オルブス・カラグリア
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鉄仮面ことアルフェンが倒れてから1週間が経った。彼はまだ目を覚まさないでいる。
私はというとこの1週間大忙しだ。
ジルファやネアズと共にレナ兵で逃げずに降伏し捕虜となった者たちへの今後の扱いを考えたり、各集落への伝達を行ったり、カラグリアの今後の為、私の持ちうる知識を共有したり、と色々と大変だった。
今日は、私はモスガルへと物資の配給に来ていた。
ビエゾに仕えていたレナの兵士やそれが引き連れていたズーグルはいなくなったが、はぐれズーグルたちがまだ居るから、私は他の運搬員たちの護衛も兼任だ。
『皆の分あるから順番にねー!』
レナから解放されて嬉しそうなモスガルの人々に、配給物資配っていく。
中には急な自由に戸惑っている人や、またすぐに他領やレナ本国から他の
それでもやはり奴隷から解放されたことに喜んている人達のほうが多かった。
『はい、とうぞ』
配給物資をやってきた子供に手渡す。
「わあ、すっごいいい匂い」
子供は手にしたパンの匂いをくんくんと嗅ぎ出した。
「これ、本当にひとりで全部食べていいの
!?」
『ええ。他の人の分はまだあるし、足らなければ私がまた焼くわ』
「えっ、これ、お姉ちゃんが作ったの!?」
『そうよ。だから安心してお食べなさい』
そう言ったら嬉しそうに頷いて、子供はその場で1口パンに齧り付いた。
「わぁ、ふわふわ!僕こんなふわふわのパンなんて初めて食べたよ」
レナが与える食事がどれだけ酷かったのか分かる。
『そっか』
よしよし、と子供の頭を撫でてふと顔をあげれば、身知った顔が2つ通り過ぎた。
『えっ。シオン。それにアルフェン?』
驚いて声を上げれば、2人は足を止めて振り返った。
「あなた、居ないと思ったら今日はここで配給してたのね」
そう言ってシオンは私が抱えるパンのカゴを見つめた。
いやシオンはまだわかるが、その隣の男だ。
『アルフェン、目覚めたの!?』
「ああ。すまない。心配をかけたな」
『いやいや。元気になって良かったよ。良かったけど、病み上がりでなんでモスガルに?』
「それが……」
かくかくしかじかと、アルフェンは説明をした。
彼が目覚めた後、炎の門を見に行った所で外からやって来た少女に出くわし、その少女が衰弱して倒れてしまったからと薬を貰いにドクの所へ来たらしい。
『キミはもう大丈夫なの?』
「ああ。シオンのおかげでな」
そう言ってアルフェンが微笑めば、シオンは顔を逸らした。
「あなたに倒れられたままだと、炎の剣が使えなくて困るってだけよ」
『ふーん』
素直じゃないんだから。
少し赤い顔の彼女の頬を見ながらニヤニヤと笑えば、さっさと行くわよ、とシオンは踵を返した。
『はーい』
「ちょっと、あなたも来るの!?」
『うん。ドクさんにも配給』
そう言ってパンのカゴを掲げれば、シオンの目線がカゴへ移った。
『シオンもご飯まだなら食べる?』
「……いただくわ」
『ふふふ』
ここ数日で知ったが、彼女はとんでもない腹ぺこちゃんなのだ。ご飯をあげておけば機嫌がいい。
パンをひとつ手渡して、ご機嫌になったシオンとそれを不思議そうに見つめるアルフェンと共にドクの所へと向かうのだった。
「やあ、ドク」
ぼろ布をツギハギしたようなタープテントの下にいる老人に顔馴染みであるアルフェンが声をかけた。
「ん?お前さんは………」
顔馴染みと言えど、つい最近までフルフェイスの鉄仮面を被っていた彼の顔を知らないドクは首を傾げた。
「俺だよ。鉄仮面だ。もっとも今はアルフェンだけどな。名前を思い出したんだ」
改めて名乗った彼の顔をドクはまじまじと見つめた。顔が見えると言ってもまだ左半分だけ。残った仮面も外れないか試して見たがうんともすんとも動かないらしい。
「アルフェン?確か
『そう。そのアルフェンだよ』
はいどうぞ、とドクにパンを手渡すと、彼はああ、と呆然と受け取った後、ハッとしたようにまたアルフェンを見た。
「……それじゃ、カラグリアを解放した英雄は鉄仮面、お前だったのか!」
いやはや、とドクは呟く。
「アルフェンだよ。それに俺ひとりでやったわけじゃないさ」
「だとしても、大したもんだ。おまけにそんな顔をしとったとは」
感心するようにそう言った後、ドクはアルフェンの隣に立つシオンに視線を移した。
「そちらはレナ人か?」
知っているのか、とアルフェンが尋ねればドクは頷いた。
「お前のことと一緒で噂程度にはな。半信半疑だったが、これも本当だった訳だ」
「ドク、彼女は………」
「ありがとうよ」
アルフェンが説明しようとするよりも先に、ドクはニッコリと笑ってシオンに礼を述べた。
「……レナに礼を言うの?」
シオンは少し驚いた表情を見せた後すぐさま不審そうにドクを見た。
「レナに言ったわけじゃない。あんたに言ったんだ」
随分と出来た人だ。ずっと自分たちを虐げてきたレナ人であるのにも関わらず、彼女を彼女個人として見れるなんて、普通出来るものではない。
「私は……私の都合でそうしただけよ」
「もちろんそうだろうとも。だが、それであんたがしたことが変わる訳でもない。お前さん達は領将を倒し、その結果、わしらは解放された。それは事実だ」
「……ありがとう、ドク」
「礼を言うのはわしの方だ。いくら感謝してもしきれるもんじゃない。それから、お前さんにも礼を言わねばな」
そう言ってドクは私を見た。
『私?』
領将倒しの件は、私があの場に到着した時はほぼほぼ戦いが終わる前だったし、ビエゾにトドメを刺したのはアルフェンとシオンだったので、私は2人が倒したとしか報告していない。周りが流した話もその通り2人が倒したで通っているはずだ。
「コレもだが」
そう言ってドクはパンを掲げた。
「配給をしながら消火活動を行ってくれただろう。レナではないと言い張るレナ人が、配給に来る度、星霊術でモスガルに着いた火を消してくれるとここ最近の話題になっている」
いや、本当にレナ人じゃないからそう言ってんだけどなぁ。
『消しても土地的にどうせすぐ火が着いちゃうからあまり意味はないだろうけどね』
可燃性の強い石で出来た土地だ。
それこそ、列車を襲う時に使ったように、ここで取れる鉱石は簡単に石と石がぶつかりあかうだけでも火花を起こし着火する。
「それでも、常に轟々と燃えていた日々と比べると、随分と涼しく過ごせるんだよ。だから、ありがとう」
そう言ってドクは私にもニッコリと笑って見せたのだった。
シオンのように癒しの術は使えないけど、水を出すだけなら私にもできる。
できるからやっていただけの事だったのだけれど、喜んで貰えたのはまあ……。
悪い気はしない
それで、と彼らは本題に入るのだった。