2022年
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見つめる先にあるのは並ぶ茶色の中にあるピンク。
ショーケースの中に並べられた1粒1粒たち。
一般的な白や黒、着色料のコーティングやフレーバーなどでつけられた赤や青、黄色に緑に……。
沢山の色がある中で、私の目に泊まったのはピンクのそれだった。
『ルビーチョコレート』
着色料やフレーバーで作られたピンク色ではなく、ルビーカカオという素材そのものの色。
一般的な茶色いチョコレートと並ぶそのピンク色のチョコレートに、1人を思い出してかあっと頬が熱くなった。
どうしようか。
綺麗なピンク色で、これだ、と思ってしまった。自分で食べるものなら、きっと直ぐにこれを買っただろう。
けれど、ショーケースに飾られたこのピンクの1粒は、綺麗なハート柄をしていたのだ。
如何にも本命ですと告げるようなその形を前にしり込みしてしまった。
好きな人に渡す気だからショップに来たわけだけど、本命と伝える勇気はない。多分、渡すだけで精一杯だ。
それに、こういう可愛らしいのより、こっちのシンプルなものの方が彼は好きそうだ。
隣に並んだ、四角いショコラの方へ視線を映す。
うん。こっちにしよう。食べて喜んでくれるものの方がいい。
しばらく悩んだ後、すみません、と店員さんに声を掛けるのだった。
バレンタインデー当日。
呼び出し、なんて目立つ事は出来なくて、彼が1人になるタイミング待っていたいつの間にか放課後になってしまっていた。
校門の前で彼の部活が終わるのを待つ。
待ちながら、部活終わりだし、一人で出て来なかったらどうしようと考える。
その場合は…………下駄箱に入れて帰ろうか……。いやでも、教員が見つけて回収する可能性が…………。
悩んでいれば、あっという間に時間が過ぎた。
彼と同じサッカー部の子が何人か校門を出ていった。
もうすぐ来るかもしれない、とドキドキして紙袋の持ち手を握る手にも更に力が入る。
『あっ………!』
部活棟の方から校門に向かって、待ち人が歩いてきた。
よかった。ひとりだ。
ほっと、息を吐くのもつかの間。
彼は、ずんずんと歩みを進めて校門をくぐった。
『そ、染岡くん!』
過ぎ去ろうとしたその背中に呼びかければ、驚いたように彼は振り返った。
「なんだ、」
三白眼を見開いて訊ねた彼の前に、1歩寄る。
『こ、これ……!受け取って下さい!!』
勢いでそう言って、手に持っていた紙袋を彼に突き出した。
「は、えっ?俺に?」
そう言って、彼はキョロキョロと自分の横や後ろを見た。
『染岡くんに、です』
相当顔が赤い自覚があって、思わず下を向くら。
「これって、バレンタインの、だよな?」
『はい……』
消え入りそうなほどか細い声でそう言って頷く。
「そ、その、サンキューな」
無骨にそう言って、彼が紙袋に手を添えたのを見て、私は持ち手から手を離した。
『あ、えっと……、その。さ、さようなら!』
そう叫んで、そのまま走って逃げ出した。
「今の奴、隣のクラスの水津だったよな…………」
受け取った紙袋を持ったまま、走り去った彼女の背を見てポカンとしていた。
「顔、真っ赤だったな…………」
同じほど真っ赤な顔して染岡は帰路につくのだった。
ルビー色を見つめる
空けた箱の中にも、四角いショコラの中に、あの子の頬と同じ色のハートの形が1粒だけ入っていた。