2020年
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ピンポーンとチャイムが鳴ったあと、ドンドンドンと3回ドアが叩かれる。これは彼が自分が来たと知らせるいつもの合図だ。
『はーい』
よいしょと座っていた床から立ち上がって玄関に向かう。
ドアノブを回してドアを押し開ければ、お隣に住む灰崎さんちの凌兵くんがいた。凌兵くんは私より5つ下の中学1年生だ。
「よう」
『こんにちは。どうしたの?』
時々、凌兵くんのお母さんからお裾分けを持ってきてくれたりするのだけれど、今日もそうだろうか。
「ん、これ」
そう言って突き出されたのは白と水色の可愛いデザインの小袋だった。
『わ、ありがとう。なんだろう?』
「...今日、ホワイトデーだろ」
そう言って視線を逸らした凌兵くんを見て、ああ、と頷く。
そっか、今日は3月14日か。あれ、でも今年は私、バレンタインに何もあげてないぞ??大学受験の 勉強が忙しかったのもあるし、何より彼の家のお隣に住む、幼なじみの茜ちゃんが元気になって病院から帰って来てたので、私がプレゼントを贈る役目も終わりだと思って何もしていない。
去年までは...というか、数年前に茜ちゃんがアレスの天秤とかいう教育プログラムを受けるためにその全寮制の学校に行ってしまってから、凌兵くんがあからさまに元気が無くなってしまって、それを元気付けようとその年のバレンタインにチョコレートを贈ったのが最初で、それから毎年贈っていたのだけれど。
今年は贈っていないのに、わざわざ私の分も用意してくれるとは凌兵くんのお母さんに今度会ったらお礼しなきゃ。
『茜ちゃんにはもう渡してきたの?』
「は?」
口を大きく空けて、何言ってんだと凌兵くんはこちらを見た。
「なんで茜にやらなきゃいけねぇんだよ」
ん?と思わず首を傾げる。
『えっ、茜ちゃんからチョコ貰ってないの?』
「もらってねーよ」
何処かムッとした様子の凌兵くんに、これはいけないことを聞いてしまったかもしれないと焦る。本命の子から貰えなかったとなると、さぞ虚しかったであろう。
『そっか。え、えーと...、あれ?』
受け取った袋を見て、首を傾げる。
『私もあげてないけど...??』
「もらってねぇと、ホワイトデーにやっちゃいけねぇのかよ」
『いや、そんなことはないと思うけど...。あげる人間違えてない?』
「間違えてねーよ!!」
つまりはちゃんとこれは私宛のものだけど、同じくバレンタインに何もしてない茜には無くて、私にはある、と。
『えっ、なんで?』
「いや察しろよ、馬鹿」
悪態をつく凌兵くんに思わず、は?と零す。いやいや落ち着け。ムカつくけど私の方が歳上だ。大人の対応大人の対応っと。
『まあ、とりあえずありがとうね。お礼はまた来年のバレンタインデーにでも「おい」
そこまで言ったところで、凌兵くんに腕を掴まれた。
「わかんねぇからって誤魔化して追い返そうとすんじゃねーよ」
あらバレてた。
「だいたい今年だけじゃなくて、毎年この俺がわざわざ持ってきてやってるだろ。その意味くらいわかれよ」
『私が毎年あげてたからじゃなくて?』
そう答えれば、はーーーっとでっかいため息を吐かれた。
「...今年はなかっただろ」
『うん』
「つーか、なんで今年はなんもなかったんだよ」
少し頬をふくらませて、拗ねた様子である。そんなにチョコレート欲しかったのか?まあ茜ちゃんからも貰えなかったんならそうか。
『えっ、受験でそれどころじゃなくて』
茜ちゃんが帰ってきたからという理由は伏せておく。
「あー...、そういうことか」
どこか納得したように凌兵くんは頷いた。
「とにかく、俺が今年もお前にだけやる理由を考えればわかんだろ」
『チョコレートが欲しかったから来年は忘れずよこせよ...って事?』
「はあ??さては、お前本当に馬鹿だな!?チョコが欲しいんならコンビニ行くわ!!」
ブチ切れの凌兵くんに、えー、と困惑する。なんでここまで怒られてんだ私。
「お前の事が好きだから毎年毎年ホワイトデーにお返し持ってきてたんだろうが!!」
そう怒鳴り散らしたあと、凌兵くんは1つ息を吐いて、それから、あっ、と呟いて顔を真っ赤に染め上げた。
「帰る!!」
私の腕から手を離して、踵を返した凌兵くんの長い後ろ髪を思わず掴んだ。
「いってぇ!?何しやがる!!...あ?」
怒った様子で振り返った凌兵くんは、ぽかんと口を開いた。
「お前...、顔真っ赤」
『う、うるさいなぁ!誰のせいだと思ってるの』
「ハッ、俺」
鼻で笑って、凌兵くんはそう言って親指で自身を指さした。
『...茜ちゃんの事が好きなんじゃないの』
「はあ!?茜はただの幼なじみで、妹みてえなもんに決まってんだろ」
いや決まってはないと思うけど。
そうなのか。凌兵くんは私の事が、好きなのか。ああ、もう、こんな年下の子にドギマギさせられるとは思ってなかった。
『あー...返事は来年のバレンタインでもいいですか?』
思わず敬語でそう聞けば、凌兵くんは、はあ?とキレかけたあと、チッと軽く舌打ちをした。
「仕方ねぇな。いくらでも待ってやるよ」
そう言って凌兵くんはニヤリと口角を上げた。
「その代わりだ。言っちまったからには俺はガンガン攻めるからな、覚悟しとけ」
イヒヒと悪魔的な笑い方をして、じゃあな、梅雨と凌兵くんは家を出ていくのであった。
お隣の男の子
いつまでも年下の子供じゃないんだなぁ。