外殻大地編
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アニスという子が先に向かったカイツールにはヴァンも待っていて、私とガイ、そしてルーク様用のキムラスカへ渡るための旅券を受け取ってくれているはず。
そして、そのカイツールに向かうのには本来ならばセントビナーから南下して街道沿いに架かる橋を渡ってアクゼリュスを経由して行くのだけれど、災害でフーブラス橋が落ちてからその道は使えないらしい。
と、いうわけで我々は今、フーブラス橋より西側のフーブラス川に来ていた。
季節的に水流も穏やかで水かさも高くない。その上、カイツールまで最短距離で行けるときた。
「ここを超えれば、すぐキムラスカ領なんだよな」
「ああ。フーブラス川を渡って少し行くとカイツールっていう街がある。あの辺りは非武装地帯なんだ」
「早く帰りてぇ……」
ルーク様のぼやきに本当にそう、と思う。
「もういろんなことがめんどくせー」
「ご主人様、頑張るですの。元気だすですの」
「おめーはうぜーからしゃべるなっつーの!」
ダルそうにするルーク様にミュウが近寄れば足蹴にされた。
「みゅう……」
「八つ当たりはやめて。ミュウが可哀想だわ」
「ルーク。面倒に巻き込んですみません」
ティアが咎め、イオンが謝罪すればルーク様は、ちっ……と舌打ちしてミュウを足蹴にするのをやめた。
「さあ。ルークのわがままも終わったようですし行きましょうか」
「わがままってなんだよ!」
ルーク様の言葉を無視してジェイドはそのままスタスタと流れる川の方へ歩いていく。
「無視すんな、こら!」
そう言ってルーク様は子供っぽく地団駄を踏んだ。
「そういえばリュリ。先程から静かですが何かありましたか?」
常日頃から守られる立場だからだろうか、周りの些細な行動に導師は敏感のようで、こちらを見た。
『あ、いえ……』
「なんだよお前……なんか顔色悪ぃな?大丈夫か?」
導師につられてこちらを見たルーク様がそう言えば、ガイが、あっ、と呟いた。
「そうか。キミは水が苦手だったな」
「はあ?そうなのかよ」
「ご主人様、ミュウも泳げないですの!」
「お前には聞いてねぇつーの!」
そう言ってルーク様がミュウを蹴り飛ばせば、こら!とティアが怒った。
「で、お前、水が怖いのか?」
『お恥ずかしながら……。でも、大丈夫です。お風呂やシャワーもどうにか慣れましたし、海ではないですし、この時期はフーブラス川は水かさが浅いとジェイドも言っていましたし!海ではないですし!』
「とにかく海はダメなんだな」
「だからって大丈夫ってわけじゃないだろう?震えてるぜ?」
ガイの言葉に、うっ、と詰まってしまう。
「怖いものは怖い。そうだろ?」
女性恐怖症である彼だからこその言葉だ。
「ジェイドのやつは知ってたんだろ?お前が水が苦手って」
ひでぇ奴とルーク様は、先で我々を待つジェイドを見つめた。
『はい。ですが、まあ、カイツールに向かうにはこの道しかないので、有無を言ったところでどうにもなりませんよ』
言ったところでニコニコ笑って、頑張って下さいと言われるのが落ちだ。
「たっく、しょうがねぇな」
ほら、とルーク様は左手を出てきた。
『え?』
「引っ張ってってやるよ。そしたらちっとは怖くねーだろ」
『ルーク様……!ありがとうございます』
向けられた善意を有難く受け取ってその手を取る。
温かい手のひらだった。この優しい手が、血に染る事を選んだなんて……。
出来ることなら、彼が帰るまでの間にこれ以上、人と戦うことが無いことを願う。
「ご主人様!ミュウも怖いですの!」
「ティアにでも抱えてもらえっつーの!」
「えっ!」
めげずにルーク様の足元に戻ってきたミュウが振り払われたが、名指し出されたティアは、どことなしか嬉しそうだ。
「ガイ?どうしたんですか、手を見つめて」
導師に聞かれたガイは、見つめていた自分の右手をスッと下げた。
「なんでもないさ。旦那が待ちくたびれる前に行こうぜ」
ガイ自身、それが何故なのか分からぬまま、ジェイドを追って先に進むのだった。
震える手
根付いた恐怖には逆らえなかった。
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