フットボールフロンティア編
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昼休みに秋ちゃんが言ってた通り放課後でも円堂の元気はないようだった。
代わりに風丸と染岡が練習を仕切ってくれたおかげで部活動は機能していたが、気がついていない1年生達に心配かけまいといつも通りを振舞っている円堂は見ていて痛ましかった。
部活動が終わり木枯らし荘に帰り荷物置いて、スポーツウェアに着替える。
キッチンでご飯を研いで、炊飯器にセットしてスイッチを入れる。
それから、もう一度部屋に戻って、手のひらサイズのリフティングボールをひとつ持ってショートパンツのポケットにねじ込んで、1階に降りる。
一応ヨネさんに、練習に行ってきますと声を掛けて玄関を出ててランニングを始める。
外は、夕日が沈みかけていて空にはうっすら星が見える。
普段なら木枯らし荘の前の庭でリフティング練習するんだけれど、今日は目的があって鉄塔広場に向かった。
まあ、言うなればフラグ回収だ。
「あ、梅雨ちゃん!」
商店街を抜けた先で、向かい側から歩いてくる、制服姿の一之瀬と秋ちゃんにであった。
ほう、好きな子と一緒に帰るとはやるなぁ一一之瀬。恐らく2人と幼なじみの土門は空気読んで1人で帰ったんだろうなぁ。
そんな事を思いつつ、よ!と手を挙げて駆けていた足をゆっくりと緩めて2人に近づく。
『っ、やあ、秋ちゃん。一之瀬も』
「水津はもう1回家に帰ったの?」
『ああ、うち学校から近いから』
「へぇ、そうなんだ」
「梅雨ちゃんは...ランニング?」
そう聞かれて、うんと頷く。
「そっか。頑張ってね」
『ありがとう。2人も遅くまでウロウロしないで早く帰るんだよ』
「ああ」
「またね、梅雨ちゃん」
バイバイと2人に手を振って、鉄塔広場の方に向かう。
商店街よりまだ先にある鉄塔広場に着く頃には、すっかり陽は沈んでいた。
広場の入口にある自販機で、スポーツドリンクを2本買って、1本は開けて飲んで水分補給する。少し飲んだところでペットボトルのキャップを閉めて、小高い丘になっている鉄塔広場を登っていく。
登っていくに連れて、何かがぶつかる音と、はああああ!とかうぉおおお!とかそんな雄叫びが聞こえてきた。
鉄塔の麓に到着したら、木にロープで結んだタイヤ相手練習している円堂が居てやっぱりか、とため息を吐いた。
相変わらず、危ない練習やってるなぁ。
まるで相撲のぶつかり稽古のようだ。
ちょうどタイヤにぶっ飛ばされた円堂が地に転がったので、近寄ってしゃがんで仰向けになったその額のバンダナの上に先程買ったペットボトルを乗せる。
「え、水津?」
円堂は丸い目をクリクリとさせて驚いている。
今日の部活動中、秋ちゃんと夏未ちゃんは円堂を見守る事に決め、事情を知る2年生達は支えると決めていた。だから1人くらい叱る人がいてもいいだろう。
『まったく。無茶苦茶な練習して』
彼の額からペットボトルを除けて、手を差し出して起き上がらせる。
「無茶苦茶でも何でもやるしかないんだよ。オレがゴールを守らないと...」
そう言ってまだ、木にぶら下げたタイヤの元に行こうとしたので、コラコラ待ちなさいと襟首を掴む。
「ぐえっ。な、なんだよ...!」
『ちょっと休憩なさい』
「そんな時間は『いいから、ほらこれ飲んで』
そんな時間はない、と言いかけた円堂の言葉を遮って、彼の手にペットボトルを握らせる。
『水分補給は大切よ。脱水症状を緩和するのはもちろんだけれど、こういったスポーツドリンクに含まれる電解質とミネラルは筋肉の収縮や心筋の収縮をサポートするんだから』
「えーと?」
よく分からなかったようで円堂はペットボトルを握ったまま首を傾げた。
『とにかくスポーツするなら定期的に水分補給しなさいってこと』
「なるほど?」
とりあえず飲めばいいんだな、と円堂はペットボトルのキャップを開けて飲んだ。
『練習するのはいいけれど、怪我とか脱水症状とか気をつけなさい。ウチには君しかキーパーいないんだから。無茶して決勝戦出られないんじゃ元も子もないでしょう』
「...それは、そうだけどさ」
ペットボトルのキャップを閉めて、円堂は下を向いた。
「オレは鬼道や水津みたいに頭よくないし、とりあえず体を動かす以外、どうしたらいいのかわかんねーんだもん」
『確かにあれこれ考えるより、とりあえず体を動かす方が円堂には合ってるとは思うけど、無茶をするのは話が違うよ』
「水津は無茶って言うけど、いつもと同じじゃダメなんだよ!無茶でもしなくちゃ、世宇子中のシュートは止められない」
円堂がぎゅっと握るので、ペットボトルはベコベコと音を立てた。
『その無茶で身体を壊すかもしれないって言ってんの!』
「わかってるよ!」
『分かってない!!』
そう大声で叫べば、円堂はムッとした表情に変わった。
「なんだよ!水津だってキーパーじゃないんだから、分かんないだろ!!」
怒鳴る円堂の言葉に、しゅんとなる。
『...分かるよ』
確かに私はキーパーの経験どころかサッカー選手の経験だってない。それでも...。
『無茶苦茶な練習やって、怪我をして大会に出られなくなった事あるから。分かるよ』
え?と円堂は怪訝そうな顔でこちらを見た。
『私も、自分より上手い人達と戦う事に焦って滅茶苦茶な練習やったんだよ』
ポケットに押し込んでいたリフティングボールを取り出して、それを高く高く上に投げた。
『疲れが溜まった状態で無茶な練習を行った結果、失敗して頭から落ちた』
リフティングボールは重力に従って地に叩きつけられて、そのままコロコロとコロコロと転がった。
円堂は、青い顔をして、黙ってこちらを見ていた。
『足は無論折れたし、頭からいったから脳震盪も起こすしで即入院。当然、試合には出れなかった』
それどころか後遺症も残って二度と、ボールを蹴れなくなった。
『私はずっと後悔してる。だから、今までだって君らに散々怪我には気をつけろって言ってた。わかるよね』
「...水津」
『練習するなとは言ってないよ。身体を壊すような事はやらない』
いい?と聞けば、円堂はゆっくりと頷いた。
その頭を良しとひと撫でして、転がったリフティングボールの元に向かう。
『じゃあ、練習やるよ』
へ?と驚く円堂にリフティングボールをつま先で蹴り上げて、シュートする。
「うわっと、」
突然の事だったし、普段のサッカーボールよりもずいぶんと小さいそれでも、円堂は何とか両手でキャッチした。
『ナイスキャッチ!』
「えっ、え?練習、いいのか?」
『私が監視しとけば、無茶苦茶は止められるからね。それとも今日はもうやめとく?』
まあ、時間も結構遅いしな、と星空を見上げる。
門限とかあるなら、と円堂を見れば彼はブンブンと首をふった。
やれることはやる
元の筋書きを壊さないよう、怪我をさせないようにお節介するのって難しいなぁ