振る舞い。それらを見てリンウェルは目を丸くし立ち上がった。
「まさか、レナ人!?どうして?」
「大丈夫だ。訳ありだが敵じゃない。お前のために薬を持ってきてくれたくらいだ」
落ち着かせるようにジルファがそう言うが、リンウェルの顔は信じられないと言った様子だった。
「そんな、でも、だって………」
まあ、今までのレナ人の行ないを考えれば無理もないが。
そんなやり取りをする彼らに、待て待てと言うようにネアズが慌てた顔をする。
「いつ他領のレナが攻めてくるか分からないんだぞ」
「それはあなた達の都合。私には関係ないわ」
「アルフェンの炎の剣は切り札だ。カラグリアから出す訳にはいかない」
ネアズのその言葉にシオンは眉を吊り上げた。
「彼がここに留まったところで私の同意がなければ同じことよ」
「あんたに言うことを聞かせるって手もあるよな、《光り眼》」
『ネアズ。それは……』
君らを虐げてきた光り眼たちと同じことをするって分かって言っているのだろうか。
「できるとでも?私に触れることもできないくせに」
挑発的にシオンはそう言ってネアズに近づく。バチバチと彼女の身体から《茨》が出てくる。
「やめろ」
ジルファに嗜まれて、ネアズはシオンから逃げるように引き、シオンもまた身体から放たれる茨を収めた。
「アルフェン。お前はどう思う」
「俺は……この国で奴隷が受ける仕打ちを嫌という程見てきた。だから剣を取った」
アルフェンは手のひらを見つめギュッと握りしめた。
「もしあれと同じことが他の国で起きているなら……何とかしてやりたい」
「ネアズの言う通り、敵がまた来る可能性は否定できない。だが俺たちの戦いがカラクリアだけを解放できればいいというものではないのも確かだ」
『そもそもまたレナが攻めてくる可能性が1番高いのは、隣の国からじゃない。なら先手必勝でこちらから攻めるのもありでしょ』
そう言えば、ネアズは押し黙った。
彼は馬鹿ではない。だからこそ先を見据えて、カラグリアから炎の剣を出したくないのだ。
だからこそ最前の手で
先手で領将を倒してしまえばいい。