2020年
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俺がいつからか目で追い始めた彼女は、存在感のない俺とは真逆でとにかく目立つ子だった。
『おっはーよう!影野!』
昇降口で靴を履き替えていれば、ぽん、と彼女に背中を叩かれた。
「お、おはよう...水津」
そう言えば水津はキラキラとした笑顔で、うん、おはよう!ともう一度挨拶をくれた。
「わー水津、今日も煩いね!」
『煩いね、じゃないよ!おはようは!?』
ちょうど登校してきた同じクラスの女子に声をかけられて、水津はそう返す。
「はいはい、おはようおはよう」
『うわ、ムカつく〜!』
そう言いながらも靴を履き替えて、水津はその女子と並んで教室に向かって歩き出した。
「、」
今日も、挨拶して貰えた。
俺が水津の事を気にしだしたのは、今年同じクラスになったばかりの時に、存在感のない俺なんかに彼女が今のように朝下駄箱の前で会うと挨拶をしてくれたからだ。
同じ教室に向かうので、彼女達の後をゆっくりと付いてあるけば、廊下ですれ違う別のクラスの人にも声をかけられていて、改めて水津は人気者だなぁ、と感心する。
『おっはよー』
そう言って水津が教室に入れば男子達から、うおおおお!!!と歓声が上がった。なんだ?と思いながら俺も教室に入る。
「水津!チョコくれチョコ!」
「お前なら用意してくれてると俺は信じてる!!」
そう言って男子達が群がっていて、ああ、と察する。そうか、今日は14日。バレンタインデーだった。
ふふ、存在感のない俺にはあまり関係のない行事だから忘れてたや。
『しょうがないなぁ。哀れな君らにチョコをやろう!』
そう言って水津がバッグからお徳用と書かれたチョコの袋を出して見せて、男子達が一斉にああ...と落胆する声がした。
それでもいいやとチョコを貰いに群がる男子達を避けて、自分の席に座る。
カバンを開けて持ち帰っていた教科書やノートを机の中に突っ込もうとして、こつん、と何かに当たって首を傾げる。
なんだろう。昨日机の中は空にして帰ったと思ってたんだけど。
ゆっくりと机の中の物に触れて引っ張り出してみる。
ハート型のラッピングの如何にもな箱。
予想外の物が出てきて、驚いて一度机の置くに押し込み誰にも見られてないかと、キョロキョロと当たりを見渡す。うん、誰も気づいていないみたいだ。
これ、俺宛に?
そっとクラスメイトにバレぬように長い前髪をカーテンにしてそっと机の中を覗き見る。
箱を手に取ってクルクルと回して見てみるが、誰からとかも書いてない。もしかしたら箱の中に入ってるのかもしれないが。
しかし、どうしよう。ハート型なんて、これ...そういう事だよね。でももしかしたら誰かのイタズラかもしれないし、別の人のが間違いで俺の机に入れられちゃったのかもしれないし。
机から顔を上げて、みんなにバレて囃し立てられる前に開けて確認しないと再びキョロキョロと周りを見れば、男子達にお徳用チョコを配っていた水津と目が合った。
えっ、どうしよう。こ、こっちに来る。
慌ててまた机の置くに箱を直す。
『かーげのっ!これ影野にもあげるね』
そう言ってお徳用チョコを握った水津の手が差し伸べられる。
「ありがとう」
そっと机の中から手を出して、両手でチョコを受け取る。
うーん、気になってる子からのチョコがこれか。俺なんかにもくれるのは嬉しいけど。水津は優しいからなぁ。
「水津ー!私にもちょうだい!」
『はいはーい』
女子にも呼ばれてクラス皆に配る勢いだなぁ。目の前から去っていく水津を見ながら貰ったチョコの包みを開いて、口に入れる。
「...甘い」
コロコロをチョコを口で転がしながら、指先で包みをいじって居たら、何か小さな文字が書いてあるのを見つけた。
なんだ、これ。じっと目に近づけてみる。
机の中の気がついた?、と書かれている。
机の中。...机の中って、えっ!?
思わず両手で口元を抑える。
これ、このチョコ水津からってことでいいのかな。でも一緒のタイミングで教室に入ったよね。いつ入れたの?昨日の放課後?
他のクラスメイトで机の中を確認する人は居ないし、おそらく俺だけに?
目線で水津を追えば振り返った彼女が少し頬を染めて笑い、シーと人差し指で静かにと言うポーズを作ってすぐさま、他の人達の輪の中に入っていってしまった。
シークレットチョコレート
俺に合わせてひっそりと渡してくれたハート型の箱にはメモが入ってて、返事はホワイトデーでいいよって書いてあって。今から必死で目立つお返しを考える事にする。