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ゼスクエン
我々、水の民が使う##RUBY#古刻語#ここくご##で、
冥界へ飛ぶ
という意味だ。
なんて変な##RUBY#誠名#まことな##なんだろう。
そもそも誠名は陸の民達でいう、苗字に値する部分の名なのに、末端が[ n ]なのだ。古刻語ではそれは動詞を意味する。名前ならば名詞なのだから[ s ]で終わり、ゼスクエス…冥界の翼、とならなくてはおかしいのだ。
私の誠名を付けた、私の育った村の長はあまり頭が良くないのかも知れない。子供ながらにそう思いながら育った。
今日、この日までずっとそう思っていた。
灯台の街、ウェルテス。
15年ほど前に発見された遺跡船と呼ばれる動く大きな島。遺跡船の謎を解明すべく集まってきた考古学者、博物学者、トレジャーハンターといった様々な人たちを受け入れている居住区の1つ。
約1ヶ月前から、その街の宿で私は寝泊まりしている。
「ヴィー姉さん、おっはよー!」
宿の部屋を出るなり大きな声で挨拶してきたのは、茶髪のショートヘアーに黄色い丸い髪飾りを2つ付けたトレジャーハンターの女の子。
ヴィー姉さんなんて彼女は私の事を呼ぶが、決して姉妹ではない。
彼女は、同じ宿に寝泊まりしている子で、1度お金がなくて泊まれない、宿代をタダにしろと店主に詰め寄ってる所を見かねて、仕方ないから私の部屋に泊まれと招き入れた事があった。それ以来妙に懐かれている。
『……おはよー、ノーマ。頭痛いから声量落としてもらえると助かる』
「また二日酔い〜?」
そう言ってノーマに白い目で見られた。
「いつも飲みすぎなんだよヴィー姉さんは〜」
『いや、昨日はしょうがないじゃん?モーゼス達に捕まって、何かわからないけど飲み勝負しようって…』
モーゼスというのはこの街に野営地を置いている山賊の頭で、このノーマの知り合いでもある。昨日の夜はその山賊達に捕まって、酒場で杯を交わした。
「ふーん。で、山賊達と姉さんとどっちが勝ったの?」
『そりゃ無論、私』
そう答えれば、ノーマはパチンと指を鳴らした。
「ナイス!これで1000ガルド儲けたわ!」
『なにそれ、賭けやってたの?』
「いやぁ、ヴィー姉さん酒豪なんだよ、って言ったらモーすけが、山賊のワイら程じゃなかろうて、って。でもすっごい飲むんだよって言ったら、山賊は飲み比べで負けん!って意地張るからさ〜、それならどちらが勝つか確かめてみては?ってジェージェーが言い出して……」
『なるほど』
彼女の言う、ジェージェーとは、この街の情報屋[不可視のジェイ]の事だ。
彼は、知らないことがあると知りたくなる性分らしいし、モーゼスは彼の口車に乗せられたのか。
『で、ついでに賭け事まで?』
そう聞けば、てへ、とノーマはおどけて見せた。
『そう。別に構わないけど』
「さっすが〜」
『そうね。私のおかげで儲けたんだから、お礼はお酒でいいよ〜』
「ええっーー!」
『冗談よ。滞納してた宿代に使いな』
そう言ってぽんぽんとノーマの肩を叩く。
『じゃあ私は用事あるから、行くね』
またね、とノーマに告げて宿を出た。
宿から12時の方角に進めば、パンのいい香りがしてきた。
目の前のパン屋の扉が開いて、私と同じ金の髪と碧眼を持つ少女が出てきた。
「あっ、」
『おはようございます』
深々とお辞儀をすれば、少女は、おはようございますと返したあと首を傾げた。
「あれ…?ヴィアベルさん、もしかして今起きたんですか?もうお昼ですけど……」
え、まじ?ノーマがおはようって言ったから朝だと思ってたんだけど。
「顔色も良くないし、お具合悪いんですか?」
そう言って彼女は小走りに近づいてきた。
『へーきへーき。ただの二日酔いだから』
「二日酔いって、またお酒たくさん飲んだんですか?身体に良くないですから、気をつけて下さいね」
『おっと、メルネス様にそう言われちゃ、気をつけないといけませんね』
そう言えば、彼女の表情が少し曇った。
先程シャーリィと呼んだ彼女を今、メルネス様と呼んだのにはちゃんと理由がある。
彼女の名前はシャーリィ・フェンネス。私と同じ水の民と言う種族で、メルネスというのは滄我の声を聞くことができる人物の事で、まあ、簡単に言えば役職名の様なものだ。
私よりも10近くも若い彼女は現在メルネスとして、我々水の民と、長きに渡り抗争を続けてきた陸の民との架け橋になるべく外交官として奔走している。
彼女の働きかけのおかげで、バラバラに散り大陸の様々な国で隠れるように暮らしていた我々水の民がこの遺跡船に移住し、一緒に住むことが出来るようになった。
そういう訳で私も1ヶ月ほど前にこの遺跡船にやってきのだ。
「……本気で心配しているんですよ?」
1000年ぶりのメルネスだなんて水の民中の期待を背負わされているが彼女は、ただの少女だ。それでも水の民と陸の民の間を取り持とうと幼気に頑張っている。
『少し意地悪だったね。ごめんね』
「許しません」
むす、っと彼女は頬を膨らませてみせる。
随分と可愛らしい怒った顔だ。
『え、ごめんって』
「メルネスとして命じます。今日1日はお酒禁止です!」
そう言って彼女は勝ち誇ったように笑った。
これはしてやられた。
『それはちょっと無理ですね!じゃ!』
さよなら!と逃げるように橋を渡り街の西側へ向かう。街の保安官で博物学者のウィルの家を通り過ぎた分かれ道の先で、褐色肌に紫色の髪をした2人の男女がミュージカルのような事をしていて、思わず足を止めた。引き返すか……。
「おや!君は!」
『げ、』
ちょうど歌を終え、男の方がこちらに気づいた。最悪だ。
「こんな所で会うとは、まさに運命!」
「はい。しかも彼女は指揮者!」
違いますけど。
「音楽をやるうえで指揮者は必要。やはりこのフェロモンボンバーズの正規メンバーに相応しいッ!!」
『いや、だからそれは前にお断りしましたよね』
前に街の近くに現れたモンスターの退治をしたことがあって、武器であるタクト振っていたら、それを目撃したこのフェロモンボンバーズの2人にメンバーにならないかとしつこく付きまとわれている。
「なにも謙遜しなくとも良い。君ならばフェロモンの部分ももれなく合格だッ」
『いや、別にそんなとこ気にして遠慮してるわけでもないんで』
「はっはっはっ、照れずともよい!」
誰か通訳〜!!
このままだと拉致があかないなぁ。しょうがない。
『誰かー!助けてー!腕の立つ騎士様とかー!黒髪の騎士様とかー!』
そう叫べば、何事だ!と大きな女の子の声がした。
そうして、黒髪ショートのぴっちりとしたタイツ布の衣服を身にまとった騎士の少女がこちらへとかけてきた。
「今、助けてと聞こえたが!何があったんだ!?」
『やあ、クーちゃん』
「ヴィアベルさん?もしかして今ヴィアベルさんが助けを呼んだのか?」
首を傾げる彼女、クロエ・ヴァレンスに、そう、と力強く頷く。
『フェロボンに襲われてるの!助けて!』
「なに!?」
クロエは腰にある剣に手をかけた。
「おいおい待て待て!俺たちは彼女を正規メンバーに勧誘しているだけだぜ?」
こくり、と後ろの女性も頷く。が、クロエは街で有名な問題児……じゃなかった正義の見方。正義感が強すぎてから回るほどの。
『助けてクーちゃん!あの人達、嫌だって言ってるのにしつこくて困ってるの』
しくしく、と泣き真似をすれば、彼女は任せてくれと言って剣を抜いた。
「女性を泣かせる輩は放っては置けない。覚悟ー!!」
やあ!と剣を振り上げた彼女を見て、その隙にそっーと、その場を立ち去る。
フェロモンボンバーズは、普段はミュージカルみたいなことしてるけどああ見えて軍人らしいから、ほっといても大丈夫だろう。
彼らから逃げるように、急いで12時の方向へ向かっていく。
街の1番奥にある、灯台と呼ばれる建物。
定期的に光る塔だから灯台と呼ばれ始めたらしいが、これも遺跡船の中の古代産物なので実際に灯台なのかは不明である。
この灯台の中に入り、中央の円になっている台座のような物に乗り込み、備え付けてあるタッチパネルを操作すれば下に降りる。
降りた先には大地があり、そこは砂浜になっている。砂の上をギュッギュッと音を立てながら進めば目の前には浜辺に波打ち返す海が広がっていた。
よいしょ、と砂が着くことも厭わずにその場に寝転んで空を見上げる。
ここの空は閉じている。ここの天井が上の土地になっているからだろう。
天井の柄は、星空のようになっていてとても綺麗だ。
さざ波の音を聞きながら、この天井を見上げるのが好きで、この場を知ってからは定期的に来ている。
捨てられて誰も居ない大地と、造られた空。ここには私を##RUBY#煌髪人#こうはつじん##だと指を指す陸の民も居ない。
##RUBY#滄我#そうが##が全てだと言う水の民も居ない。
いや、まあなんかたまに喋るラッコのような、モフモフ族という生き物が来るけど、基本は1人で静かだ。
『さて、と』
上半身だけ起こして、カバンからスキットルを取り出す。銀色の容器のその上蓋を外し、その中身を口に含めばウッディーな香りが鼻をぬける。
「うわ、また酒飲んでる」
その声に振り返れば銀色の髪に褐色の肌を持ち、顔にはマリントルーパーの証である紋様を描いた少年が立っていた。
彼は先程出会った同じ水の民の長メルネスであるシャーリィが兄と呼び慕っている陸の民だ。
『おや、セネルが起きてる』
「起きてるって……流石の俺でも昼には起きる」
ムスッとした顔でセネルはそういうが、彼も大概寝坊助だと、シャーリィやノーマから聞く。
「シャーリィが心配してたぞ」
『それで様子見に来たの?』
「それもあるが…、暇なら少し手伝ってくれ。街の外の魔物を狩って来いとウィルが」
『いや、今、滄我との対話で忙しい』
セネルが言い終わる前に、そう言ってゴロンとまた砂浜に寝転ぶ。
「嘘つけ!だいたい、メルネスじゃないと滄我の声は聞こえないだろ」
『そりゃあ聞こえないけどさ。ここの滄我は優しいから、話を聞いてくれるよ』
ここ、と言ったのにはわけがある。
滄我にはこの捨てられた大地の海に宿る、静かの滄我と、この上の世界にある猛りの滄我と2つある。
まあ最近じゃ、メルネスのおかげで猛りの滄我も穏やかになり、ここの海のような静けさがあるが、少し前まで上の世界では海とは荒れ狂ってるものだった。
「話なら俺が聞いてやるから。アンタどうせ酒飲んでゴロゴロしてるだけだろ」
そう言ってセネルは私の腕を掴み強い力で引っ張り起こした。
『えー』
「えーじゃない!ほら、行くぞ」
『…しょうがないなぁ』
立ち上がって、ポンポンと身体に付いた砂を払う。
『給料はでるんだろうね?』
「それはウィルに言ってくれ」
『なるほど』
後で彼の娘であるハリエットちゃんに会っとくか。
「急いで上に戻るぞ」
そう言って、セネルが昇降機の方へ向かっていく。
はーい、と返事をしながらカバンの中に、スキットルを仕舞う。
「最近また数が増えてるらしいから、気を抜くなよ」
そう言ってセネルがこちらを振り返って、
それから何故だか急に驚いたようにセネルは目を見開いた。
「ヴィアベル!後ろ!!」
『え?』
振り返って見れば、黒いモヤのような渦のようなよく分からないものが傍にあった。
なんだこれ、と思う間もなく大きく広がったそれに飲み込まれ強い力で引き込まれる。
『きゃっ、』
「ヴィアベル!!」
慌ててセネルがこちらに駆け寄ってくる。
セネルは掴まれと腕を伸ばし、私も手を伸ばす。
しかし、
つぷり、と黒い闇が私を包み全てをその中に引きずり混んだ。
「ヴィアベルー!!」
何も見えなくなる中、最後に聞こえたのはセネルの叫び声だった。
溶ける黒
最初から何もなかったように、消えたそれをセネルは呆然と見つめた。