2019年
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「暑いね」
「夏ですからね」
流石の暑さに普段飄々としている野坂さんも、額に汗をかいていた。
次の試合の作戦会議をしようと、野坂さんと、学園内にある学生寮の野坂さんの部屋に移動している最中だった。
「あれ?梅雨さんだ」
『んしょ...、』
野坂さんの声に正面を見れば、重たそうに両手でビニール袋を掴んで歩いている水津さんが居た。
「梅雨さん」
野坂さんが声をかけると、水津さんは気がついて、『ああ、君らか』と零して荷物を一生懸命持って近づいてきた。
腕がぷるぷるしてるので、相当重そうだ。
「重そうですね。持ちますよ」
そう声をかければ、水津さんはぱあっと顔を輝かせた。
『西蔭~!!ありがとう。そうしてくれると凄く助かる~!!!』
このくらいで凄く喜んでくれるなんて、水津さんはとても可愛らしい人だ。
傍に寄ってその細腕からビニール袋を受け取る。
「!!」
ずっしりと腕に掛かる負荷に、少し驚いた。随分と重い。
「これ、何が入って...スイカ??」
「え、スイカ!?」
袋から少し覗いた緑と黒のこのシマシマの球体はどう見てもスイカで、そのスイカが大好物である野坂さんの反応がめちゃくちゃに速い事にも驚いた。
「梅雨さん、これどうしたんですか!」
意気揚々と野坂さんが質問する。
『んー、今日、呼ばれたから月光エレクトロニクスの本社行ってきたんだけど、そしたら帰りに御堂院のジ...』
あ、今ジジイって言いかけたな。
『んんっ、御堂院さんが持って帰れって渡してきたんだけど、有り得なくない??歩きで来た女性にスイカ1玉持って帰らせる!??』
「え?最高じゃないですか」
あ、もう野坂さん、スイカ脳になってますね...。
『いや、最低だよ!!どんな嫌がらせなわけ』
「確かに、女性に歩いてコレを持って帰らせるのは酷いですね」
『流石西蔭話が分かる』
水津さんは、ずい、とつま先立ちをして、腕をめいっぱい伸ばして、よしよし、と俺の頭を撫でてくる。
「いや、あの水津さん...」
「確かに、西蔭の言う通りだね。西蔭ならスイカ2玉持って帰って来れたもんね」
いや、野坂さん、ズレてます。
「...とりあえず、これ寮の食堂に持って行きましょう」
こうして食堂に持って行ったスイカは、野坂さんと水津さんがテキパキと、大きなタライを用意して、それにスイカを1玉入れその上にタオルをかけて流水に浸けた。
こうすることで早くスイカが冷えるんだそう。野坂さんは勿論のこと、水津さんも妙に詳しかった。
そして、妙に詳しい2人によると冷やし過ぎたら甘みがなくなってしまう、との事で、1時間ほどこのまま食堂で次の試合の作戦会議を行って終わったらオヤツに食べてしまおうという事になった。
先程までの話が噛み合ってなかったというか一方的に野坂さんが可笑しかったのが不思議なくらい、野坂さんと水津さんはサクサクとスムーズに作戦の話し合いを行っていた。
「よし、じゃあそういうわけでオヤツにしようか」
『んー、じゃあ普通に切っちゃっていい??』
「普通以外に何があるんですか?」
『スイカ割りするとか』
「ふふ、それは楽しそうだね」
野坂さんはにこやかに笑っているが、普通に考えてダメでしょう。
「いや、流石にここでやったら怒られますよ」
「『うん、冗談だよ』」
2人揃ってにこやかにそう言うが、2人とも真剣に言うからボケているのか冗談なのか本当に分かりずらい。
「はあ...」
『さ、切るから2人とも手伝って~』
「あ、はい」
台所へと立った水津さんを追って野坂さんと共に付いて行く。
『とりあえず、縦半分にまず割るけど、ヘタを先とっちゃうか。西蔭、ちょっとスイカ抑えてて』
「はい」
まずヘタの部分を並行に少し切り落とし、その切り落とした部分を下に向けてスイカが転がらないようにして、そこから縦半分に包丁を入れた。
『で、2分の1になったコレをさらに半分にする。んでスイカはこの球体の真ん中の所が1番甘味があるのね。だから均等に行き渡るように、コレを放射状に切ってく』
そう言って水津さんは4分の1になったスイカをザクザクと5等分に切っていった。
『野坂、お皿持ってきて、切れたの乗せってって』
「はーい」
野坂さんの返事を聞いて水津さんは先程4分の1にした片割れを5等分に切っていく。
『残り半分どうしようか。食堂の冷蔵庫切って入れといたら、他の子食べるかな』
「そうですね」
『じゃあ、野坂、もう1枚お皿持って......』
持ってきてと言いかけて水津さんが止まった。
不思議に思い、野坂さんの方を見る。
『野坂...お皿に乗せってって言ったスイカどこ行った...?』
先程、渡したはずの5切のスイカは野坂さんの手に持った皿の上で皮だけの状態になっていた。
「野坂さん...」
「ごめん、つい食べちゃった」
『え、つい、で食べれる量と時間じゃないよね??』
嘘だろ、と水津さんは目をぱちぱちさせている。
「野坂さん、スイカお好きですからね」
『いや、好きって次元じゃないよ』
「残り半玉も全然余裕ですよ」
野坂さんのその言葉に、OKと言って水津さんは両手を上げて降参のポーズを取った。
『わかった。西蔭はどのくらい食べる?』
「俺は2、3切れあれば充分です」
『了解した』
そう言って、水津さんは残りの半玉も先程と同じように更に半分にカットし、それをそれぞれ5等分にした。
『じゃあ、これ西蔭、3つね』
そう言って俺に3つスイカを乗せたお皿を渡し、水津さんは自分の分のお皿に2つ程乗せた。
『はい、残りは野坂好きなだけ食べていいよ』
「うわぁ、本当に?嬉しいな」
そう言って野坂さんは、1切れのスイカに手を伸ばして、ぱくりとかぶりついた。
それを見て俺も水津さんも自分の分のひとつに齧り付いた。
『うん、美味しい』
「そうですね」
ふと、野坂さんを見ればもう4つ目に差し掛かっていた。
『...なんだろうねぇ。嬉しそうに食べてて、食べてる姿は可愛いのに、量が1ミリも可愛くないな』
「ん、」
齧っていたスイカをごくん、と飲み込んで野坂さんは口を開いた。
「初めて梅雨さんに可愛いって言ってもらった気がします」
『初めてだっけ?』
「そうですよ。いつも西蔭ばっかり可愛がってるじゃないですか」
『いや、だって西蔭は可愛いから』
急に俺を巻き込まないで欲しい。
「俺を可愛いなんて言うの水津さんだけですよ」
正直、可愛いと言われるのは不服だ。
『そう?西蔭は可愛いけどなぁ』
「ほら、そうやって西蔭ばっかり構うじゃないですか」
『なぁに、もしかして、野坂ってばヤキモチ?』
水津さんはニヤリと不敵に笑って野坂さんを見た。
「そうですよ」
それだけ言って野坂さんは何食わぬ顔で
、しゃくしゃくと、スイカを食べ進めた。
『お、おう...素直に言われると困るな』
水津さんは驚いた表情を見せて、自身の皿のスイカを手に取ってかぶりついた。
『スイカ、美味しいね』
「そうですね」
「うん、そうだね」
ふたりの耳がスイカのように赤かったのを俺だけが知っている。
ただそれだけの事に少しだけ優越感に浸れた日だった。
1/9ページ