フットボールフロンティア編
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フットボールフロンティア全国大会、2回戦目。雷門中対千波山中の対決だ。
選手達が試合前の最終調整を始め、マネージャー達も準備に追われている頃だろう。
私はひとり監督の命で、ロッカールームに戻っていた。
『うん、似合う似合う』
「そうか」
ロッカールームには、14の背番号の書かれた黄色と青の雷門ユニフォームに身を包んだ鬼道がいた。
ユニフォームとユニフォームショーツ以外の物は自分で持ってくるとの事で、ソックスやスパイクは帝国学園の物をそのまま履いている。
『ゴーグルも青いし、意外と雷門ユニと相性いい...、ね...?』
「なんだ?」
途切れかけた言葉が気になったのか、鬼道は訊ねてきた。
『いや、君のその手に持ってるの...』
「マントがどうした?」
うん、マントだろうけどさ!色が真っ赤!!いや鬼道と言えばゴーグルに赤マントなんだけど、違うんだよ。
『色、それでいくの』
「...やはり、変か」
一応マントを羽織ってみて鬼道はそう言ったけど、やはりって鬼道も事前にその組み合わせおかしいって気づいてたんじゃん。
『だいぶ派手だね』
「...そうか」
そう言って鬼道はマントを外して畳んで、ロッカーに仕舞いだした。
まあ、彼の事だ事前に思っていたなら、あの青いマントを持ってきている事だろう。
そう思って一部始終を見ていれば、鬼道はそのままロッカーを閉めた。
『えっ...』
「なんだ」
『いや、...それで行くの?』
「仕方ないだろう。鬼道の名に恥をかかせるような、おかしな格好は出来ん」
...いつもゴーグル付けてんのは、おかしいと思ってないのに、赤青黄で信号機になるのはおかしいと思うの?どうなってんだ???
というか、マジでこのまま行く気???
『それはダメだよ』
思わず口に出して言えば、鬼道はどうしろと言うんだと呆れたようにため息を吐いた。
携帯を開いて時間を確認する。うん、試合開始までまだ時間はある。右手で携帯を弄りながら、左手で自分の荷物から財布を取り出す。
よし、最寄りの衣料品店まで徒歩10分か。こういう時マジで都会ありがたい。田舎じゃ最寄りが車で1時間とかザラだからな。
『すぐ戻って来るから待ってて!』
「え、おい!」
待てという鬼道の静止を無視して、ロッカールームを飛び出した。
超次元世界だ。きっと衣料品店に行けばマントが売ってるはず。
そう思い、スタジアムを出て全速力で街の中を走る。今のこの身体なら、何も気にせず全力で走れる。
走って、走って、走り抜いた先に目的の衣料品店があった。だが、中に入らず表で足を止める。
衣料品店って、紳士服店かよ!?慌てて調べたからちゃんと見てなかった...。
『うわ絶対マントとかないよ。どうしよう...』
あんな真っ青なマントあるわけがない。そう思い慌てて、この近隣に他の衣料品店がないか調べる。
「ほう。マントを探しているのか」
背後から聞き覚えのある声にそう言われて、思わず振り返って、そこに立っていた人物を見て目を見開く。
『影山...!』
鬼瓦さんが、接触を図ってくるかも知れないから気をつけろと言っていたがフラグ回収早過ぎないか。
じり、と1つ後退りすれば影山、フッと笑った。
「私はただスーツを新調しに来ただけだ」
そう言って影山は、つかつかと靴の音を鳴らして私の横を通り過ぎる。
「マントを探しているなら着いてくるがいい」
『え、』
ええっ...どうしたらいい?罠...かな。怪しいおじさんにはついて行っちゃダメだって言われて育ったんだけど。...あれ知らないおじさんだっけ?知らない怪しいおじさんは絶対ダメだろうけど、知ってる怪しいおじさんはどうなんだ。
ええいままよ!と影山の後について行く。
影山は鬼道のお師さんで彼にゴーグルやマントを付けさせたのも影山だったはず。来いと言うからにはマントが売ってるのを知っているはずだ。
店内に足を踏み込めば、いらっしゃいませの言葉の後に影山に気がついた店員が手を揉みながら、ようこそおいで下さいました、と擦り寄ってきた。影山が店にとって羽振りのいい常連客な事が伺える。
「本日はどのようなものをお求めで」
「マントだ」
「へっ...?マントでございますか...?」
店員の困惑した様子から、そんなもの扱ってない感が滲み出ている。
えーと、を繰り返す店員を見て、もう時間もないしどうしようかと携帯を開く。別の店舗を探すかと、踵を返したその時。これはこれは影山様!と一段と大きな声で言いながら、店の奥からスーツの男が出てきた。
「店長!あの...」
店員がこそこそ、と店長と呼ばれたスーツの男にに耳打ちするれば、彼はああ、と頷いた。
「君は持ち場に戻りなさい。...影山様、こちらへどうぞ」
店員が手のひらで指す方へ頷いて影山が歩き出す。
来なさいと言われて、後をついて行く。
「マントはこちらです」
そう言って店員が案内したエリアにはコートなどの羽織物が並べられてありその中に、マントもあるようすだった。
「本日お求めのマントはどう言った物を?」
「水津」
『え、あっ、青いマントです。フードになってて、丈は...私の膝くらいまでの長さで』
「ふむ、青...ですか」
ぱっと見た感じ黒い物ばかりで、青い物はない。
まあ普通あんな真っ青なマントはないよね...。
「少々お待ちを」
そう言って店長は奥のバックヤードに入っていく。
「マントは貴様が羽織るのか?」
『え、いや。うちの選手が羽織ります』
「そうか」
それだけ影山は言って、その後沈黙が続いた。
お待たせしました、と店長が帰ってきてその手には大きめの白い長方形の箱があって、彼はそれを開いて見せた。
「青い色の物はこちらの一点だけ、在庫がございまして。ご試着されますか?」
『あっ、はい!』
返事をすれば、箱からそっと青いマントを取り出して手渡された。
うっわ、随分といい生地である。
それを羽織ってみる。うん、長さも肩幅もちょうどいい。この合間服を貸したことにより、私とサイズが変わらない事が分かったし、これなら鬼道でもバッチリだろう。
コレでお願いします、と頼んで支払いに向かう。
そこで言われた額に思わず、えっ、と呟く。ゼロの数が多い。いやまぁ紳士服店だもんな。マント肌触りめっちゃ良かったしそりゃあ高いよね。
しかしながらこんなにすると思ってなくて、お金足りないぞ。
『すみません、銀行で「これで」
銀行で下ろしてきますと言う前に、横から影山が店長に黒いカードを差し出した。
ブラックカードって奴だ。って感心してる場合か。
『えっ、あの...?』
「ふん、餞別だ」
そう言ってカードを店長から受け取って、包装はいいと伝えている。
先程の箱に戻したマントを、店舗のロゴの入った袋に入れた後、お待たせしましたと店員に手渡される。
『...ありがとうございます』
支払ってもらってよかったんだろうか、と疑問に思いながら頭をさげてそれを受け取る。
「時間が無いのだろう。早く行きたまえ」
『あ、はい』
ありがとうございます、ともう一度頭を下げて、受け取った荷物を小脇に抱えて走りだした。
スタジアムにたどり着いた時には、試合開始予定の時刻はとうに過ぎてしまった。それでもスタジアム内を全力で走ってゲートに向かう。
『鬼道!』
「...来たか」
『ごめん待たせた!』
袋から箱を取り出して開け、マントを渡す。
「青か」
そう言って鬼道はマントを勢いよく広げ肩に羽織った。
「ふん、悪くない」
『うん。似合ってるよ』
そう言えば、鬼道は頷いて、行くぞとゲートの先へと歩き出した。
靡く青
その背を追ってゲートを出れば、雷門の皆の驚きの声が木霊した。