2021年
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
俺は、恐らく隣の席の水津梅雨に餌付けされている。
事の始まりは、2月初めの席替えの日。
このクラスで初めて隣の席となった水津は、席替えを終えた後の3時間目と4時間目の授業の合間の休み時間にスクールバッグに手を突っ込んで、1つの袋を取り出した。その袋のパッケージにはフルーツキャンディーと書かれていて色とりどりの飴玉と果物の絵があった。
その袋の口を開けた水津は、その中から1個1個に包装された小さな袋を取り出した。小さな袋の口を切って飴玉を取り出した水津は、パクリとそれを口の中に放り入れた。
その瞬間満足そうに笑った水津を見ていたら、その顔がふと俺の方に向いて目が合えば、途端にやべぇといったような、驚いた表情に変わったのをよく覚えている。
俺は、真面目だと思っていた水津が、菓子持ってきて食べてんの意外だな、くらいに思って見ていたのだが、水津的にはマズイところを見られたと思ったのだろう。
『内緒ね』
と、左目でウインクしながら、人差し指を唇の前に持っていってそう言った後、俺の机の上にオレンジの飴を1つ置いた。
賄賂の如く置かれたそれに驚いてる合間に、4時間目の授業を知らせるチャイムが鳴って、慌ててそれを机の中に隠した。
チャイムが鳴り終わってすぐに先生が教室に入ってきたから今思えばナイス判断だった。
先生が教卓に着き授業を始める中、先程飴玉を口に入れたばかりの、水津はしらっと何食わぬ顔で授業を受けていた。バレるんじゃねーの、と隣でヒヤヒヤしていたが、結局なにごともなく4時間目の授業は終了した。
そんな体験をした次の日の朝に水津は、
『昨日は先生に言わないでくれて、ありがとう』
そう言って、小袋が4つ連なったスナック菓子のひとつの袋をちぎって、机に置いた。
「お前、いつも菓子持ってきてんの?」
そう聞けば水津は、あはは〜とはぐらかすように笑った。
『秘密ね』
そう言って前日と同じようにウインクしながら、唇の前に人差し指を持っていった水津に、仕方ねぇなぁ、と言って貰った菓子を自分のバッグに隠した。
それからというものの、毎日のように水津は菓子を持ってきて、食べる?と言って俺にも分け与えてきた。
グミ、キャンディー、焼き菓子、ポテチ、チョコレート菓子、ある時は自分で作ったという手作りの物まで持ってきていた。
「お前ほんっとに菓子好きだな」
『え、あー、......うん』
なぜだか曖昧な返事をした水津の反応に首を傾げる。菓子好きだから持ってきてんじゃねぇの?
わけわかんねぇなぁ、と思いつつ今日貰ったクッキーを齧る。
『あのさ、』
そう切り出した水津に、なんだ?と顔を向ける。
『染岡は今まであげたのだと、どのお菓子が好きだった?』
「え?あー、何食ったっけ。そうだな...」
この2週間色々貰ったから、覚えてねぇぞ。
「一昨日貰ったチョコのやつ。あれ美味かったな」
『ああ、チョコパイね。なるほど...。美味しいよね!』
満足そうに笑う水津を見て、あ、そうだと思い出す。
「お前が作ってきたやつも美味かったぜ」
『えっ』
「特に、あの...、ケーキみたいなやつ」
名称がわかんねぇけど、紙カップに入ったケーキみたいなやつ。
『あ、マフィンね。そっか』
水津は少し照れたようにはにかんだ。
次の日、今日は金曜日だ。
いつも貰ってばっかだしな、と美味かったと記憶するチョコパイをコンビニで買って学校に行った。
まだあんまり人が来てなくガラガラの教室に、水津は既にいた。
『...!!......あっ、えっと、おはよう』
扉の開いた音に驚いたように肩を揺らした、水津がすかさず机に何かを入れたのが見えた。まあ、いつもの如く菓子だろうな。
挨拶に、おう、と返事をして自分の席にカバンを置いた。
「水津、今日はいいもんあんぜ」
そう言ってカバンから、先程買ったものを取り出す。
『え?』
「ほら、これやる」
そう言って、チョコパイの箱を水津に差し出せば、目をくりくりとさせて驚いていた。
『え?......え?』
箱と俺を2度見している水津に早く受け取れよ、と少し箱を前に押し出す。
「そんなに俺からやるの、驚く事かよ」
確かにこの2週間貰ってばっかりだったけどよぉ。
『えっ、だって......、染岡が...!?』
「お前っ、失礼だな。要らねぇなら、やんねぇよ」
そう言って箱をカバンに戻そうとしたら、ガシッと、箱を捕まれた。
『いや、いる!』
必死にそういう水津に、どんだけ食い意地張ってんだよと、思わず笑う。
『でも、これ、本当に私に?』
「そう言ってんだろ」
『おお...、そうだよね。あ、ありがとう』
受け取って、照れたように礼を言った水津を不思議に思いながらも、椅子を引いて座る。
『あのさ、まさか、染岡から貰えるとは思ってなくて、お返しみたくなっちゃったけど...。その、私の気持ちです』
「...?」
ずい、と水津から差し出されたのは、先程机に隠したであろう物。
どう見ても、いつものスナック菓子じゃない。綺麗にラッピングされた物。
てか、気持ちってなんだ...。
ラッピングされたその箱を受け取りながら考える。
「なんだ、これ?」
『えっ、と。染岡、チョコ系大丈夫そうだったし、マフィンも美味しかったって言ってくれたからガトーショコラ作ってきたんだけど......、ダメだった?』
「いや?ダメじゃねぇけど。なんでこんなきちっとラッピングしてあるんだ?」
『え?』
前に水津が、持ってきた手作り菓子も確かにラッピングされてはいたが、こんなにきっちりしてなかった筈だ。
『......ん?んー?』
こてんと首を傾げながら水津は、俺をの方を見つめ、その後顔を青くした。
『あの、もしかして意味が伝わってない...?』
「...意味?」
意味ってなんだ?わけがわからねぇと水津を見る。
『あの、2月14日はご存知で?』
「は?2月14日は......」
そこでハッとして、黒板に書かれた今日の日付を見る。
「...バレンタイン、だよな?」
今日の日付けは2月12日金曜日だ。
えっ、どういう事だ?
『その通りバレンタインで...、土日で学校休みじゃん?だから今日持ってきたんだけど......。その、染岡もそうだと思ったから...、ごめん』
そう言って謝る水津に理解が追いつかない。
えっと、バレンタインデーである14日が日曜日で学校休みで、前日の土曜日も学校休みだから繰り上げで今日、コレを持ってきたって事...。つまり、水津が言ってた気持ちってのはそういう事で。
しかも水津は俺が、チョコパイをやったのは、逆チョコとか言うそういう事だと思ったわけで。
急に、顔から火が吹き出しそうなくらい熱くなった。
「は?...え、お前!?そういう......!?」
水津は、勘違いしてた事が恥ずかしかったのか、真っ赤な顔してコクコクと首を縦に振った。
28℃
クラスメイトがおはよう!と入って来なきゃ、あまりの熱さに俺もチョコも溶けるところだった。