フットボールフロンティア編
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「よかった!水津!まだ帰ってなかった!!」
翌月曜日のお昼に校長室に呼び出された円堂は帝国学園との練習試合と廃部の話を聞かされて、放課後やっぱり私の元にも来た。
帝国学園来る。サッカー部員大募集!!と書かれた大きな看板を持って円堂は、教室に残っていた私の元に現れ、ニカッと笑った。
それを見て口を開く。
『入らないよ』
「まだ何も言ってないじゃないか!!」
『いや、先週ほぼ1週間付き纏われたから流石に察する』
「何でだよ...!!水津は、サッカー辞めたわけじゃないんだろ!!」
水津は、か。
辞めたってのは、彼の事だろうな、恐らく。
『あのさ、円堂。私はそもそも最初からサッカーはやってないよ』
え?と円堂が私を見つめた。
『私がやってきたのはずっとフリースタイルフットボールでサッカーじゃない。サッカーボールを使うってだけで一緒の競技じゃないんだよ』
「それは...そうだけど、 けど、水津の技術ならサッカーでだって十分活かせるよ!!」
ガシッと円堂に両手を掴まれる。
そう言ってくれるのは正直とても嬉しいが...。
「水津〜!!頼む!今度の試合だけでもいい!部の存続がかかってるんだ」
部員が集まらなければ廃部。集まっても勝たなければ廃部。ある程度技術のある者を引き入れたいというのはわかるけど、サッカー部に入るのは私の役目ではない。
『はあ...』
諦めたようにため息を吐く。
「水津...!」
『やっぱり、入れないよ』
「...そっか」
しゅん、と円堂は頭を垂れる。
なんか凄い可哀想だけど、仕方ない。
私が入ることで話が変わっちゃうし、それに...、私が入る事を反対する子が絶対にいる。男の子達の仲間に入るのは、すっごく難しい事だと、私は過去の経験から知っている。
『あー...円堂?』
「まさか!」
『いや、そんなすぐに心変わりはしないよ』
そう言えば、だよな〜と円堂は頭を掻いた。
そう、だなぁ。
『ねぇ、円堂。チラシとかある?』
「え?」
『その看板みたいに、部員求むってポスターとかないの?あれば配るの手伝うくらいはできるけど...』
「水津〜!!」
円堂はうるうると瞳をうるわせ嬉しそうな顔をした。
「けど、そういったのないんだよな...。さっき新聞部には宣伝頼んだけど」
『そう』
私は引き出しからルーズリーフとシャーペンを取り出す。
「水津?」
『とりあえず部員求むってのと、後は、帝国学園との試合があることも記入して...帝国との試合いつ?』
「え?今週の金曜の放課後だけど...」
『おーけー』
箇条書きでメモをして円堂を見上げる。
『ポスターとチラシ出来たら秋ちゃんに渡しとく』
「え!作ってくれるのか!!」
『うん。あと、うちのクラスにいる影野って男子。今日はもう帰ってるけど、明日勧誘してみたらどう?タッパーもあるしDF向きじゃないかな。部活もしてないみたいだし』
「水津〜!!!ありがとう!!明日勧誘してみる!!水津は良い奴だな!!」
そう言って円堂はドタドタと教室を出ていった。
『いや、ほんとにいい人なら入部してるよ』
そう呟いて、スケッチブックをカバンから取り出す。
授業用のではないスケブが入ってるのは、単に私がオタクだからだ。
まずはそこにサッカーをしてる人の絵を描き始めた。
はじめて1時間ちょっとで完成したポスターとチラシを持って、夕暮れの中私は鉄塔広場に向かっていた。
完成したそれらを持って、サッカー部の部室に向かったのだが、誰も居らず、木野秋ちゃんの居場所を探したのだが校内で見つからず、途中で、サッカー部は鉄塔広場に行ってるんだったと思い出した。
鉄塔広場へと到着すれば、そこでは8人の男子中学生がボールを追っかけたり、タイヤを顔面で受け止めてたりした。
えっ、顔面で!?
『ちょ、ちょっと!!なにやってんの大丈夫!?』
思わず飛び出して駆け寄る。
「はい...大丈夫ッス...って、えっ、だ、誰ッスか!?」
タイヤの後を顔面に付けたまま、8人の中で1番巨体で緑のアフロヘアーの男子がそう声を上げた。
その声に、残りの7人も動きを止めてこっちを一斉に見た。
「あ?お前...」
「あっ!水津!!」
8人の中に居た染岡がガンを付けてきて、その横でブンブンブンと円堂が大きく手を振ってきた。目の前にいるんだからそんな力いっぱい振らなくてもわかるよ。
「なんだ、水津も来たのか」
そう言って近づいて来たのは、雷門サッカー部ではなく、陸上部の風丸。
『やぁ、一昨日ぶりだね』
「なんだ、風丸と知り合いだったのか?」
円堂の問に、風丸はああ。と頷いた。
「なにしに来たんだよ。こいつ、雷門の手先だろ」
『いや、手先って...』
染岡の言葉に思わずツッコミをいれる。
『夏未ちゃんとはただの友達なんだけどなぁ...。あ、そうそう。円堂。秋ちゃんは??』
キョロキョロと見るが秋ちゃんの姿が見えない。
「マネージャーなら今日はもう帰ったぜ」
そう教えてくれたのは茶髪の少年。
『えっ、そうなの...』
じゃあわざわざここまできた意味ないし、むしろなんで私は自分からエンカウントしに来た。
『どうしようか。円堂、一応さっき言ってたの出来たんだけど』
先程書き上げたポスターとチラシを円堂に手渡す。
「もうできたのか!すげー!!」
「なんでやんすか?キャプテン」
小柄な栗頭の子が近づいて覗けば、他の部員達も円堂の後ろから覗きこんだ。
「わっ、凄い!ポスターですか!?」
「絵、うまっ!?」
小柄で坊主頭にポニーテールを付けた子と、オレンジの長いアフロヘアーの子がそう言ってくれて、ちょっと照れる。
オタクとして推しのファンアートとか描いてたし、あとは職場のPOP作ったりとかしてた社会人経験、それが役にたった。
「キャプテン美術部員にポスター制作お願いしてたんっスね〜」
『いやいや、美術部じゃないよ』
「えっ、違うんッスか?」
ええ、と大きく頷いた。
『趣味でこういうの描くの好きなだけだよ。どう?これで大丈夫?』
「ああ!ばっちりだよ!水津ありがとうな」
『じゃあコレは円堂に預けて帰るね。ポスターは目立つとこに貼って、チラシの方は印刷して配るといいよ』
それじゃあ、お邪魔したね。と踵を返すと、円堂にがっちり腕を掴まれた。
「水津も練習していかないか!!」
キラッキラと顔を輝かせて円堂が言う。
「ああ、そうだな。俺も今日からサッカー部に入部したんだ。素人だから良ければいろいろ教えて欲しい」
そう言って風丸も手を差し伸べる。
その様子に他のメンバーは、え?と困惑しているようすだった。
ただ、私がずっと円堂に勧誘され続けてるのを知っている染岡だけは、品定めするように、じっとこちらを見てきた。
というか、風丸今、俺もって言ったな??もしかして私がサッカー部入ってると思ってないか??
『あの風丸?私サッカー部じゃないよ?』
「えっ?そうなのか?こないだ円堂に勧誘されたって言ってたからてっきり...」
「ああー!!」
風丸の発言を聞いて、いきなり茶髪の男子が私を指して大声を出した。
「うるせえぞ、半田!!」
隣に並んでいた染岡から、怒鳴られたのも無視して、半田は続けた。
「お前、例の転校生か!!円堂と木野がサッカー上手いって言ってた」
「おう!」
そうだぞ、と円堂が頷く。てか、円堂だけじゃなく秋ちゃんも褒めてくれてるの、うれしいな。
『いや、サッカーは上手くないよ。リフティングが得意ってだけで』
「いやいやあれはすげーって!!ぴょーんってなってくるってなってズバーンって!!!」
興奮したように円堂が皆に力説するが、どうやら1ミリも伝わっていないようだ。
「キャプテン、何言ってるかぜんぜんわからないでやんす」
「とにかくすげーんだって!!なあ!良かったらまた見せてくれよ!!」
そう言って円堂はサッカーボールを持って、こちらに渡すように向けてきた。
『え"っ』
ここでやったら円堂以外、特に1年生ズも勧誘してくるようにならないか...??
極力関わらない方向でと思ってんのにどんどん関わる方向に行ってないかこれ...。
『いや、あの...流石に、この格好だしちょっと...無理かな?』
スカートの端を摘んで、今日は出来ないよアピールをする。
そうすれば、円堂以外のメンバーは頬を赤く染めたり、目を逸らしたりしだした。
「確かに...、サッカーする格好ではないよな」
「あれ?でもこの前河川敷でやってた時もスカートだった『円堂っ!!あれは違う、あの日はたまたまスパッツ履いてた。今日は履いてない』
危ねぇ危ねぇ、止めないと円堂が余計な事を言う所だった。まあ本当は今日もスパッツは履いてるけんだけど。
『わかった!?』
私の剣幕に押されて、円堂はこくこくと頷いた。
『分かればよろしい。じゃあ、私はもう帰るから。君らももう日が落ちたし、早々に練習切り上げて帰るんだよ』
それじゃあね、と今度こそ踵を返して、梅雨は鉄塔広場を後にした。
それを見送って、ずっと梅雨を品定めするように見つめていた、染岡が口を開いた。
「円堂、アイツにここで練習してるって言ってたのか?」
「え?...どうだったかな...?確かこのポスターは出来たら木野に渡すって言ってたし、伝えてなかった気がする!」
円堂の言葉に、あれ?と風丸は首を傾げた。
「水津、結局、サッカー部でもないんだろ?なんで知ってたんだ?」
「マネージャーから聞いたんじゃないんですか?」
「でもマネージャーがいなかったからここに来たって言ってなかったか??」
「えっ、なんっスか、それ...怖ッ」
「やっぱり、雷門の手先でサッカー部のこと監視してんだろアイツ」
染岡の言い分に、サッカー部の1年生達は、えっ!?と驚いた。
「わざわざポスターとチラシ作ってきてくれたのに?」
「俺らを欺く手段だろ」
「えぇー!!だとしたらめちゃくちゃ恐ろしいでやんす...」
「俺...トイレ行ってきてもいいっスか!?」
そんな1年生の反応を見つつ、円堂はそうかなぁ?と首を傾げていた。
生まれる疑惑と恐怖
翌日、サッカー部1年生達と廊下ですれ違って蜘蛛の子を散らすように逃げられてひとり首を傾げる梅雨がいた。