2022年
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『たーいちくん!あっそびましょー!』
インターホンを鳴らしながら大きな声でそう叫ぶと、少ししてから、坊主頭にちょこんと乗ったアフロがブロッコリーのような髪型をした三白眼の中学生が、アパートの扉を開けた。
「ったく、遊びじゃなくて勉強しに来たんだろ」
呆れたようにそう言いながら、入れ入れと彼が手招きするので、お宅に入れてもらった。
三国太一。同じアパートで、保育園の頃からの幼なじみで、小学校の頃から毎年夏休みは彼の家で一緒に宿題をするようになり、中学3年の今でもその関係は変わらない。
『今日も太一君のお母さんはお仕事?』
よく知った三国家のリビングまでズカズカと進んで、勝手にダイニングテーブルの椅子へ腰掛ける。
「ああ、今日はまた遅くなるって言ってたな」
そう応えながら太一くんは冷蔵庫から麦茶のボトルを取り出して2つのグラスに注いで、それをテーブルの上に置いていく。
『ふーん、そっか……』
今日も太一くんのお母さんは遅いのか……。
なら、今日こそは………。
変わらないこの関係を変える。
幼い頃からずっと、好きだった。
そして、その思いをズルズルと抱えたまま中学三年生になってしまった。
正直、中学に入ってから去年までの太一くんは、憧れの雷門サッカー部に入ったっていうのに、なんだか様子がおかしくて、想いを告げる、なんて雰囲気じゃなかった。優しいのはずっと変わらないんだけどね。
そして、今年は何故だか去年までの雰囲気と打って変わった。太一くん曰く、今年の1年生のおかげだって言ってたけど……結局よく分からない。
でも、太一くんが変わったんなら、私も変わりたい。変えたい、と思った。この、幼なじみ、という関係を。
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インターホンのピンポーンという音のすぐ後、たーいちくん!あっそびましょー!と昔から変わらず、俺の名を呼ぶ声。
「ったく、遊びじゃなくて勉強しに来たんだろ」
そう言いながら、ドアを開ければ、同じアパートに住む、幼なじみの梅雨が立っていた。夏で暑いからか、同じアパート内だからか、梅雨は短パンにキャミソールという随分と薄着でやってきていて、ぎょっとして、慌てて中に入れと手招いた。
お邪魔しまーす、と間延びしたように言いながら靴を揃えて家に上がった梅雨はいつものようにズカズカとリビングに入って席に座る。
それを見て、とりあえず茶でも入れてやるかと冷蔵庫を空ける。
『今日も太一くんのお母さんはお仕事?』
「ああ、今日もまた遅くなるって言ってたな」
朝、母さんが言ってた事を思い出しながら、テーブルの上に麦茶を入れたグラスを置きながら、話を振ってきた割に、ふーんそっか……と素っ気なく呟き何か考え込んでいる梅雨を見て、思わず目をそらす。
やっぱり薄着過ぎないか?
いつの間にか、体つきだって女らしくなっていて、膨らんだ2つの山とその谷間に視線が行きそうになるのを必死で我慢する。
……好きな女の子の姿は見たいが、ジロジロと見て気持ち悪がられ、二度と話してもらえなくなるかもしれない。そんなのは耐え難い。
しかし、いくら幼なじみの家と言えど、一応俺は男なわけだし………うちは大概、母さんの仕事の帰りが遅いわけだし………、危機感薄くないか?
まったく意識されていない、ということなんだろうな。
はあ、とため息を吐いて、梅雨に気持ちを悟られないように、夏休みの宿題へ視線を移すのだった。
────────────────────
2人は特段勉強が出来るわけでも、出来ないわけでもないので、それぞれの得意なものを教え合いながら、2人共分からないところは一緒に考えながら夏休みの宿題を進めて行く。
『おわっ、たー!』
今日のノルマを終えたところで、パタンとノートを閉じる。
「よし、俺も終わった」
『お疲れ〜』
そう言いながら、梅雨は、ぐで〜とテーブルに伏せるように伸びる。
……あー、今日はもう終わりか………。勉強してる合間は言うタイミングなかったし、どうしう。そう考える梅雨の前の三国は、テーブルに広げたノートやペンを片付けて隅に置いたあと立ち上がって冷蔵庫へ向かった。
「梅雨、ほら、お疲れさん」
三国は冷蔵庫から取り出した白い耐熱容器を、伏せた名前の顔にぴと、と当てた。
『プリン……』
いつも通りならこれは三国の手作りプリンのはずだ。
そして、いつもならこれを食べて家に帰る……。
「どうした?食べないのか?」
『えっ、あ、ううん。食べるよ』
起き上がって、用意してくれたスプーンで容器の中のプリンを掬って口に運ぶ。
……これ、食べ終わったら帰らなきゃなのか……。どうしよう……。
誘惑するつもりで薄着で来ても太一くんは反応なく淡々と勉強してて、脈なんかまったくなさそうだったし………。告白して、関係が気まずくなるならやっぱりこのままのほうが………。
「梅雨?……もしかして、美味しくなかったか?」
梅雨が来ると分かっていたから固さもキャラメルの量も彼女好みに作ったはずだったのだが……。
『え、あ、ううん!いつも通り美味しいよ』
「だが……」
いつもなら、美味しいと言ってパクパク食べる梅雨のスプーンを持つ手は今日は止まっている。
調子が悪そうという訳ではなさそうだが……。そう言えば、勉強中もいつにもまして、そわそわしていたし、チラチラと何度もこちらに視線を感じていた。
「……もしかして、何か言いたいことがあるのか?」
そう訊ねれば梅雨は、えっ、と驚いたように目を見開いた。
「違ったか?」
『う、ううん、違わないけど……。よく分かったね』
「まあ、長い付き合いだからな」
そう言って笑う三国を見て梅雨は、その長い付き合いが、今日終わってしまうかもしれないということに、ドクドクと心拍数が上がっていく。
「それで………」
俺と梅雨の間柄で言い難い話ってなんだ。と、ふと思って三国は言葉を止めた。
梅雨の顔を見れば、頬が赤く染まっている。
まさか、彼氏が出来た、とか、か……?
いや、けど梅雨に好きな人がいるなんて話今まで1度も………。
『えっと、その、あのね……』
話を切り出そうとする梅雨に、三国は暑いから流れた汗なのか、冷や汗なのか分からない汗が頬を伝った。
違う話しであってくれ、と願う。
『……その、わ、私、好きな人がいて………』
そう言って梅雨は下を向く。
うわあ、バカバカ。なんでそんな遠回りな言い方しちゃうの!
「好きな人………」
やっぱりそうか、と三国は恥ずかしそうに俯いた梅雨を見つめる。こんなことならもっと早くに思いを告げればよかったな。
「誰だ?俺の知ってる奴か?」
梅雨が幸せならそれでいい。応援してやろうと、できるだけ笑顔で訊ねる。
『知ってる、というか……』
笑顔で相手を聞いてきた三国に梅雨は言葉を詰まらせる。
この反応は、やっぱり私のことはただの幼なじみとしか思ってないんだろうな………。
「梅雨?」
『……えーと、その、……太一くんなんだけど………』
下を向いたまま、ぼそり、とそう呟けば。
向かいからカランという音がして、顔を上げる。
テーブルの上で、スプーンが踊ってて、そのスプーンを持っていたはずの三国の顔は目も口も大きく開かれていた。
幼なじみ最後の夏
互いに好きだったなんて、今日初めて知った。