外殻大地編
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『流石に、飛ばされた後は街を目指すでしょうから、タタル渓谷に飛ばされたならケセドニアに向かってるはずですよね』
「ああ、恐らくな。ケセドニアに入ったなら街の入口の商業地帯の商人達があの目立つ赤毛を見ているはずだが、目撃情報が一切なかったしな」
『タタル渓谷は飛ばして…ルグニカ平野に向かって良さそうですね』
「だな。とりあえず目指すはこの先のローテルロー橋だ」
この時2人は失念していた。
ルークが記憶喪失者で、7年間屋敷に軟禁されていた事に。
そして知らなかった。
一緒に居るであろうヴァンの妹が、土地勘がないだなんて。
しかも、まさか、
ローテルロー橋が何者かによって爆破されて通れないなんて。
「嘘だろ…」
一日かけてここまでやってきたというのに、向こう岸に渡れないんじゃ意味が無い。
我々と同じようにローテルロー橋が破壊された事を知らなかった荷馬車のおじさんも、どうしたもんか、と橋の前で意気消沈している。
大陸と大陸を繋げる橋だから、間に流れているのは川ではなく海だ。
「泳いで行く、って距離じゃないもんなぁ」
『すみません、ガイ。そもそも私は泳げません』
「えっ、そうなのか!?戦えるって事より驚く事はないと思ったけど、意外とキミの知らない事が多いなー」
『まあ、立場上、私たちが2人で身の上話する事はなかったですからね』
かくいう私もガイの事はルーク様の使用人で、女性恐怖症なのに女の子にモテると言う事ぐらいしか知らない。
「と、なると…1度ケセドニアに戻ってカイツール向かうしかないか」
「兄ちゃんたちもケセドニアに引き返すのかい?」
そう聞いてきた荷馬車のおじさんに、ええ、とガイが頷く。
「だったら、乗ってきな。つっても荷台だから狭いけどな」
『よろしいんですか?』
「ああ。俺もここに居てもどうにもならんから1度ケセドニアに戻るしかないしな。ついでだよ」
「リュリ、ご好意に甘えようぜ」
『はい。では、魔物が出た際はお任せください。私と彼とで、お守りしますから』
「そりゃあ助かる。大事な商品だからな。よろしく頼むよ」
『こちらこそよろしくお願いします』
そう言って、私とガイは馬車の荷台に乗り込んだ。
ケセドニアに戻ってきて、荷馬車のおじさんと別れを告げた。
「さて、と。今からカイツール行きのチケット取れるか…」
『ガイ。それなんですが、ちょっと待ってください』
荷馬車で揺られながら色々考えたが、結局今からヴァンを追っても追いつけないし、同じ道を行くのでは捜索範囲が狭まる。港から王都グランコクマに向かうのもありだが、なんせケセドニアの港からだとダアト経由で時間が掛かりルーク様と入れ違いになるかもしれない。
『マルクト領事館に行きましょう』
「は?」
なんで、という顔をするガイに歩きながら説明する。
『ここに軍が駐在しているということは、一般市民達が使う定期船や交易船とは別に、本国とやり取りするための移動手段があるはず
』
マルクト軍だけでなくキムラスカ軍も駐在するこの街で、港を使って堂々と海から物資を渡すよりも、川を使って物資を運ぶだろうから、彼らが使う運搬ルートが絶対にあるはずだ。
『それをお借りしましょう』
「はあ!?どうやって!?」
『交渉するのですよ。先程おじさんだって橋が通れなくて困っていましたから。渡し船を出してもらいましょう』
「いやいやいや」
無理だろ!?というガイに、物は試しですよと返して、到着したマルクト領事館の前に立つ2人の兵士に声をかける。
「領事との約束は?」
『すみません、アポイントメントはないんですが、領事に会わせていただけないでしょうか?わたしくし、リュリ・グレイ・ネイスと申しまして、実は、ローテルロー橋が破壊されて通れないので御協力をお願いしたいのですが…』
「リュリ・グレイ・ネイス……?」
「ローテルロー橋の件は既に知っている。会う手筈の無いものを通すわけにはいかん」
帰れ帰れと1人の兵士に手で払うと、もう1人の兵士が慌てて、待て!と声をかけた。
「ネイスと言えば、まさか、あのネイス博士か!?」
『あ、いえ、それは私の兄です』
「ネイス博士?」
熱量の高くなった兵士に怪訝そうな顔をしながらもう1人の兵士が聞く。
「お前知らないのか!?ケテルブルクが生み出した2人の天才。バルフォア博士とネイス博士。2人ともマルクト軍に属し多くの功績を残した方々だぞ!!おい、特別に取り告げないか聞いてこい」
「え、お、おう」
熱量の高い兵士にせっつかれ、慌ててもう1人の兵士が領事館の中に入っていった。
それから数分後、あっさりと領事館の中に入らせて貰えた。
「初めまして、ようこそおいで下さいました。ネイス令嬢」
そう言って出迎えたのは、女性の領事だった。
『初めまして。急な申し出を受けて頂いてありがとうございます』
「いえ。しかしながら、ずいぶんとその変わった格好をされていますね」
領事は、上から下まで私を見たあと怪訝そうな顔をした。
ああ、そっかメイド服のままだからか。
『奉公に出ておりまして。私が本当にネイス博士の妹か疑っておられるのであれば、ケテルブルクの知事か、マルクト軍のジェイド・カーティスか、皇帝陛下に確認して下さい』
上げた3つの名に、領事もガイも目をくりくりとさせた。
『私の身分は彼らが証言してくれますので』
「そこまでハッキリ言われては、疑う余地もありませんね。確かに、ネイス家が養女を取る話は一時期マルクト軍の話題になっていましたから間違いないでしょう。…それで、ローテルロー橋の事で話が、と言う事でしたが……」
『はい。私たちは奉公先の主人の命でエンゲーブにお使いに行くのですが、ローテルロー橋が破壊されて進めずに困っているのです。急ぎの要件ですし、ダアトを経由し、グランコクマから南下するのでは時間がかかり過ぎます。それに私たちだけではありません、この街にいる荷馬車の方や行商人の方も困られていました』
「確かに、ケセドニアからグラコクマまでは十日近くかかりますね。その間、セントビナーやエンゲーブの物流が止まることになる、か…」
キムラスカ側の特産物や製造物なんかは、ケセドニアからの流通でなければ確実に手に入らないから、十日以上日が空くのは困る人も出てくるだろう。
『はい。現状その物流が止まることすら大陸に渡れないと連絡出来ませんし。そこで、ローテルロー橋の対岸を渡るための渡し船を出して欲しいのです』
「………対岸に渡った商人に資材を積んで帰って貰えば、橋の建設も早く済む……。分かりました。明日、ローテルロー橋に渡し船を用意しましょう。アスター殿に連絡を取り、街内の商人にも連絡をいれてください」
知事は傍で控えた秘書にそう伝える。
『ありがとうございます!』
深々とお辞儀をする。
「自国の民が困っているのだから当然の事です」
そういった領事にもう1度礼をして、領事館を出てた。
『さて、とりあえず宿でも取りましょうか』
そう言って歩き出せば、え、ああ、と気の抜けたような返事をして距離をとってガイは着いてくる。
『聞きたいことがあるなら聞いてもらってかまいませんよ?』
「あー、いや。聞きたいことと言うか…キミ、マルクト出身だったんだな」
驚いたよ、とガイは言う。
そりゃあそうだ。キムラスカランバルディア王国の王女様の侍女が敵国出身だとは思うまい。
『はい。でも別に私スパイとかそういうんじゃないですよ?……いや、まあスパイだったら余計違うって言うか……難しいですね……』
「まあ、君がスパイだったとしても、もう驚かないかな」
『違いますからね!?インゴベルト陛下もナタリア殿下も私がケテルブルク出身だと言うことは知ってますし』
流石に、いくら大詠師の紹介と言えど、身元の分からぬものを一国の姫には仕えさせないでしょう。
「ミドルネームがあるくらいだし、どっかの貴族のお嬢さんだとは思ってたが……まさかマルクトとはなぁ…」
『そうは言ってもウチは誰も爵位を持っていない平貴族ですよ。兄の功績で今の家の地位があるような物ですからね。まあそういう訳で、今より地位を高めようと寄り良いところに娘を奉公に出したり、政略結婚に使ったりってよくある話ですよ』
「…ああ。よくある話、だな」
ガイは少し眉をひそめて頷いた後、大きくため息を吐いた。
侍女の秘密
驚くことばかりだ。