2019年
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『暑っつい...』
「暑いな...」
額を伝った汗がぱたり、とノートに落ちて染みを作った。
「あ″ぁあああ〜〜」
『「円堂っ!!」』
1人で扇風機の前を陣取って、あ~、と叫んでいる彼に、私も風丸もブチ切れた。
「誰のための勉強会だと思ってるんだ!!」
そう言って風丸が円堂のシャツの首根っこを掴んた。
「わー!ごめんって!」
ずりずりと、そのまま机まで円堂を引きずって、ノートの前に座らせる。
『風丸、悪いけど立ってるついでに扇風機スイングにして』
「ああ」
わかった、そう言って風丸は扇風機をスイングモードに切り替えた。
『ありがとう。さっきよりこれでマシになるかな』
「誰かさんが、前に陣取ってる時よりかは涼しくなるだろ」
そう言いながら風丸は席についた。
四角いテーブルの私の向かいに円堂、横に風丸でコの字状に座っている。
「わるいわるい」
『円堂はいいから宿題やって』
そう言えば、はーい...と顔をしゅんとさせて円堂はシャーペンを握った。
だが、5分もせずに円堂はテーブルに突っ伏した。
「う〜!xとかyとか数学なのになんで英語が出てくるんだ〜!!代入って何なんだ......」
あー...勉強苦手な人特有の、問題と関係ない所に対しての何故?だわ。
前世といっていいかはわからんけど、現世で中学生をやっていた十数年前に成績が後ろから数えた方が早い子が同じことを言っていた。
『そんなもん考えなくていいんだよ。ルールだと思って、ルール!』
「ルール?」
『ほら、サッカーだって、なんでキーパー以外が手を使ったらダメなの』
「そりゃあルールだから」
サッカーと言う言葉に反応した円堂は即座に答えた。
『そういうこと。一次関数はxやyを他の数字に置き換えるルールだと思って。代入ってのは置き換えるって意味』
「うん」
『例えばこの問題はx=-5になってるでしょ?なんでとかどうしてとかはとりあえず無視して、xは-5になったの。いい?』
「うん」
『そしたらこの問題がy=2x+8でしょう?だからxのところに-5を置き換えるとy=2×-5+8になるの』
円堂のノートに式を書いて見せるが、うーん?と円堂は首を傾げた。
「なんで掛け算になるんだ??」
『これもそういうルールだから。とにかく数字の横に英語の文字が隣同士で並んでたら掛け算するってルールなの』
「う、うん?」
あ、これ分かってねーな?
はぁ...サッカーのルールが覚えれるんだから、代入のルールくらい覚えれると思うんだけどなぁ。
『とにかくこの問題解いてみて』
「おう!」
よし、やるぞ!と円堂は再びペンを握った。
『はぁ...』
大きなため息を吐けば風丸が、苦笑いしながら悪いなと呟いた。
『風丸、円堂と幼なじみなんでしょ?』
「そうだぞ!!」
「お前はいいから、手を進めろ!」
すぐに勉強とは別の方向に行く円堂にすぐさま風丸からお叱りが入る。
『毎年大変ね』
「ああ。でもまだ今年は、水津や豪炎寺、鬼道が手伝ってくれるから助かる」
あの二人は勉強もできるし、そもそもがお兄ちゃんなので面倒見がとてもいい。
4人がかりで交代でやっても大変なのに、1人で見てた時はもっと大変だったろうなぁ。
風丸に感心しつつ、円堂がちゃんと問題を解いてるか監視する。
うーん、うーん、と頭を悩ませているが、ちゃんと少しずつ解けているじゃないか。
じっと、見ていると円堂の教科書が扇風機の風で煽られて、今にもバラバラと違うページになりそうで、慌てて手を伸ばす。
『「あっ、」』
どうやら同じ事を思ったのか、円堂の教科書の上に乗せた私の手の上に風丸の手が重なった。
「...」
風丸は手を乗せたまま固まっていて、じっと顔を見れば、位置的に前髪で顔を隠している方なのでハッキリと分からないが、耳が真っ赤になっていた。
なんだこれ、可愛いな。
そう思ってじっと見つめていると、2人の様子に気がついた円堂が、ん?と首を傾げた。
「風丸?」
円堂に声を掛けられ、風丸は、はっ!と意識を取り戻して、ばっと手を離した。
「円堂っ、教科書、風で飛びそうだから別の教科書で端、重しにした方がいいぞ」
風丸は早口でそういえば、円堂はそっか!とカバンを開き別の教科書を手に取った。
「水津も押さえててくれてありがとな!」
『いいえ〜』
円堂が教科書の端に重しを置いたのを確認して手を離した。
「あ、なぁなぁ、水津。これはコレであってるか?」
『んー?』
円堂が、ノートをペン先でトントンと叩いた部分を見る。
『ちょっと、待ってね。問題は......えっと、これを代入だから...。うん、あってるよ!やれば出るじゃない』
よしよし、と円堂の頭を撫でる。
「へへっ!だろ??」
どやっと笑顔を見せた円堂の頭をもう人撫でする。
「ちょっと休憩!!」
そう言って円堂は、席を立ちバタバタと足音を立てて扇風機の前に行った。
『あっ、ちょっと!』
「え、ん、ど、う〜??」
お怒りの風丸を見ても円堂は動じず笑った。
「ちょっと涼んだらすぐ戻るって!!」
それを見て、風丸は、はぁ、とため息を吐いた。
「全く。休憩ばっかりじゃないか」
『しょうがないなぁ、円堂は』
そう呟いて自分のノートを進めていく。
「水津、ちょっといいか??」
『どしたー?風丸』
ノートを見ていた顔を上げると、風丸がノートと彼自身を少し私側に寄せた。
「この問題なんだが、よく分からなくてな」
『んー、ちょっと見せてね。AB=4cm, BC=6cmの長方形ABCDがあり、点PはAを出発して毎秒2cmでA→B→C→Dと進む。出発からx秒後の△APDの面積をycm²とする。か...これは確か...。風丸のノートに書いていい?』
「ああ」
風丸のノートをもう少し私側に寄せてもらう。
『この辺AB上に、この点Pがある場合は...えーと、このAとBの辺の長さは4cmって書いてあるでしょ、で、ここに点Pは毎秒2cmで進むって書いてあるから...このABの間にある点は2xcmになるでしょ?』
問題と見比べながら説明すれば、風丸の頭がうんうんと動く。
『で、後はこのAとPとDを結んだ三角形の面積を出せばいいのよ』
「辺ADを底辺とすればいいのか??」
『そうそう!底辺×高さ÷2ね』
「そうしたら...底辺が6cm×高さが2xcm÷2だから...」
腕を伸ばして、風丸がノートに書き足していくのをじっと見つめる。
風丸、髪長いなぁ。
ポニーテールにしている髪が、彼の項にべったりとくっ付いて邪魔そうだ。
「y=6xで、あってるか?水津?」
確認にこちらに顔を向けた風丸の首筋に手を伸ばす。
「っ水津!?」
風丸は突然の出来事に目をぱちくりと見開いた。
首筋に触れ、張り付いたポニーテールの毛先を掻くように掬う。
梅雨は膝立ちになり風丸の頭の後ろに両手を伸ばした。
梅雨が膝立ちになったことにより、目の前に梅雨の胸元が広がり、風丸は顔を赤くした。
「お、おい、水津っ...!」
風丸が首元まで朱色に染まっていくのもお構い無しに梅雨は、掬った彼の毛先をポニーテールにしている根元にぐるぐると巻き付ける。
そして、胸ポケットにちょうど刺していたヘアピンを抜いて彼の後ろ髪に刺して止める。
『よし、おっけー!』
そう言って離れれば、風丸は口をぱくぱくと金魚のように開けたり閉めたりしながら自分の後ろ頭を触った。
「これ...」
『引っ付いて邪魔そうだったから、お団子にしたんよ。これなら鬱陶しくないでしょ?』
「え、いや、そうだけど、うん...」
あー、と言いながら風丸は片手で顔を覆った。
「やるならせめて一言、言ってくれ。そしたら後ろ向いたのに...」
「うわ、風丸!首真っ赤だぞ!?熱中症か!!?」
休憩から戻ってきた円堂、上から風丸を見下ろしてびっくりした顔をしていた。
『わ、ほんと真っ赤だねぇ』
「いや、誰のせいだと...。はあ、そうかもな。ちょっと冷やしてくる」
そう言って立ち上がって円堂と入れ替わりで風丸は扇風機へと向かっていった。
「大丈夫かな、風丸?」
『どうだろうね』
ひっそりとほくそ笑んで、扇風機に顔を近づけている風丸を見た。
そんな梅雨の様子を円堂はなんとく面白くないなと思い、大きな声で彼女を呼んだ。
「水津!!」
『何?どうしたの?』
自分の方を見た彼女に満足げに笑い、円堂は席に着いた。
「宿題やるから、教えてくれ!」
『うん?なんかわからんけど、急にやる気だね?』
「おう!...今なら風丸いないから水津を独占できるしな」
ニカッと笑った後、円堂は梅雨に顔を寄せて、風丸に聞こえないよう小声で囁いた。
『あー...』
梅雨は片手で頭を押さえた。
円堂のことだからきっと深い意味はないんだろうな。
そう分かっていても、顔に熱が集まってくる。
『ちょっと扇風機当たってきていいっすか』
「えー!俺の宿題はどうするんだよ!!」
『1人で頑張って』
「じゃあ、俺も扇風機に行く!!」
『はあ?ちょっと、円堂!』
ガシッと円堂に手を掴まれて、扇風機の元まで引っ張って連れていかれる。
「風丸!ちょっと詰めて!!」
「は?いや、円堂勉強は?」
「いいからいいから!!」
ずいずいと押されて、風丸の横に座った円堂はポンポンと自分の横を叩いた。
「ほら、水津」
仕方なく言われるがまま円堂の横に座った。
扇風機の風がぶわっと顔にかかる。
『わ、涼し〜!!』
「なー!涼しいなぁ!!」
「ったく、円堂は...」
休憩ばっかりの円堂を見て風丸は仕方ないなと笑った。
「ま、涼しいな」
「だろ〜?」
3人は横並びに座ったまま、しばらくそうやって時を過ごしたのだった。
この後2人のスパルタによって1度も休憩がなく勉強会を進める事になるなんて円堂はまだ知らない。