2019年
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自分1人の部室内にカリカリとボールペンがノートに擦れる音が響く。
最後に句点を書いて...。よし完成。
ノートをパタンと閉じてサッカー部活動日誌と書かれた表紙を指でなぞる。
「終わったか」
『うん。...って、あれ、鬼道帰ったんじゃないの?』
てっきり皆と一緒に帰ったんだと思っていたが。
『ああ、もしかしてお迎え待ち?』
鬼道は金持ちボンボンだから黒塗りの車で送り迎えの日がある。今日もその日だろうと思い訊ねれば彼は首を振った。
「いや、今日は歩きだ」
『あら?そうなの?』
ならなんでここに居るのだろうか。
考えられるとすれば...。
『忘れ物?』
「いや」
じゃあなんで?と首を傾げれば、鬼道は、まるで察しろと言わんばかりに、はあ...と大きくため息を吐いた。
「お前を待っていたんだが」
『ああ、そういう事』
口下手と言うかなんというか。普段はあんなに口が立つのに色恋沙汰に関しては本当に奥手だな。
『もっと早くに一緒に帰ろうって言ってくれれば、さっさと日誌書いたのに』
くすくす、と笑ってそう言えば、鬼道は何処か罰が悪そうに顔を逸らし、壁に掛けていた部室の鍵を手に取った。
「暗くなる前に帰るぞ」
『はいはい』
日誌をロッカーに閉まって、スクールバッグを方に提げて窓がちゃんと閉まってるか確認する。
『よし、帰ろうか』
部室の扉をしっかりと施錠して鍵を職員室に返す。その間に昇降口で待ってていいよと伝えたが、いや、と言って着いてきた鬼道のいじらしさに笑っていれば、彼は少しむすっとした様子でなんだと言っていてそれがまた可愛らしい。
機嫌を取るかのように鬼道の左手に自分の右手をするりと絡ませて、そのまま昇降口を出る。
「おい。せめて校内を出てからにしろ」
『なぁに?鬼道クン恥ずかしいの??』
ニタニタと笑ってそう言えば、鬼道はぐっ、と苦虫を噛み潰したような顔をした。いやゴーグルしてるからよく分からないが多分そんな感じの声をだした。
それにしても手を繋ぐこと自体は否定しないところがまた可愛らしくて意地悪を言いたくなるなぁ。
『それとも、私と手を繋ぐのは嫌?』
「......嫌なら早々に振りほどいてる」
ぼそりとそう言って鬼道は絡めた手を力強く握って、私を引っ張ってそのままずんずんと校門をくぐり抜けていく。全く持って可愛らしい反応にニヤニヤが止まらないんだがどうしてくれようか。
『きどー』
「...なんだその気の抜けた呼び方は」
歩くスピードを少し落として、こちらを見た鬼道に自分の空いた左手を差し出す。
『とりっくおあとりーと』
「また唐突だな」
『うん、今日ハロウィンだったでしょ。うちのクラス夏未ちゃんがいるから、そういうの一切出来なかったから』
「ああ、なるほどな」
校内に不必要なものを持ってくるんじゃありません!と没収されてる子を今日は何人も見かけた。
無論部活でも夏未ちゃんの目が光っているので、サッカー部内でもなかった。
『ちょっと言ってみたかっただけだから気にしないで』
「いや、少し待っていろ」
そう言って鬼道は繋いでいた手を離して自身のスクールバッグを開けた。
右手から温もりが消え寂しいな、とぐっぱぐっぱと握ったり開いたりしているとその手の上に小さい包みが乗せられる。その小さな包みに刻まれたブランド名を見て、あっこれお高いチョコレートだ、と察する。
「なんだ、気に入らなかったか?」
『いや、ありがとう。頂くよ』
しかし勿体ないから家に帰ってじっくりと頂こう。なんか食べ歩きしていい物じゃない気がする。そう思ってチョコレートはポケットに仕舞う。
『けど意外だったな。鬼道はこういう行事興味ないと思ってたけど』
「興味があったわけではないがおそらく、春奈が言ってくるだろとは思っていたからな」
『ああ、なるほど』
流石お兄ちゃん。春奈ちゃんはこういった行事好きだもんなぁ。
感心していれば鬼道は先程私がしたように、手を差し出してきた。
「水津、Trick or Treat」
フッ、と笑いながら言うその様は、まるで帝国学園時代の彼そのものである。本当にあくどい顔が似合うな鬼道は。
『仕方がないな』
そう言いながら先程ポケットにしまった鬼道から貰ったチョコレートを取り出せば、そればダメだとデコピンされた。痛い。
『これ以外は持ってないよ』
先程言った通り、夏未ちゃんに没収されてしまうので菓子なんて持ってきていない。
「そうか。ならば悪戯だな」
随分と愉快そうに笑う鬼道を見て、これはわざと今聞いたなと頭を抱える。
『持ってないの分かってて言うの卑怯じゃない?』
「お前もさっき、俺が持ってないだろうと思って言っていただろう」
『うん、まあね』
それを言われたらそうだわ。
『しょうがないなぁ。ほれ、悪戯してみ』
「随分と潔がいいな?それにしてみと言われてもな...」
そう言って鬼道は顎に手を置き、ふむ、と真剣な顔をして考え出した。
『悪戯なにするか、なんにも考えてなかったの?』
「ああ。悪戯と言われて嫌がる素振りを楽しもうと思っていたが、あっさりと受け入れられてしまったしな」
『わぁお、性格悪いね』
まあ、そういう所も含めて好きなのだけれど。
未だに、悩んでいる様子なのだが、ハロウィンの悪戯でそんなに真剣にならんでも。
『簡単なので良くない?擽るとかさ』
「いや、お前はそういうのぜんぜん効かなそうだろう」
『えー』
鬼道は一体私にどういうイメージ抱いてるの。私だってくすぐったいものはくすぐったいわ。
「そうだな...。なら、来週の日曜日の予定を空けておけ」
『何それ、週挟んでの悪戯とか怖っ。鬼道財閥総動員でなんかするとかやめてね』
「するか」
こつん、拳で軽く頭を小突かれる。
「前に新しく出来たスイパラ?だったか?行きたいと言っていただろう。そこに行くだけだ」
ん...???
確かにこないだそういう話はしたな。
『つまり、デートのお誘いってこと?』
「まあ、そういう事だ」
『なんだそれ、ぜんぜん悪戯じゃないじゃない』
ケラケラと笑って彼の手を取る。
「望みなら、ちゃんとした悪戯も考えるが?」
どうだ?とニヒルに笑って言う鬼道にいやいやと首を振る。
『来週の日曜日ね!おーけいおーけい!予定バッチリ空けとくね』
さー、帰ろう!と白々しく彼の手を引っ張って歩き出せば後ろから残念だな、と笑いを含んだ声が聞こえた。
ハロウィンは口実に
トリートよりもデート!トリックはノーサンキューで!