フットボールフロンティア編
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鬼道から返ってきた衣服と一緒に入っていた1冊の雑誌。表紙には1人のサッカー選手の写真が中央にあり、あとは英字が書かれていた。サッカーやフットボールと書かれているのはかろうじて読めた。
鬼道にコレはなに?と聞けば、服を借りた礼だと言われた。
そして、日本の本屋じゃ基本的に取り扱いがない雑誌で、フリースタイルフットボールを特集している回だが、気に入らなかったか?と少し不安そうにに聞かれた。
こっちじゃそれほど知られてないからか雑誌にフリスタの事が書いてあることなんてほとんどないので、喜んで頂いた。
そうそう、その際にマントの代金も払っておこうと言われたのだが、そもそも私は支払いをしていないと言えば、は?と言われ、だからと言って鬼道に影山に支払って貰ったなんて言ったらせっかく見つけたマントを破り捨てかねないので、あしながおじさんに買ってもらった事にしておいた。
朝練の為に早くから登校して、部室の鍵を開ける。
恐らく私が1番、学校から住んでるところが近いので着くのも早いのだが、時々私より先に円堂が来ていることがあるので、どれだけサッカーがやりたいんだ、と思う。
今日はまだ誰も来ていないので、机に座ってカバンから鬼道に貰った雑誌と翻訳用にと持ってきた電子辞書を広げてページをめくった。
「おはよう!」
そう言った声と共に、ガラガラと部室の扉がスライドされる。
『おはよー秋ちゃん』
元気いっぱいの笑顔で入ってきた秋ちゃんは、荷物を置いてから私の傍に寄ってきた。
「水津さん、なにしてるの?」
そう言って秋ちゃんは机の上に置かれたものを見て、あっ、サッカー雑誌と呟いた。
「これ全部英語ね。何処の?」
『そう、だから全力翻訳中。アメリカの雑誌だって、鬼道がくれた』
「え?鬼道くんから?」
驚いた顔をしてる秋ちゃんに、うんと頷く。
『フリースタイルフットボールの事載ってる回だからって』
「あー、なるほど。それにしても鬼道くんからね」
そんなに変?と秋ちゃんに聞けば、ううんと彼女は首を横に振った。
「試合でもフィールドまで連れてきたの水津さんだったものね。意外と仲良しでびっくりしちゃった」
『あー、私、鬼道の事引っぱたいてたし、そこが仲良くなってたら驚くか』
そうそうと秋ちゃんは頷いた。
「鬼道くんプライド高そうなイメージだったから」
『あーね。ビンタされた意味が分からないほど子供じゃなかったって事じゃない?』
「あー、なるほどね」
納得納得と頷いた秋ちゃんは、雑誌に興味があるのか勝手に、端を持ってページをめくる。
『あ、ちょっと、まだ翻訳中!』
「あっ、ごめんね。続き気になっちゃって」
『てか、今の間に読めたの』
「うん」
『はー、さすが帰国子女。英語つよつよじゃん』
そんなことはないけれど、照れたように秋ちゃんは頬を掻く。可愛いかよ。
『秋ちゃーん。代わりに読んでー』
そう言えば、秋ちゃんはうふふと笑って、いいわよ、と返事をした。
「じゃあ、前のページに戻って...あらら、」
秋ちゃんがページを戻そうとしたら紙と紙がくっついて、2つ前のページに戻ってしまった。
『あー、あるある。意外と雑誌めくるの難しいよね』
「え、」
『...秋ちゃん?どうかした』
急に雑誌をガン見したまま動かなくなった秋ちゃんを不思議に思い声をかけながら自分も雑誌に視線を移した。
『あ、』
これは...。
雑誌には一方的に見た事のある茶髪の美少年の写真が掲載されていた。
「...フィールドの魔術師...」
少年の写真の下にField magicianと書かれ、その下にKazuya Itinose(14)と記されている。
「一ノ瀬、一哉...うそでしょ」
秋ちゃんは震える手で、掲載されている写真に触れた。
そりゃあ死んだと聞かされていた友達が成長した姿で写ってたら驚くどころの騒ぎじゃない。
『秋ちゃん、大丈夫?』
いや、大丈夫ではないだろうけど。
「え、あ、うん...。梅雨ちゃん、悪いけどこの雑誌少し借りてもいいかな」
『うん、いいけど』
「後、土門くんにはこの雑誌の事秘密にしといて」
『うん...』
ハッキリしたことが分かるまでは、って事かな。
「朝練、朝練〜!」
そんな大きな声が外から聞こえて再び扉が開かれる。
「お!木野も水津も相変わらず早いな!」
「おはよう」
そう言って朝から元気いっぱいの円堂と、彼の幼なじみの風丸が一緒にやってきた。
「あ、おはよう円堂くん、風丸くん」
そう言いながら秋ちゃんは、2人に見えないように自分のカバンに雑誌をしまう。その手はやっぱり少し震えていた。
雑誌の件は予想にしなかった出来事だったが、恐らくこれでフラグが立ったはず。確かゲームだと見落とすと仲間にスカウトできないんだよね。
今頃、秋ちゃんに電話がかかってきてる頃かな、なんて思いながらお風呂から出る。
パジャマに着替えて部屋に戻って髪を乾かしていると、携帯が鳴り出した。
こんな時間に誰だ?と携帯を取れば、土門と表示が出ている。
『はい、もしもし?』
「あ、もしもし、梅雨ちゃん?」
電話に出て聞こえた土門の声は、いつものおちゃらけた感じとは違った。
『どうしたの?』
「...、秋からさっき、電話があって...」
『うん?』
「一之瀬が...、アイツから電話があったって!俺はいったいどうしたら?明日日本に来るって。アイツは死んだはずなのに」
うん、だいぶ混乱してるな。今朝の秋ちゃんも驚いていたが、いきなり死人から電話がきたと友人から連絡来たらそりゃあ、訳が分からなくなる事だろう。
『とりあえず、落ち着いて』
「えっ、あ、お、おう...」
『はい、深呼吸。吸ってー、吐いてー』
電話口で土門がスーハーと息を吸うのが聞こえる。
『落ち着いた?』
「...ああ。悪い。いきなりこんな電話して」
『ん、混乱してどうしたらいいかわかんなくて電話したんでしょ』
「ああ、ほんと悪い...」
随分と弱りきった声でそう言われては、こちらも心配になってくる。
『一之瀬ってのは君らの幼なじみ、なんだよね』
ああ、と電話越しに頷く土門の声を聴きながら、いや知ってるけどねと心の中で思う。
「...俺と秋は、あの時一之瀬は死んだって聞かされてたんだ。俺たちは目の前で事故にあった瞬間も見てる。それなのに、生きてるって...」
『何か、事情があったんじゃない』
「事情...」
彼の事情は、正直痛いほど分かる。
怪我でサッカーが出来なくなって死んでしまいたくなった私の気持ちときっと一緒だ。
『明日、日本に来るんでしょ』
「秋の話だとな...」
『本人会ってちゃんと話を聞くのが1番だよ』
「そう、だな」
明日、秋と迎えに行ってみるよ、と土門は言って電話を切った。
一之瀬一哉か。
道路に出た犬を助けるために道路に飛び込んで事故にあい、それによる怪我でサッカーのできない身体だと診断された彼は、サッカーができないショックから幼なじみ達には自身を死んだことにしてくれと親に頼んだ。
彼にとってサッカーができないということは死んだも同然だったということだ。
二度とサッカーができない、そう診断される事がどんなに苦痛か。
分かるからこそ、ゲームをやってアニメを見た私は......、一之瀬一哉が苦手だった。
同じようで違う子
あの頃の私は、私と違ってもう1度ボールを蹴る事が出来た彼の事が嫌いだった。