2019年
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『よし、つくしちゃん出来たよ』
そう言って手鏡を渡して、それを覗き込んだつくしちゃんは、わぁ!と顔を綻ばせた。
「ありがとうございます!梅雨ちゃん!」
可愛い魔女の格好をしたつくしちゃんから、お化粧して欲しいとお願いされて、まだ中学生だし必要ないのでは?とも思ったが断る理由もないので引き受けた次第である。
元の素材がとても良いので、お化粧はほんの少しだけだ。それでも随分とお気に召してくれたようで、つくしちゃんは鏡を覗いてニコニコと笑っている。
「おや、大谷さんはお化粧したのかい?すごく似合ってるね」
その凛としたアルトボイスに振り返れば、アフロディこと亜風炉照美が神父の衣装に身を包んだ姿で入口に立っていた。
「ありがとうございます!梅雨ちゃんにやってもらったんですよ」
「へぇ、器用なものだね。梅雨さん、僕も頼んでいいかな?」
そう言いながら近づいてきたアフロディに思わず、えっ?と聞き返した。
だって君その顔なら化粧なんかいらないでしょ。つくしちゃんもそうだけどさ。
「特殊メイクみたいなのは出来ないかい?ほら、振り返ったら顔が血まみれだったみたいな感じにしたいんだけど」
『あ、ああ...』
なるほど。そういうメイクか。
『さすがにやった事ないな。そもそも道具がないし』
「そっか。一応血糊は用意してきたんだけどな」
「用意周到ですね」
「こういうのはやるなら全力で楽しまないとね」
アフロディの言葉にわかりますー!とつくしちゃんが同意している。
「ダメかな?」
アフロディは綺麗な顔をしゅんとさせて、小首を傾げる仕草をしてみせる。
くっそ、子犬みたいな顔しやがって!!
スマホを手に取り、[ハロウィン 血糊 メイク]で検索を掛けてみる。
意外とお手本動画が出てくるな。
『見よう見まねでやるから、上手くいかないかもよ?』
「ふふ、失敗したからって怒ったりはしないさ」
『なら、いいけど』
やったね、なんて小さく呟くアフロディを見て、ここどうぞ、とつくしちゃんが座っていた席を譲る。
「水津ちゃん。私は先に会場の準備に向かいますね!」
『あ、うん。私も終わったら手伝いに行くよ』
「ありがとうございます!でも、急がなくても大丈夫ですよ〜。アフロディくんのメイク見るの楽しみにしてますね!」
それじゃあ、と元気よくお辞儀をして去っていくつくしちゃんに手を振りその背中が去っていくのを見送った。
「ふふ、可愛らしいね」
『ね〜』
つくしちゃんを見てると元気を分けてもらえる気分になるね。
『さてと、アフロディはどんなのがいいの?』
「そうだね、頭からこうたらーって血を流してる感じがいいね」
『なるほどね』
スマホの画面をスワイプして、イナチューブに上がっている動画で適したものを探していく。
『あ、これ良さそう』
「見せて」
ずいと顔を寄せてきた彼にも見えるようにスマホを傾けて動画を再生してみる。
道具も今あるもので十分足りそうだし手順も簡単そうだ。
「いいね」
『じゃあ、これをお手本にやってみますか』
「ああ、よろしく頼むよ」
覗くために折り曲げていた腰を戻して真っ直ぐ姿勢よく座り直したアフロディの顔にまずはコットンに染み込ませた化粧水と乳液をそれぞれ塗りたくっていく。
それから下地を塗って、その上からファンデーションではなくベビーパウダーをはたいていく。元々色白さんだけど、血色悪く見せるための手法らしいのでどんどん粉をはたく。
『よし。じゃあ、次は目元だね。アフロディ目を瞑って』
「はい」
目を伏せた状態になり更によく分かるがまつ毛長いな。黙ってれば本当に美少女だと思ってしまうわ。これで男って...女やめたくなるな。
アイシャドウの黒を指に取って右目の周りをパンダになるように指先でトントンと馴染ませながら付けていく。
痣のように見せたいので、茶色のアイシャドウでパンダにした縁をぼかすように広げていき、鼻筋に近い方は紫のアイシャドウを混ぜて付けていく。
『ふむ。目開けていいよ』
ぱちぱちと2、3回瞬きをしたアフロディに手鏡を渡して見せてみる。
「わ、すごいね。殴られた痕みたいだね」
美人は痣があっても美人なんだな。ニコニコと楽しそうに手鏡を覗いてるアフロディを見てそう思いつつ、血糊の用意をする。
自分の左の手の甲に血糊を取って、パレット代わりにする。
『さ、血糊の出番だよ』
綿棒にグリグリと血糊を染み込ませて、アフロディの顔面の左側に、生え際から血糊を塗っていく。
『あとは口紅だね』
失礼と、アフロディの顎を左手でクイッと掬って反対の手で赤のグロスと黒のリップを合わせて使って赤黒く染めていく。その工程の間、何故だかアフロディはじっと私の顔を見つめてきた。
『なに?』
「いや、真剣な表情だなって」
『そりゃあ、こんな綺麗なお顔に下手なメイクは出来ないからね』
「ふふ、ありがとう。梅雨さんは僕の顔が好きだよね」
ニコニコと笑っている彼は嫌味でなくおそらく本心でそう言っているので、そうですね!!と強めの口調で返しておく。美少女も美少年も目の保養じゃい!!
ふいに、アフロディはニコニコとした顔をやめて、紅を指に取っていた私の右手首を掴んだ。
「好きなのは顔だけ?」
真剣な顔して言うものだから、思わず息を飲む。
『...。知ってるくせに』
顔を逸らしてそう言えば、アフロディは可笑しそうにくすくすと笑いだした。
「ごめんごめん。少し意地悪したくなったんだ」
『ふーーーん』
つーん、とそのままそっぽを向いていれば、先程私がしたようにアフロディは右手で私の顎を掴んで自分の方へと向けた。そしてそのまま、その赤黒く光った口でがぶり、と噛み付くように唇を押し付けてきた。
『んっ!』
突然の事に驚いて、掴まれていない左手でアフロディの胸板を押すがピクリともしない。女の子みたいな顔をしてる彼だが、こういうところで男女の差を感じさせられる。
「ん、」
『...ふっ、...んっ、』
貪りつくように唇を押し付けてくる彼に対し、苦しくなってドンドンと胸を叩けばやっと解放される。
垂れた唾液を手の甲で拭いながらキッと睨みつければ、アフロディは名残惜しそうな顔をしていた。
『はっ、アホ...アホロデイ!!口紅付いちゃうじゃない!!』
せっかく綺麗にリップ引いたのに台無しだわ。
「ふふ、ごめん。可愛かったからつい」
『ついじゃない!!』
「けっこう口紅移っちゃうんだね」
そう言って、アフロディは私の唇を指先でなぞる。
「なんか、いいね」
『いや、なんもよくないが!!』
怒ってぽかぽかと胸を叩けば、アフロディはハハハと笑っている。
「梅雨さんのこの衣装シスターでしょう」
『そーですよー』
「僕に合わせて?」
『君がその格好なのはさっき知った』
「あれ、じゃあたまたまか」
『自意識過剰がすぎるんじゃないですかー』
いやまあ本当を言うと、アフロディは元自称神だしそれっぽい衣装で来るかなと思って、神に祈りを捧げるものとして安直にシスターを選んだのは確かだ。まさかアフロディが神父できておそろいっぽくなるとは思ってもいなかったが。
「そうかな。まあ、図らずともお揃いになったってのは嬉しいよね」
好きな人とお揃いで嬉しくないわけが無い。
『さあね』
なんて可愛くない返事を返せば、アフロディはくすりと笑った。
「今日の梅雨さんはお菓子あげてないから意地悪なのかな」
『いや、意地悪なのは君の方だし』
「お菓子もらってないからね」
そう言って今度は頭ごと引き寄せられて、再び唇を啄まれるのだった。
ハロウィンメイク
『もうこれ口紅どうすんのよ』
「ふふ、血糊で上手に誤魔化してよ」