過去編
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ファブレ公爵家の邸内を進み、屋敷の中央にある園庭へと繋がる扉を白光騎士達が開け、ナタリア殿下がその中へ進むのを3歩後ろから付いて行く。
キンキンッと金属音がぶつかり合う音が鳴り響いている。
「これはこれはナタリア様」
仕事をしていた庭師のペールが手を止め立ち上がり、深々と頭を下げた。
その横を通り、手入れされた生垣を抜け、中央に円形に造られた水路の上を渡って、目的地にたどり着く。
「ナタリア様、危ないのでお下がりを」
付かず離れずの距離からそう言ったのはここの使用人のガイ・セシル。
危ないというのは、目の前でこの屋敷の一人息子ルーク・フォン・ファブレが、茶髪を高い位置で括った男性相手に、むやみやたらに剣を振るっているからだ。
「まだ稽古中でしたのね」
『殿下、危ないのでベンチの方へ参りましょうか』
そうですわね、と頷いたナタリア殿下を連れて少し離れたベンチの前に移動し、その座席にポケットから取り出したハンカチを敷く。
『姫様、どうぞ』
「ありがとう」
ナタリア殿下がハンカチの上に腰掛けたのを見て、折り畳んでいた日傘を開いて、彼女に日光が当たらないように差す。
「俺が持とうか?今日は荷物もあるようだし」
そう言ってベンチの後に回り込んで来た。
確かに今日はナタリア殿下の命令で入れた物をピクニックバスケットに詰めてきた。
しかしながら……。
『大丈夫ですか?傘を持つとなると結構距離が近いですよ?』
「え、あー、ああ。まあ、めいいっぱい腕を伸ばせばなんとか?」
自分でも疑問系なくらいなら、最初から言わなければいいのに。
彼は女性恐怖症らしく、近づくだけで悲鳴を上げて逃げる体質だ。それなのに妙にカッコつけというか、天然でキザな者だからこうして時々自分で自分の首を絞めている。
『わざわざ私の前では格好付けなくて大丈夫ですよ。誰にで怖いものはあるのですから、無理することありません』
「ハハ…、そういう訳じゃないんだが………」
参ったな、と彼はグローブをはめた手で頬を掻いた。
「リュリ、ガイが自らやると言ったのですからよいではないですか。それに、わたくしとルークが結婚すれば、ガイもわたくしの使用人になるのですから、今から慣れてもらわないと」
『たしかにそうかも知れませんが…。でも、苦手な事をやらせるのは可哀想ですよ。と、言うわけで、ガイ。良ければこちらのバスケットの方を持って頂けませんか?』
「すまない。助かるよ」
『何がでしょう?ただ、私がバスケットを持ちながら傘を持つのがキツいだけですから』
持っている腕をめいいっぱい伸ばして、バスケットを地に置いて手を離す。
少し離れた所に置かれたそれをガイが拾いあげた。
『割れ物が入ってますから気をつけて下さいね』
「ああ。分かったよ」
「全く、貴方は他人に甘すぎですわ」
呆れたように言うナタリア殿下に、そうですか?と首を傾げてみる。
「では、ルーク。ここまでにしよう」
「えっー!もう終わりかよ」
「既に肩で息をしているだろう。太刀筋もフラフラとしていて安定していない。疲れが出ている証拠だ。体を休めることも、戦いに置いては大事なことだ」
そう言った男性にルーク様は、はい
「ナタリア殿下も大変お待たせ致しました。ルークに用があったのでしょう?」
男性は木刀をしまった後、こちらを向いてナタリア殿下に頭を下げた。
「構いませんわ」
ナタリア殿下がそう言えば、男は顔をあげて、こちらを見て、これは…と呟いた。
「どうしたんだ、師匠?」
疲れきった様子のルーク様が、男の横に並び首を傾げた。
「いや、まさかこのような場所で会うとは思っていなかったな。久しいなリュリよ」
『ええ。お久しぶりですね、ヴァン。今はナタリア殿下付きの侍女をさせていただいてます』
そう言ってお辞儀をすれば、知り合いだったのか、とルーク様から声が上がった。
「そう言えば、リュリは元々ローレライ教団に勤めて居たのでしたわね」
「えっ、そうなのか!?」
そう驚いた様子で聞くルーク様にヴァンは、ああと頷いて見せた。
「っと、そろそろ私は行かねば。船の時間があるのでこれにて失礼させていただきます」
失礼、とナタリア殿下に頭を下げれば、ええ〜とルーク様が声を上げた。
「師匠もう行っちゃうのかよー!!」
「ああ。それから暫くは、稽古に来られない」
「えっ、なんでだよ!?」
「ケセドニア北部の戦争に、
「ええ〜っ!」
それ、機密情報じゃないのか?いいのか?まあ、ルーク様もナタリア殿下もキムラスカの王族だし、そのうち知るからいいのか。
「だが、稽古は怠らないように。では、私はこれにして失礼します」
ぺこりと、頭を下げてヴァンは庭を出ていった。
「はあ〜あ。師匠暫く来ないのかよ。つまんねー」
嘆くルーク様を見て、ナタリア殿下がハア、と一つため息を吐いた。
「貴方は子供頃から本当にヴァンがお好きですわね……」
ナタリア殿下の可愛らしい嫉妬なのだが、それに気づいていないルーク様は、疲れたー!と叫んで、ナタリア殿下の隣に乱暴に腰掛け足を前に放り出し、背中をベンチの背もたれにだらんと預けた。
「ルーク!はしたないですわよ!」
「んだよ、うっせぇなぁ……疲れてんだからしょうがねぇだろ」
それを見たガイが、あちゃ〜というように空いた手で頭を抑えた。
「疲れているからといって、王族が人前でそのような格好を見せてはいけません!」
これはいつもの口喧嘩が始まるな、と思いガイに声をかける。
『バスケットを開けてもらっていいですか?』
「ん?ああ」
ピクニックバスケットを抱き抱えるように持ち、上蓋を止める金具をガイはパチパチと外していく。
やんややんや、とお小言を言っているナタリア殿下に、ルーク様はうんざりしたような顔をしている。
『お二人共、一旦お茶にしませんか?』
「さっすが、リュリ!気が利くじゃねぇか」
ナイス、と言わんばかりに高らかに言うルークに、ナタリア殿下は、むすっと頬を膨らませた。
『ふふ、気が利くのは私じゃなくて、ナタリア殿下ですよ。殿下が、稽古を頑張っているルーク様に差し入れをと仰られて、私はお持ちしただけです』
「へぇ〜」
意外だというようにナタリア殿下をルーク様が見つめるが、殿下は未だに怒ったようすだ。
「なあ、リュリ、これ注いでいいのかい?」
そう言ったガイの手にはボトルとグラス。
お願いします、と頷けば、彼はグラスにボトルの中身を注いでいった。
「お茶なのに温かくねぇのか?」
グラスに入る茶色い液体を眺めながらルークが不思議そうにしている。
キムラスカではあまり冷たいお茶を飲む文化ではないから、ティーカップでなくグラスに入ってるのは初めて見たのだろう。
「ラーデシア大陸の方では冷たいお茶を飲む文化がありますのよ。わたくしに教えてくださったのは貴方でしたのに……、それも覚えていらっしゃいませんのね」
しゅん、とするナタリア殿下に、ルークが困ったようにしょうがねぇだろ…と呟いた。
「ほらほら、お二人共。そんな辛気臭い顔をしてたらせっかくのお茶も美味くなくなりますよ」
リュリと、手早く私の名を呼んだガイは、ガタガタと震える腕を伸ばし、お茶の入ったグラスをこちらに向けた。
それをできるだけ、ひぃ、と小さく悲鳴を上げているガイの手に触れないようにして受け取ると、彼はすぐさま手を引っ込めて、ふぅ、と一つ大きなため息を吐いた。
テーブルがある所だったら置いて受け渡しが出来たけど、流石に王族に渡すグラスを庭の上におく訳にもいかなかったからね。女性恐怖症なのに良くがんばったよ。
『ナタリア殿下。どうぞ』
「ルーク様も」
2人がそれぞれの従者からお茶を受け取る。
「ありがとうございますわ」
「…おお、本当に冷てぇ。よし、」
そう言ってルーク様は、グラスに口をつけてごくごくとそれを飲み出した。
「なんだこれ、うめぇー!」
それを聞いてナタリア殿下も1口お茶を飲んだ。
「まあ!本当に美味しいですわ。後味がスッキリとしていて……、以前飲んだ冷たい紅茶とはまた全然違いますわ」
『ありがとうございます。ルーク様が稽古後で汗をかかれるならスッキリとした味わいの方が良いかと思い、今回は水出しした紅茶にハーブとレモンを一緒に漬け込んでおいたんです。あとはそれを##RUBY#音素#フォニム##式冷凍庫で冷して……』
「ハーブとレモン。味も香りも良くて素晴らしいですわ」
ナタリア殿下の反応に、ガイがへぇと頷いている。
「ガイも飲んでみろよ!マジで美味いぜ!」
「そうですわね。リュリまだグラスはありますでしょう?」
『はい。予備がありますよ』
「え、いや、俺は……」
困ったように眉を下げたガイに、どうしたんだろうと首を傾げる。
紅茶は前にも飲んでいたし…。
『もしかして、ハーブが苦手です?』
「あーいや、どちらかと言うとレモンがね…」
アハハと乾いた笑い声を上げる。なるほどルーク様がいる手前、自分の好き嫌いをあまり言えないのか。教育係だから、好き嫌いするな、と言う立場だもんね。
「へぇ、お前、レモン嫌いだったのか」
「まあ。好き嫌いはよくありませんわよ?」
「分かってはいるんですけどね……」
『苦手な物はどうしても無理ですよね。次に作る時はガイのはレモン入れずに作りましょうね』
ガイが、助かる、と頷き、ナタリア殿下はじろりとこちらを見た。
「だから貴女は甘すぎですわよ」
他人に甘い女
『じゃあ殿下の今日のお夕食にタコを用意してもらいましょうか?』
「わたくしが悪かったですわ」
『冗談ですよ』