外殻大地編
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『ちょっと、待ってくださいね……っ、…』
そう言って、ぜーはー、と肩で息をする。
時速何十キロも出るタルタロスを人間の足で追いかけたのだ、疲れた。途中さすがに見失ったが、進んでいた東の方へと向かえばシュレーの丘の近くにタルタロスは止まっていた。
『…はっ、…よし。もう大丈夫です。行きましょう』
呼吸を落ち着かせてガイに言う。ガイの方はあれだけ走ったというのにケロッとしている。
「もう少し休憩しても大丈夫だよ。俺のペースで走らせちまったから、キツかったろ」
正直ガイの足が速すぎてついて行くのやっとだった。ガイは股下も長いから歩幅も広いし速いよねって感じだ。
『いえ、これでも元軍人です。このような事で泣き言はいいません。それにルーク様を早く救出しなくては』
そう返せば、ガイにお堅いねぇと呟かれた。
「無理はするなよ?」
はい、と返事をし、周囲を確認する。
「流石にハッチは、警備兵が居るな」
『まあ、どこから入っても兵士だらけでしょうが……出来れば正面衝突は避けたいですね』
「と、なるとだ。あのタラップからが良さそうだな」
そっと移動して、木陰からショットガンを向ける。
『行きますよ、いいですか?』
「ああ、いつでもいけるぜ」
狙いを定め、トリガーを引く。
発砲音がして飛んだ弾が1人の兵士の頭に当り、兵士はそのまま後ろに倒れた。
甲冑を被っているから死にはしないだろうが、ヘッドショットだ。脳震盪で暫くは起きれないだろう。
「何っ、…ぐあっ!」
もう1人の兵士が異常に気が付いた瞬間、草陰から飛び出したガイがその兵士を切り伏せた。
「悪いな」
『ガイ、早く』
ショットガンの発砲音で他の兵が気づくかも知れないので、急いでタルタロスのタラップに向かい梯子に手をかける。
カンカンカンと響く鉄の梯子を登り、頂上でそっと頭を出す。
見張りの兵は居ないが…。
『ガイ。ライガとグリフォンが占領してます。兵は居ないようです』
「えっ、ああ、わかったから。早く上がってくれ!」
下のガイを見て声をかければ、上を見上げていた彼は慌てたようにそっぽを向いた。
『ああ。なるほど、ドロワーズ履いてますよ』
だからパンツは見えませんよ、という意味を含めて声をかけて、先に上に登れば、覗くつもりじゃなかった!などの言い訳をしながらガイも上に登ってきた。
「あれは不可抗力で、『はいはい。それより、ルーク様はどこでしょうかね』
言い訳するガイをスルーして辺りをキョロキョロと見渡せば、ガイはがっくしと肩を下ろした。
『やはり牢でしょうか』
これだけ大きな戦艦なら敵兵を捉えたりするためや、規則を破った兵の懲罰用の牢屋が備えられて居るだろう。
「牢屋か…、さすがに内部構造までは分からないから、手探りで探すしか…」
『そうですね…』
行こうと歩出した時だった。ドゴンッという爆発音と金属が凹むような音が混じりあって聞こえた。
「なんだっ、」
『向こう側でしたね』
私たちのいる所とは真反対から聞こえた。
様子を見に行きたいが、同じように見に行く
『マストを登って上から様子を伺うのがいいかもしれません』
この戦艦は水陸両用、海を渡るための帆が張ってある。そのためマストが立てられている。
「そうすると、甲板に出ないとだな。兵や魔物に気をつけてくれ」
行くぞ、とガイが先行して歩きだした。
その後を追う。艦のあちらこちらに、死体が転がっている。
不思議なのだが、ガイは一切驚いていない。これだけの死体が転がっていれば、一般人ならまず驚きや嫌悪を示すはずだ。
『ガイはいつからファブレ家で働くようになったんですか?』
「え、なんだい突然?…えっーと、7、8歳の頃だったと思うけど…」
その頃からファブレ家の使用人をしていたのなら、少年兵の経験があるわけでもなさそうだ。
『十年以上仕えているんですね』
「…、ああ」
何となくガイの声色が変わった気がした。
近くに敵兵がいるのかと思い、口を閉じて感知する。いや、この辺りには居ないな。
「リュリも城に入って結構経つよな」
『そうですね。もう5年ですね』
「5年かー。時が経つのは早いな」
しみじみとガイが言う。確かに、最初にあった頃はガイもまだ16歳の子供だった。その子供が赤ちゃんのように戻ってしまったルーク様の面倒を見てたのだ、大変だっただろう。
よしよし、と頭を撫でてあげたいところだが、そうしたらガイが叫びかねないので、寸前で伸ばそうとした手を引っ込めた。
『ガイも大人になりましたね。お姉さんは感慨深いですよ』
「なんだよ。2つしか違わないし、5年前はリュリもまだ成人前だったろ」
『そうですけど、たまには私もお姉さんぶりたいのですよ』
そう言えば、なんだそれ、とガイに笑われた。
「君はいつでも、ルークやナタリア様のお姉さんしてるじゃないか」
そうだろうか?そうだと嬉しい。
話ながらも甲板を抜け、マストを登っていく。今度は俺が先に登るから、とガイが主張し、先にハシゴに手をかけていった。
「よし、見張りの兵は居ないな」
ガイに続いて1番上まで上がったが、凄く見晴らしがいい。
『あまり、兵はいなかったですね』
生きた兵は、だが。
『たしかタルタロスは操縦に6名いるんでしたっけ。元々少数で襲ってきてるのもあるにしろ、操縦に人数を取られてるにしろ、少ないですね。見張りが取れないほどやられてしまったんでしょうかね』
「どうだろうな」
マルクト兵も最大人数の600名は流石に乗ってないだろうが、それでも死体の数からいって相当乗ってただろうから、いくら魔物との混合部隊といえ、マルクト兵に抵抗されて神託の盾兵も減っただろう。
『さて、と』
周囲感知を広げてみる。
『ああ、なるほど。
あちら、見てください、と指を指す。
東方面から、少数部隊がタルタロスに向かってきていた。
「なるほど、タルタロスを離れていたのか。けど、アレは……子供か?少年兵って感じじゃないが……」
子供……、思っていたほど小さな子でははなさそうだが、3人の人間に1人だけ連行される形で、歩いてる様子が伺える。
『…子供を攫ってきたんでしょうか?』
「けど、この辺あるのはシュレーの丘くらいだぜ?セントビナーやエンゲーブはだいぶ距離あるしな」
そうですよね、と考える。人の住む街からはだいぶ離れている。
「非常
凛とした女性の声だ。
「了解」
女性の命令に従って彼女の傍にいた兵士がガシャンガシャンと鎧の音を立てながら動く。
女性は鎧を着ていないようだから一兵卒ではなさそうだ。響長以上は確定か。
ガイと2人、黙って様子を伺っていると、左舷ハッチにスロープが降ろされた。その上を兵士が登って、
「おらぁ!火出せぇっ!」
ハッチが開いた瞬間、聞き覚えのある声がした。
ここからだとよく見えないが、おそらくルーク様で彼が立っているであろう入口から炎が出て、それに焼かれた兵士はスロープを転げ落ちた。
次の瞬間、
上空へ飛び出した塊は人のようで、それが女性に向かって槍を投げ牽制した。
女性がバックステップで槍を避ければ、先程まで彼女が居た足ともに槍が刺さり、そして消えた。
『…、今のは…!』
「さすがジェイド・カーティス。譜術を封じても侮れないな」
女性がそう言えば、男性の声でお褒めに預かり光栄です、と返すのが聞こえた。
『ジェイドだ』
「知り合いなのか?」
ガイに、はい、と頷く。
女性が呼んだ名も、声の主もよく知っている。
彼がルーク様とどういう事情で一緒にいるかわからないが、協力すればここから無事に連れ帰れるかもしれない。
「さぁ、武器を捨てなさい」
ジェイドの言葉に女性が従って手に持っていた二丁拳銃を地面に落とした。
「ティア、譜歌を!」
「ティア…?ティア・グランツか………!」
「リグレット教官!」
ジェイドたちにはまだ仲間がいたようで、スロープに髪の長い女性が立っていた。
その彼女の後ろから雷撃が飛んでくる。彼女は早く察知し、横に飛んで避けた。
スロープの上にライガがいた。この魔物が雷撃を放ったのだろう。
そして今の間に戦況が変わった。リグレット教官と呼ばれた女性がジェイドの拘束から抜け、後ろにいた捕虜の子供らしき者を人質に取った。
「おいおい、まじかよ……」
形勢逆転、いつの間にか拾った銃をリグレットがジェイドとティアと呼ばれていた女性に向け、火を吐かれ転がっていたはずの
『ガイ』
名を呼べば、彼はああ、と頷いた。
「行くか」
そう言ったガイは、助走を付けるため少し後ろに下がったあとヤードの上を駆けて飛んだ。
今日の天気は晴れ時々
ガイ、ってね。