2019年
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『はぇ~涼し〜』
自動ドアをくぐって、キンキンに冷えたスーパーの店内に入ってカゴを手に取る。
炎天下の中歩いてきたので、スーパーの中は天国のようだ。
今日から3日間、お盆休みで木枯らし荘の管理人のヨネさんがご実家に帰られているので、久々の1人暮しである。ご飯も作るのは私が学校休みの日は自分でやっていたが、食べるのはヨネさんと一緒だったので、なんというか、ちょっと寂しい気もする。
さて、とりあえず売り場の安いものを見て今日の晩御飯を決めよう。
まずは入ってすぐの青果コーナーを見て回る。
『おっ、』
今日は結構野菜が安いな。
そうだなぁ、とりあえず玉ねぎ、人参、じゃがいもは何にでも使えるし、買っといて...。
ふむ、カボチャやナスやオクラなんかも夏野菜も旬だしいいな。
今日の晩は夏野菜カレーにして、明日のお昼はそれの残りでカレーうどんにでもしようかなぁ?
とりあえずどんどんとカゴに野菜を入れていく。
あと隠し味にりんごは鉄板だよね。半分ほどすりおろして使って後はおやつにでも食べよう。
同じ青果コーナーにあるりんごを手にとってカゴに入れた。
『あとはちょっとお肉のものも入れたいよね〜』
関東はカレーに豚肉派が多いんだっけ??
でもまあ、うちはビーフカレー派なんだよね。
精肉コーナーで牛肉のカットブロックを手に取りカゴにいれる。
『あとは、カレールーと、パウダー欲しいな』
生鮮食品売り場を抜けて、カレールーを探して店内をウロウロする。
「おにーちゃん!おやつかってもいい?」
「ああ。一つだけだぞ」
「はーい!」
「あっ、こら!走ったら...!」
そんな声がして、棚の横から飛び出してきた小さな女の子にぶつかりそうになった。
『おっと、』
「わっ!!びっくりした」
「夕香!走ったらダメだろう!...すみません!」
飛び出してきた女の子の後ろから少年がやって来て頭を下げる。
その白いツンツン髪に、あれ?と首を傾げる。
『豪炎寺?』
そう、名前を呼べは少年はえっ?と顔をあげた。
「水津...」
「おにいちゃんのしりあい?」
女の子はきょとんとした顔で豪炎寺を見上げている。
『ああ〜、この子、豪炎寺の妹さんだったのか』
「ああ、妹の夕香だ。夕香、飛び出したことちゃんと謝らないと」
「はーい、ごめんなさい...」
豪炎寺に促されて、ぺこりと夕香ちゃんは頭を下げた。
『ううん、いいのよ。ただもうお店で走っちゃダメだよ』
よしよしと夕香ちゃんの頭を撫でる。
「はーい!」
『豪炎寺は兄妹でお買い物?』
そう声をかけつつ、通り道の邪魔にならないように隅に避ける。
「ああ、今日は家に俺と夕香だけでな。そういう水津は?」
『私は晩御飯の買い物』
「そうか。水津は一人暮らしだったな」
『まあ、アパートの管理人さんが心配してくれて、普段は一緒ご飯食べるから一人暮らし感あんまりないんだけどね〜』
一応自室にも簡易キッチンがあるが、1回がアパートの共同スペースに談話室とキッチンが備えられているので普段はそこでヨネさんとご飯を食べている。
「わ、おねえちゃんのカゴ、おやさいいっぱいだね!」
「あ、こら夕香」
私の手に持つカゴを勝手に覗いた夕香ちゃんを豪炎寺が叱る。
「ゆうかね〜、ピーマンも、ナスも、みーんなたべられるんだよっ」
豪炎寺のお叱り意味は分からなかったようで、夕香ちゃんはマイペースに自分の話を始めた。
『そうなの?すごいね〜。ピーマン苦手な子も多いのにね』
「うん、えりちゃんもみかちゃんも、ピーマンきらいなの!」
偉いね、ともう一度よしよしと頭撫でる。
すまないな、と豪炎寺が小さく呟いたのでいいよいいよと手をふる。
「おねーちゃんはこのおやさいなににするの?」
『んー?このお野菜で夏野菜カレーを作るよ〜』
「カレー!いいな!!おにーちゃん!!ゆうかもカレーたべたい!!」
「ああ、じゃあ、そうするか?」
豪炎寺が聞けば夕香ちゃんは元気よく、うんっ!と頷いた。
「なら、買うのは玉ねぎと人参、じゃがいもと...」
豪炎寺が買うものを口ずさむと、夕香ちゃんは彼のズボンをぐいぐいと、引っ張った。
「ゆうかたちもなつやさいカレーにしようよ〜!!」
「あー。いや、それは荷物持って帰るのが大変だぞ?」
あ、なるほど。片手は夕香ちゃんの手を握らないといけないし、大荷物では帰れないのか。
「ゆうかも、もつのてつだうから!!」
「いや、しかしな...。たくさん買っても2人分しかいらないから、残りの消費もできないしな」
確かに、バラ売りの野菜もあるけどカボチャとか1/4サイズでも2人では結構な量になるよね。
私は残った野菜は後日、別の料理に使う予定だが、今日だけの分の買い物しかしないのなら余計なものだよね。
確か、豪炎寺ん家って家政婦さんがいるから、普段は家政婦さんがご飯用意してくれてるんだろうし、恐らく今日だけ、お盆休みとかでいないんだろうなぁ、とぼんやり考える。
「やだやだ!!ゆうかもなつやさいカレーがいい!!」
「夕香...」
困ったな、と豪炎寺は頬をかいた。
その様子をみて1つ思いつく。
『なら、うちで一緒に食べる??』
「は?」
「たべる!」
ポカンとする豪炎寺と反対に夕香ちゃんは、ぱぁあっと顔を輝かせた。
「おい、夕香」
「おにーちゃん!おねーちゃんち、ゆうかいきたい!!」
「いや、それは...。いいのか?」
ちらり、と豪炎寺が様子を伺うように私を見た。
『ええ。その代わりカレー作るのお手伝いして欲しいな』
そう言えば、豪炎寺は少し悩む素振りを見せてそれから頷いた。
「わかった。よろしく頼む」
「ここがおねーちゃんち?」
『そうだよ』
スーパーの荷物をそれぞれ片手に持ち、私と豪炎寺は夕香ちゃんを真ん中にして手を繋いで木枯らし荘へ帰ってきた。
「お邪魔します」
「おじゃましまーす!」
お兄ちゃんの真似をして、扉をくぐった夕香ちゃんを微笑ましく思いながら、エントランスを抜けて、共同スペースの談話室に2人を通す。
「わっ!おっきいテーブル!!」
『うん、ここはこのアパートのみんなでご飯食べたりお話したりするお部屋なんだ』
へぇ〜!と夕香ちゃんは物珍しそうに共同スペースをウロウロとした。
『豪炎寺。荷物それこっち持ってきて』
「ああ」
共同キッチンに買ってきたものを置く。
その袋の中から、オレンジジュースのパックを出して、食器棚からコップを2つと、共有冷蔵庫から氷を取り出す。
コップに氷とオレンジを注いで、豪炎寺に手渡す。
『私、部屋にエプロン撮ってくるから、向こうの談話室で夕香ちゃんとこれ飲んで待ってて』
「わかった」
豪炎寺が夕香ちゃんに声をかけて、椅子に座ったのを見て、急いで上の階の自室へ向かった。
衣装ケースからエプロンを3枚と、自室に備え付けられている簡易キッチンの戸棚を開けて小さな箱を1つ取り出して、1階に降りた。
『お待たせ。少しは涼めた?』
炎天下の中歩いて帰ってきたから、暑かったと思うんだよね。
「ああ」
「うん!」
兄妹が揃って頷いたのを見て、豪炎寺には赤いエプロンを手渡す。
『お手伝いよろしくね』
「ゆうかもおてつだいできるよ!」
『そう言うと思ってたよ』
はい、と夕香ちゃんにピンクのエプロンを見せる。
ちっちゃい子用のエプロンは流石に持ってないので、きっとサイズが大きいだろう。
『夕香ちゃん、バンザイして〜』
そういえば、ばっ、と両腕を上げてくれたので、その腕に肩紐を通して紐を後ろでクロスさせる。普通ならそのまま後ろでちょうちょ結びにしてしまうが、だいぶ紐も布も余ってしまうので、その紐を後ろから前へ持ってきて、エプロンの前布を紐を挟んで折り込んでまたぐるりと後ろに回して、今度こそちょうちょ結びにした。
『よし、出来た!うん、可愛いね』
「ほんと?おにいちゃん!にあう?」
「ああ、よく似合っている」
やった!と夕香ちゃんはぴょんぴょんとその場で飛び跳ねた。
それを見ながら自分も青いエプロンに袖を通した。
3人でキッチンに移動して買ってきた野菜を並べた。
流しに椅子を持っていって、豪炎寺兄妹を傍に呼ぶ。
『じゃあ、まずは2人はここでお野菜を洗って下さい』
じゃがいもや人参などの泥汚れのある野菜を渡して、2人に洗ってもらう。
その間に自分は、玉ねぎを3つ皮を剥いて、半分に切ったそれをトントントンとリズム良くスライス状にしていく。
クシ型に切らないのはあえてで、スライスにすれば早く火が通って飴色玉ねぎにしやすいし、薄いとルーに溶けて消え味に深みが増すからだ。
玉ねぎを2つほど切り終えた所で、野菜が洗い終わったらしい。
1度手を止めて、今度は調理台の方に椅子を持ってくるように豪炎寺に頼み、そこに夕香ちゃんを座らせる。
まな板と包丁を調理台の夕香ちゃんから離れた所に置き、豪炎寺に洗った野菜を持ってきてもらう。
その中から人参を手にとって、それを皮ごと1センチの輪切りにする。
それを小さなボールにいれて、別のまな板と共に夕香ちゃんの前に持っていく。
「いまからなにするの?」
わくわくと、夕香ちゃんが人参を見つめる。
『夕香ちゃんには今から重大任務を与えます!』
そう言えば、はいっ!と夕香ちゃんは背筋を伸ばした。
『この箱の中にある型で、この人参さんをくり抜いてください』
そう言って、先程部屋から持っておりた、クッキーの型抜きを夕香ちゃんに見せた。
「わー!かわいい!!」
『かわいいでしょ?これね、まず人参さんをこうやって置いて、それからこの型の薄い方を下にして、で、この厚い方が上ね、でこれを両手をでギューって押してください〜』
そう伝えれば、見よう見まねで夕香ちゃんは人参の型を抜いた。
「できたー!!にんじんがおはなになった!!」
『うん。お花だねー!他にも色んな形があるから好きなので型を抜いてってね』
はーい!と返事をした夕香ちゃんを置いて、今度は豪炎寺に声をかけた。
『豪炎寺は...ん?』
そう言って、くいっくいっと横からエプロンが引っ張られたのに首を傾げる。
『夕香ちゃん、どうかした?』
「あのね!ゆうかもごうえんじだよ!」
その言葉に、ん?とさらに首を傾げた。
ちらりと豪炎寺を見れば、豪炎寺もどうしたんだと首を傾げて夕香ちゃんを見ていた。
「おにーちゃんのおなまえは、しゅうや、だよ!」
うん?存じてますが...。どういうことだ???
「ゆうかはゆうかで、おにーちゃんはしゅうやなの!!」
夕香ちゃんに、ぐいぐいと腕を掴んで揺らされる。
『つまるところ、豪炎寺だと、夕香ちゃんも豪炎寺だからお兄ちゃんの事は名前で呼んでって事??』
そう!!と夕香ちゃんは力ずよく頷いて、それを見た豪炎寺は、ああ、そういう事かと納得した。
『わかったわかった。じゃあ、修也くん、じゃがいも皮剥いてもらってもいい?』
横目で夕香ちゃんを見ながらそういえば、ぱぁあと顔が嬉しそうになったので、恐らくそういうことだったのだろう。
「......」
『修也くん?』
夕香ちゃんをじっと見ている豪炎寺にもう一度声をかけた。
「ああ。じゃがいもだな。任せろ」
『ピーラーいる?』
「いや、包丁で大丈夫だ」
そういえば、合宿の時も手馴れてたな。じゃあ、安心して任せよう。
再び自分は玉ねぎスライスの作業に移ったが...。
「っ、!」
「わっ、おにーちゃん!血が!」
豪炎寺の声にならない声と、夕香ちゃんの焦ったような声に振り返る。
『どうした?』
「悪い、ちょっと手を滑らせた」
包丁を置いて、豪炎寺に傍に寄る。
『見せて』
手を差し伸べれば、豪炎寺は左手を差し出した。
『あちゃぁ、バックリいってんねぇ』
皮を剥くのに包丁を滑らせすぎたのだろう。じゃがいもを支えていたであろう左手の親指の側面から血が滲み出ていた。
『ちょっと水で洗ってな』
そう声をかけて、談話室から救急箱を取って来た。
キッチンに戻って、手を洗い終えた豪炎寺の左手を再び見せてもらってその傷口に絆創膏を貼った。
『とりあえずこれでいいかな』
「お兄ちゃんだいじょうぶ?」
夕香ちゃんが聞けば、豪炎寺はああと頷いた。
『けど、豪...じゃなかった、修也くんは合宿でも料理上手だったからびっくりしたわ』
「いや、その...流石に少し動揺していた」
動揺?豪炎寺が??
『なんで?』
豪炎寺は、そっと、私から目を背けて、口を開いた。
「...あまり、下の名で呼ばれる事はないからな」
『え、それで!?』
でも最初に言った時めっちゃポーカーフェイスだったじゃん...あれ?いや、そういえば一瞬固まってた気もするな。
『なんだ、修也くんも可愛いところがあるね』
ケタケタと笑えば、豪炎寺は少しムッとした表情を見せた。
「もういいだろう。早く作らないと日が暮れるぞ、梅雨」
そう言って、フイっと顔を背けた豪炎寺は再びじゃがいもを剥く作業に取り掛かった。
しかし、最後につっけんどんに言いのけた私の名前が、まるで子供の仕返しのようで、くす、と笑みが盛れる。
本当に可愛らしい。
「梅雨」
振り返ってジト目で睨みつけられたので、それもまた可愛らしいとケラケラ笑って、私は自分の作業に戻った。
あれから1時間ちょっとでカレーを作り終え、談話室のテーブルに、3つカレーが並んだ。
「おいしそう〜!!」
「夕香、手を合わせてからだ」
真っ先にスプーンを握った夕香ちゃんに豪炎寺は声をかけ、手を合わせさせる。それを私も真似る。
いただきます、とそれぞれが口にし、スプーンを手に取った。
「みて!これゆうかがおほしさまにしたカボチャだよ!!」
夕香ちゃんはスプーンで星型のカボチャを掬って、こちらに見せた。
『うん、お星様可愛くできてるね〜?お味はどうかな〜??』
そう言えば、夕香ちゃんは大きなお口でパクンとカレーを食べた。
「ん〜!!!おいしい〜!!」
『本当?』
それは良かったと、自分も掬ってカレーを口に運ぶ。
うむ。美味い。
お野菜もゴロゴロ入ってて食べ応え有るし夏野菜カレーにして正解だったな。
「おにいちゃんおいしい?」
「ああ、おいしいよ」
夕香ちゃんに聞かれて、優しくそう答える豪炎寺を微笑ましく見て、ご飯誘って良かったな、とひとり物思いに耽った。
「水津」
いつの間にやら元に戻った苗字呼びで豪炎寺に声をかけられる。
『どうした?』
「いや、今日は誘って貰えてよかった。夕香もすごくよろんでいる」
笑顔でカレーを食べる夕香ちゃんを見つめながら豪炎寺が言って、ああ、同じだったんだな、と私も喜んだ。
みんなで作ってみんなで食べるご飯は美味しいよね、カレーも思いも噛み締めた。