2020年
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夜の帳が降りる中、両手に買い物袋をぶら下げて、アパートのアルミで出来た階段をカンカンと音を立てながら登りきれば、特徴的な髪型の少年が、私の部屋の扉を背にして通路に座り込んでいた。
「おせぇ。何してたんだよ」
そう言ってモヒカン頭の少年は立ち上がる。
『社会人は
そう返せば少年はチッ、舌打ちして、それから、ん、と手を伸ばした。
『あ、荷物持ってくれるの?ありがとう』
「違ぇよ。鍵貸せ」
そう言う彼に、はー、とひとつため息を吐いて、コートのポケットに入れていた鍵を手渡す。
いつからか家に転がり込むようになったこの中学生は受け取った鍵を、ドアノブに差してガチャガチャと回し、お邪魔しますも無しに家主である私よりも先に部屋の中に入っていく。
続いて後から入って玄関先に荷物を置いて、彼が脱ぎ散らかした靴を揃えてから自分も靴を脱ぎスリッパに履き替えた。
荷物を持ち直して部屋に入れば、彼は寒い寒いと勝手にエアコンを入れた上、電気ストーブを付けてその前を陣取っている。
まあ、結構外で待ってたみたいだし、仕方ないか。
荷物を台所に置いて、着ていたコートを脱ぐ。
『明王、コレそこのハンガーに掛けといて』
そう言ってコートを投げれば、それは彼の後頭部にヒットした。
「はあ?」
『掛 け と い て』
圧をかけて言えば、明王は舌打ちしながらも立ち上がって、壁にかけて合ったハンガーを手に取ってコートを掛けてくれた。
『明王〜、今日ご飯は?』
冷凍庫に買ってきたものをしまいながら聞けば、食う、と短い返事が返ってきた。
『そう。今日、おうちの人は?』
「知らね。仕事じゃねぇの」
自分の親の事なのに、相変わらずだなぁ。
明王は、あんまり自分の家の事話さないから詳しくは知らないが、まあ、クリスマスなのにわざわざうちでご飯食べてくって事は、あんまりいい家庭じゃないって事なんだろう。
スーパーで買ってきた唐揚げをオーブントースターに放り込んで温めながら、適当にレタスをちぎって、きゅうりと玉ねぎとにんじんをスライスして、それをまとめて水洗いしてザルにうちあげる。
トマトは...、明王が好きじゃないみたいだし、また今度にしようかと冷蔵庫に閉まう。
インスタントのコンソメスープの元をカップに入れてお湯を注いでプーンでクルクルかき混ぜていたら、チンとオーブントースターが音を鳴らしたので、そちらの様子を見れば油が漏れだしてジュワーと音を立てている。美味しそうだ。
唐揚げとサラダをそれぞれお皿に盛り付けて、テーブルに持っていく。
明王は勝手にうちのゲーム機を起動して格闘ゲームで遊んでいる。
『明王、その1戦で終わりね』
「おー」
分かったと素直に頷いた明王を見て、コンソメスープを取りにキッチンに戻る。
スプーンとかお箸とかも一緒に持って行って並べて、後はお米!と再びキッチンに戻る。
炊飯器を開けて、自分の分は普通に明王の分は山盛りに盛ってテーブルに向かえば、言われた通りに1戦で試合を終えた明王が席に着いていた。
はい、どうぞ、と御飯茶碗をテーブルに置いて自分も明王の向かい側に腰を降ろした。
『さ、食べよ。いただきます』
手を合わせれば、同じようにそうした後、明王は箸を手に取った。
「なんで唐揚げなんだよ?クリスマスっつったらフライドチキンだろ」
唐揚げを箸でつまみながらそう言う明王に、口をつけていたコンソメスープのカップから唇を離す。
『いやそれを言うなら本当はターキーだからね。日本人がクリスマスにフライドチキン食べる習慣は大手の策略のせいだから』
「それが分かっててなんで唐揚げなんだよ」
『七面鳥なんて買う金無いし、まあ、これに合うやつと言えば唐揚げでしょうよ』
そう言って、カシュッと音を立てて缶ビールを開ける。
「げ、酒飲むのかよ」
『いいでしょ、クリスマスなんだし。明王来るの分かってたらシャンメリーも買ってきてあげたのに』
「はっ、別にいらねーよ」
『えー、あったら雰囲気だけでもクリスマスっぽくなるでしょ?』
「ビールと唐揚げの時点でクリスマスもクソもねーだろ」
『いやだって今日は1人でちびちびやるつもりだったし』
そう言ってビールをグイッと飲む。
「クリぼっちかよ」
『はあ?アンタもでしょうよ』
そう返せば明王は黙って唐揚げを口に放り込んだ。
「うめぇな」
談笑交えつつ夕飯を食べ終え、デザートにと買っていたケーキを冷蔵庫か、取ってくる。
2つで1セットだったショートケーキをプラ容器から出してそれぞれのお皿に乗せてテーブルに置く。
「つーか、俺来るの知らなかったって言う割にケーキ2つあるんだよ。唐揚げも2人前あったし」
『スーパーだとホールケーキばっかで、小さいのそれしか残ってなかったんだよ。で、もう一個は明日食べればいいかなって。唐揚げは明日の弁当にでも詰めようかと思って』
「嘘でも俺が来るかと思ってって言えよ」
『いや、なんで?』
首を傾げれば、明王はなぜかムスッとした。
「梅雨、コーヒー」
ムスッとしたままそう言う明王にハイハイと返事をして、もう一度キッチンに向かおうとしたら、明王がケーキに手を伸ばし、てっぺんに乗ったいちごをひょいと摘んで口に放り込んだ。
『あっ、お行儀悪いよ!』
「うるさ」
『全く。悪い子のとこにはサンタさん来ないんだからねー』
そう言ってキッチンでマグカップを取り出して、その中にインスタントコーヒーの粉を入れる。
「おー。だから俺んとこには来ねーよ。借金取りなら来んだけどな」
そう言って明王はケラケラと笑った。
思わず顔を顰める。なんと返して良いものか...。
「なんつー顔してんだよ梅雨サン?冗談に決まってるだろ」
そう言って明王は未だ笑っているが、あながち嘘ではないのではないか、となんとなく思った。
けど、本人が誤魔化したのにこれ以上踏み込むのもどうかと思うし、黙ってマグカップにポットのお湯を注いだ。
「なんだよ。呆れたか?」
『いや?』
首を振りながら戻れば、明王は、ふーんと呟いていて、どうぞ、とマグカップを手渡せば受け取った。
そのまま私は席につかず、クローゼットを開けに行く。
「...?ケーキ食わねぇの?」
『食べるよー。その前に...っと』
クローゼットを開けて、掛けていた服と服の後ろに隠していた箱を取り出す。それを持って明王の元に戻る。
「なんだそれ?」
『サンタさんからのプレゼントはないかもしれないけど、代わりにお姉さんからのプレゼントだよ』
どうぞ、とラッピングされた箱を差し出せば、困惑したまま明王はそれを手に取った。
「え、俺何も用意してねーぞ」
『あはは。中学生から搾取する気ないよ』
「...、そうかよ」
何故かジト目でコチラを見たあと明王は、何も言わずビリビリと包装紙を破り始めた。
「え、これ...」
包装紙を破り捨てた後、姿を見せた長方形の箱にはペンギーゴのマークが入っている。そこで何となく察したような顔をした明王は、箱の蓋を勢いよく開けた。
「お前、コレ...結構するやつ!」
そう言って明王は箱からサッカースパイクを取り出してまじまじと見つめている。その姿は珍しく子供らしい。
明王の言うように値段は結構した。サッカースパイクってピンからキリまで結構値段の幅が広く、中学生の部活で使うんだったら3000円くらいの安いものでも構わないだろうけど、言っても彼は日本代表選手だし、いいものを持つべきだろうと2万近いものを奮発して買った。
「まじか。いいのか、これ」
まあ、この喜んでいる姿が見れたのなら安いものだ。
「お前貧乏なのに...!」
うん、一言余計。
『そうだよ。有難く使えよ!』
そう言えば明王は、おう、と頷いてスパイクを大事そうに箱にしまった。
「けど、サイズよく分かったな」
ピッタリじゃんと言う明王に、ははは、と感情のない声で笑う。
『誰かさんがいつも玄関に靴脱ぎ散らかすの揃えるからね』
そう言えば明王は苦い顔をした。
ケーキも食べ終えたところで、明王に声をかける。
『送っていくから、そろそろ帰りな』
「...今日くらい泊まってってもいいだろ」
『ダメです』
そう即答すれば、明王はむくれた。
「なんでだよ」
『未成年だからだよ』
「いつもガキ扱いしやがって」
『ガキだからしょうがないでしょ』
ほら、お家に帰るよと明王を引っ張り立たせようとするが、ビクとも動かない。
「俺ばっかりがアンタの事、好きみたいで腹立つ」
小さな声でなにか呟いて、つーんと顔を背ける明王を見て、はあ、と大きくため息を吐く。
『君は中学生で私は社会人でしょ。ここで明王を家に泊めたら私、捕まんの。そしたら私は豚箱行きだから君が遊び来る家が無くなるわけだけど...』
「別に俺は遊び場が欲しいんじゃねぇよ」
『明王』
「...、分かったよ。帰ればいいんだろ帰れば」
ムスッとしたまま立ち上がる明王の、手を掴む。
「おい、ガキ扱いは、」
苛立ったような明王の声が途切れた。
恐らくそれは明王の指先に、私の唇が触れたからだ。
「な、」
『ごめんね。これ以上は歯止めが聞かなくなるから』
お家に泊めて上げることも、キスも出来ないけれど。
ハクハクと金魚のように口を開けたり閉じたりしている明王に思わず笑う。
『これより先は君が大人になってからね』
「まじか。...信じてねーけど、サンタの奴に頼み事出来たわ」
そう言って明王はフッ笑って見せた。
サンタに願うは
早く大人にしてくれって?