2022年
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サッカー部の練習が終わり日が暮れ出した頃に、夏休み中も練習を頑張った褒美だと、響木監督が、みんなに手持ち花火のセットを数個プレゼントしてくれた。
やったー!と大喜びした一同は、いつもの河川敷で、もらった花火セットを開封して、それぞれ好きな花火を手に取って、火をつけた。
まあ、男の子達だ。
花火を持った手を、腕からグルングルンと回してみせたり、何本も花火を持って河川敷を走り回ったり、危ないことをして監督や夏未ちゃんに怒られている。
賑やかで見ているだけで楽しい。
少し離れた所で芝に腰を下ろしてみんなの様子を見つめていたら、目の前が急に陰った。
「水津さんは、花火、やらないの?」
目の前を塞いだ、長身で、両目が隠れるほど髪の長い男子が、そう訊ねてきた。
『部活終わりでアレに混じる元気はないなー。影野は?』
そう彼を見上げれば、影野は少し移動して、私の横に腰を下ろした。
「俺は……、みんなとやってたけど、水津さん居なかったからどうかしたのかなって思って……」
『そうだったんだ、なんかごめんね?みんなが遊んでるの見てるだけでも楽しいからいいやって思っちゃって』
「ううん。でも、見てるだけでいいって、水津さんらしいね」
髪で顔が隠れてしまっているから、彼の表情で読み取れるのは口元だけなのだけれど、少しだけ口角が上がっているようだった。
ぼんやりとまた先にいる雷門イレブン達を見れば、この場にあるネズミ花火を全て集めて一気に火を付けてみて、四方八方に飛び回るそれに大騒ぎしている。
『まーた、危ないことして。まったく』
ふふ、と少し笑いながらそう言えば、そうだね、と影野が長い髪を揺らして頷いた。
『みんなの様子眺めるのも悪くないでしょ?ここなら風向き的に煙くないし』
「うん」
『あ、そうだ』
思いついて立ち上がれば、影野がどうしたの?と一緒に立ち上がろうとした。
『影野はちょっとここで待ってて。すぐ戻るから』
「え、あ、うん?」
ぴゅーっと走り去る水津に圧倒されたた影野は大人しく座ったまま待った。
直ぐに戻ると言った言葉は本当で、水津は1分もせずに戻ってきて、影野の隣にしゃがんだ。
「なに取ってきたの?」
影野は水津の手に握られたものを見つけた。
『じゃじゃーん!線香花火!』
そう言って水津は、花火セットの中によくある小さな袋の中に入った紙縒りの細い花火を影野に見せた。
『あとライターも取ってきた。これなら煙たくないし、いいかなって思って』
そう言いながら水津は小袋をあけ、中から線香花火を取り出して、1本影野へ差し出した。
『どうぞ』
「あ、ありがとう」
影野が受け取った後は、水津も左手に1本線香花火を持って、右手でライターの火をつけた。
火がついた先が球体のように赤くなって、そこからぱちぱちと火花をあげる。
『はい、影野、火どうぞ』
そう言って水津が影野の方へ手を伸ばして線香花火を持ち上げる。
「うん」
影野は水津の線香花火の先から火を貰うため、線香花火を持った手を動かした。
こつん、と手と手が触れる。
「ご、ごめん」
『いいよいいよ。それより急がないと火消えちゃうよ」
「あ、うん」
今度はそっと花火の先を向けて水津の持つ線香花火の真ん中の火の玉から火を受け取った。
ぱちぱちと小さな音と彼岸花のように火花が咲く。
「……綺麗だね」
『ねー。あっちの賑やかなのもいいけど、私はこっちの方が好きだなー』
ふふっ、と笑いながら線香花火を見つめる水津を見て、影野はとくりと鳴った心臓を悟られないよう、慌てて線香花火へ視線を戻した。
『あ、』
ぽとり、と水津の持っていた線香花火の火の玉が地に落ちた。
『終わっちゃった』
「まだ、俺のから火取れるよ」
『へへ、じゃあ影野のから火貰っちゃお〜』
そう言って水津は、新しい線香花火を手に取った。
「はい、どうぞ」
『ありがと〜』
影野が線香花火を近づければ水津も、そっと線香花火の先を火の玉に近づけた。
『点いた』
ぱちぱちと火花を放つ新しい線香花火を水津は、また柔らかな笑みを浮かべて見つめている。
2人は、火が落ちて新たな線香花火をつける時だけ会話をして、ただ静かに線香花火が燃える姿を眺めて過ごすのを繰り返した。
気まずさからではない、心地よい沈黙に2人はずっとこの時が続けばいいのにと、願うのだった。
火の玉と共に落ちる、恋
なんで先に線香花火やってんの!?それは最後だろー!なんて、雷門イレブン達の声が聞こえるまで、ひっそりと2人の時間を過ごすのだった。