2020年
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帝国学園からの転校生で、幼少期にアメリカに居た帰国子女で、サッカー部に所属してて背も高く、愛想も良い。万人受けするタイプではないだろうが、刺さる女子には刺さるタイプだと思う。
今こうして離れた席から、朝イチに下駄箱に入れられたのであろうチョコを幾つか抱えて教室に入ってきた彼、土門飛鳥を見つめている私も刺さってしまった女である。
彼が、私の斜め前の席に座り机に置くチョコの数を数えて、ライバルは多いな、とため息を吐く。
「どしたの、水津ちゃん。ため息なんてついちゃって」
ため息の原因である本人に声をかけられて思わずビクリと肩を震わせれば、あ、ごめん、驚かせちゃった?と土門は片目を伏せて手を合わせた。
『え、いや。なんでもないよ』
あああ、もっと可愛く大丈夫だよっ!と言って返せればいいのに。生憎と私は愛想のいいほうでは無く、あまりのぶっきらぼうさに今度は自分にため息でそうだよ。
「そう?今日は女子も男子も浮き足立ってる奴らが多いのに、水津ちゃんってば深刻そうな顔でため息吐いちゃってるからさ」
気になって、そう言われて思わず固まる。気になるほど変な顔してたの?それを好きな人に見られたの?えっ、死にたい。
「えっ!?」
ぱちくりと土門は元々パッチリとしている目を更に大きくさせて驚いていた。それからすぐに真剣な表情になって、土門は自分の椅子をズリズリと押して私の席に寄せた。
「なんかあったのか!?死にたいなんて」
うわぁ、近い。じゃなくて、待って?さっきの口に出てた???
『いや、その言葉の綾みたいなもので。本当に死にたい訳では...』
思わず後ろに身を引きながらそう言えば、土門は怪訝そうな顔をした。
「本当か?」
うんうんと頷けば、ほっとした様子で土門は椅子の背に背中を預けた。
「でも、やっぱなんか悩んでんだろ?」
そう言って預けていた背をすぐに離して、土門はじっと私の目を見詰めてきた。
「俺で良ければ相談乗るけど」
あ〜めっちゃ良い奴。好き〜!!
けど、本人に本人の事なんか相談出来るか!!
『あの、大丈夫「おーい土門!」
私の声をかき消すように入り口付近に立っていた男子が大きな声で彼を呼んで、2人でそちらを見る。
「1年の女の子がお前に用だって!」
その言葉に土門は、あー...と困ったような声を出して、ちらりと私の方を見た。
『行って来なよ。待たせちゃ可哀想だよ』
「...ああ。悪ぃ」
片手でごめんとポーズして土門は椅子から立って入り口へと向かっていった。
その様子をボーっと見ながら、またため息をついた。なんで、ライバルの所に送らせてんだか。ドアを出た所で1年の女の子からチョコを手渡されていて、ありがとなとニコニコ笑ってる彼が見える。ああ、嫌だなと、机に顔を隠すように腕を枕にして伏せた。
その後すぐにチャイムが鳴って、慌てて席に戻ってきた土門が私に声をかけようとしてくれたタイミングで先生が入ってて朝礼が始まってしまった。
その後の授業休みにも、土門がさっきの話の続きがしたいのか声をかけようと、私の名前を呼びかけたところで、誰かに呼ばれて彼は、あー、と諦めたように呟いたあと私に手を振ってから呼んできた人の元に向かっていった。
『モテモテだなぁ』
「土門?」
『うん。...って!?』
1人でボソリと呟いたはずが、問がきて思わず声の主を確認する。
『一之瀬くん』
視界の横で、や!と手を挙げた彼は、土門がうちのクラスに転校してきた数ヶ月後、隣のクラスにアメリカから留学生としてやってきた男子で、土門がアメリカにいた頃からの幼馴染なんだとかで、よくうちのクラスに遊びに来ている。
彼もまた愛らしい感じの顔のイケメンで爽やかボイスの持ち主で、女子がほっとかないと思うのだが...。
『土門くんなら3年の先輩が呼んでるって呼び出されて行ったよ?一之瀬くんも呼び出しとか結構あるんじゃないの?』
「あるけど全部逃げて来ちゃった」
語尾に星マークついてそうな可愛い感じに言ってるけど、逃げて来ちゃったって...。
『なんで?』
「俺、好きな子からしか受け取らないって言ってるのに無理やり押し付けてくる子がいてさあ。断るのも疲れちゃったから土門とこに逃げて来たんだよね」
『一之瀬くんならいっぱいチョコ貰えるのに勿体ない』
「勿体ないかもしんないけど、好きな子に誤解されるような事は俺はしたくないんだよね」
『へぇ、一途なんだね』
「土門と違ってね!」
ケラケラと笑いながらそう言った一之瀬のその頭の上に、トンと縦に褐色の手が乗せられた。
「いーちーのせー」
「やあ、土門。モテモテなんだって?」
少しムッとした様子の土門にケラケラと笑ったまま一之瀬は、片手を挙げる。
「いや、モテモテって...お前の方が貰うでしょうよ」
「俺は秋以外からは貰わないよ」
『わお、一之瀬くんかっこいいね』
でしょ?なんて言って一之瀬は指を2本揃えてウインクを投げてきた。アイドルだったら完璧なファンサだな。
てか、秋ちゃん?って確か2人の幼馴染だよね。そっか一之瀬は彼女の事が好きなのか。
「俺は土門と違って一途だからね」
「はあ!?俺だって、」
そう言って土門は思わず口を噤んで、一之瀬がどこか楽しそうに笑った。まあ土門はたくさんの女の子からチョコもらってる時点で反論できないよねぇ。
「女子的には好きな人がたくさん他の女の子からチョコ貰ってるのってどうなの?水津?」
『えっ?』
私に振るの?
何故かニヤニヤとした一之瀬と、それを一瞬不服そうに睨んだ土門がじっと私の方を向いた。
『えーっと...、普通の女の子は嫌かも知んないけど。私はチョコたくさん貰うって事は、色んな人に愛されてる、魅力的な人...って事だと思うから。それに人の好意を無下にしないってのもいいんじゃないかな?...まあ、ちょっと妬くけど』
「へぇ、だってよ土門」
ニヤニヤと笑ったまま一之瀬が土門の腰を肘でつつけば、土門は少し赤い顔して辞めろよと怒っている。あからさまなフォロー過ぎただろうか。
「おっと、もうすぐ昼休み終わるな。じゃあね、お二人さん!」
そう言ってまたウインクをした一之瀬は、足早に教室を出ていった。
「ったく...。あ、と、そうだ。昼休みも相談乗れなくて悪ぃ。もう...時間ないよな。なあ、水津ちゃん、放課後は...あー、俺が部活があるわ」
相談は別にいいんだけどなぁ。
けど、上手く行けばカバンに入ったままのチョコを渡せるかもしれないし。
『あの。部活終わるまで教室で待ってるよ』
「え、けど遅くなるぜ」
『いいよ。話聞いて貰うんだったら、人が居ない時の方がいいし』
「そうか。なら、放課後な」
ニッと笑った土門に頷き返して、5限目が始まるのを待つのだった。
「悪ぃ、待たせた!」
サッカー部の練習が終わって余程慌てて着替えて教室に戻ってきたのか、土門は学ランの前が開けっ放しだった。
まだ2月なのに寒くないのか。誰もいなくなった教室のエアコンも切られたので私は寒い。
『着替えくらいゆっくりしてきて良かったのに』
「いや、結構遅くなったからさ」
前のボタンを止めながら、よいしょと土門は向き合うように向かいの席に座った。
「で、水津ちゃんは何に悩んでんの?」
『...あー、その』
真剣に話を聞こうとする土門の目に耐えられなくて、思わず目をそらす。
『悩んでる、というかね...』
うん、と土門は相槌を打つ。
『その、好きな男の子にチョコを渡そうかと思ってたんだけど』
「は、」
土門は口を開けて、それから待って、と呟いた。
「え?水津ちゃん、好きな奴いるの...?」
『...うん』
まじかぁ、と土門が小さく呟くのが聞こえ、恐らく恋愛相談だとは思ってなかったんだろうなぁと察する。
「なんで、それがあんなため息に?」
『...たくさんチョコ貰ってたから。私も下駄箱にチョコ入れておけば良かったなぁ、って』
「なるほど。結構モテる奴なんだな」
そうだよ。結構モテるんだよ君は。授業休みも昼休みも女の子に呼び出されてたでしょ。
「誰」
じっと、大きな瞳が私を捉えてそう聞かれて、ボンと火が吹くくらい顔が熱くなり真っ赤に染まるのが分かった。
「いや、やっぱい『......くん』
やっぱいいと言いかけた土門は、え?と聞き返した。
『...土門くん』
「なに?」
名前を呼ばれただけ思った様子の土門にそうじゃなくてと首を振る。
『いや、だからその...土門くん、なんですけど。チョコ、渡そうと思ってたの』
そう言って、机の下に隠していたチョコをずい、と差し出す。
「...は、え?お、俺?え?今の話の流れで俺なの!?」
こくこくと頷けば、土門はあーと唸り声を挙げた。
『たくさん貰ってたからもう要らないかもしれないけれど』
「いる!絶対にいる!」
そう言ってチョコを差し出した私の手ごと土門が両手で包んだ。
「今日貰った中で何よりも誰よりも1番嬉しい!」
『えっ、あれだけたくさん貰ってたのに!?』
「あー、分かんねぇかな」
そう言って土門は、赤くなった頬を掻いた。
俺も好きってコト!
そう言った土門から、手の甲にキスが降ってきたのだった。