フットボールフロンティア編
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「円堂、本気で無限の壁を突崩す気か?」
真剣な眼差しで問い詰める豪炎寺に対して円堂はいつもの笑顔を浮かべた。
「ああ!正面からズバーンと!」
拳を突き上げて見せる円堂にうーん、と思わず疑念の声。
『ズバーン、ねぇ』
「今の俺たちに出来んのかねぇ...」
土門も不安げにそう言えば、円堂は拳を下ろした。
「大丈夫さ。俺たちには炎の風見鶏だって、イナズマ1号だってある!」
「決められればな」
「気合いがあれば何でも決まるさ!」
ガッツポーズを作る円堂に、フォローの申し子である流石の秋ちゃんも困ったように円堂を見た。
円堂のポジティブさは選手達の背を押す力になるが、こういった悩みを抱えている状態の者からすれば能天気な気もする。
そんな中、秋ちゃんが、ねぇと土門に声をかけた。
「土門くん、トライペガサスだったら?」
「ああ!俺たちのトライペガサスか!」
それがあったなと言うように土門は頷いた。
俺たちの...か。
「あれなら...」
「なに!?それどんな技!!」
土門が思い返すよりも先に円堂が食い付いた。
「一ノ瀬と俺ともう1人の奴との技だったんだ」
「3人技か」
ふむ、と顎に手を当てて豪炎寺も考える。
『今の雷門は3人技はイナズマ1号落としだけだもんね』
そう言えば豪炎寺はコクリと頷いた。
「3人の息がピッタリと合わないとできないよなぁ」
そう呟いた後、円堂は土門と秋ちゃんになあなあ!と声をかけた。
「その一ノ瀬ってどんな奴?」
あっ。
「私と土門くんがアメリカに留学してた頃の友達。サッカーすっごく上手かったんだ」
「ああ。俺たちのチームをアメリカン少年リーグ優勝に導いた立役者だった。天才だったよ!」
2人ともどこか誇らしそうに彼の事を語る。
「フィールドの魔術師って呼ばれてた」
「フィールドの魔術師...!かっこいい!」
会ってみてぇ!と円堂と豪炎寺は顔を見合わせて頷いた。
「その一ノ瀬ってどこにいんの?」
円堂の問に、土門は優しい笑みを浮かべて空高く指さした。
「ん?」
「死んじまった」
「えっ?」
余りにもあっけらかんという、土門にこちらの方が戸惑ってしまう。
「でも土門くん。貴方ならみんなにあの技を教えることができるんじゃない?」
「かもな。んー」
土門は腰に手を当てて、んー、んー?と唸り声をあげる。
「早く教えろよ!」
「言葉にするのムズいんだよ!」
そう言って土門はいいか?とその場にしゃがんで地面に線を書き出せば、みんなも同じように座って地面を見詰めた。
ここは秋ちゃんに任せるか、と私は輪には入らず、他の選手たちの様子を見に回る。その視界の端で春奈ちゃんがグラウンドを出ていくのが見えたが、まあこれはほっといてもいいだろう。
...、ほっといて大丈夫だよね?また、話おかしくなったりするかな...。
そう思いチラリと先程まで居た皆の方を見れば、豪炎寺がその輪を抜け出すのが見えた。うん、彼が行くなら大丈夫だろう。
大丈夫だと思ったんだけどなぁ...。
「豪炎寺くんと音無さん、どこいちゃったんだろう」
「部活終わっても帰って来ないし、荷物も置いたままで困ったわね」
部活動を終え速やかに帰りましょうという校内放送も流れたのに、2人は帰って来ない。
響木監督はラーメン屋の事もあるので早々に帰ったし、男子達は今、部室内で着替えをしている。
『はあ...仕方ない。1つ心当たりがあるから、探してくるよ』
なんか最近、人探しキャラになってきてるなぁ。
「なら水津さん、今日はそのまま帰っていいわよ。行って帰ってだと遅くなるだろうし」
『あれいいの?』
夏未ちゃん、いつもなら我が校の生徒としてきちんと制服に着替えて帰りなさいって怒るのに。
「今日は特別です」
『やったー』
ジャージから制服に着替えるのなんだかんだめんどくさいんだよね。どうせ家帰ってまた着替えるのにさぁ。
じゃあ、カバンとって帰るね、と夏未ちゃんと秋ちゃんにバイバイと手を振って部室に向かう。
ノックもせずに扉を開けたら染岡に怒られたが、まあそれは無視して荷物を取ってお先にと声を掛けて部室を出た。
いつも帰る裏門から出て、病院の横を抜けて河川敷に出て木枯らし荘へ帰る方向へしばらく歩けば目的の人物達が居た。
夕暮れの河川敷に不安そうに佇む春奈ちゃんと、その視線の先、サッカーグラウンドの中に豪炎寺と鬼道が居た。
『音無春奈!豪炎寺修也!』
仁王立ちでそう叫べば、春奈ちゃんは驚いたように肩を震わせて、はい!と返事をして、豪炎寺はなんだ?と言うように下から見上げてきた。
「水津先輩!!あ、あのこれはですね...!」
慌ててワタワタとする春奈ちゃんに近寄ってその肩にポンと手を置く。
『部活中に何も言わず居なくなるのはやめなさい』
「は、はい...」
『豪炎寺も!』
上から大声で言えば、豪炎寺は、すまん、と呟いた。
その様子に、大きくため息をついて、土手を立ったまま滑り降りる。
着地したその横の土手に大きなクレーターが出来ていて、その真下には空気が抜けてへにょへにょになったボールが落ちていて、それを拾って握りつぶす。
『豪炎寺...?これ部の備品だよね』
ゆっくりと豪炎寺の方に顔を向けながらそう言えば彼は罰が悪そうに顔を逸らした。
「それは...」
『このボールの焦げ跡から言って、ファイアトルネードだよね??』
黙ったままコクリと頷いた豪炎寺に、歩み寄って目の前に、潰れたボールを突きつける。
『自分で夏未ちゃんに謝って』
「ああ...」
分かったと言って豪炎寺は潰れたボールを受け取った。
『じゃあ、みんな心配して待ってるから春奈ちゃんと直ぐに学校へ戻る!』
ビシッと学校の方向を指刺せば、豪炎寺さん帰りましょう!と春奈ちゃんが一足先に駆け出した。
「ああ、すまん水津」
そう言って走り去る豪炎寺の背中を見つめていれば、困惑したような鬼道の視線が刺さった。
『ああ、ごめんね。豪炎寺と話し中だったのに』
「いや...」
そう言って鬼道は下を向いた。
『あのさ、』
声をかけようとした時だった。
ぽつ、と額に冷たい何かが落ちた。
ふと空を見上げたらまた、ぽつ、と雫が落ちた。
『えっ、雨。今日降水確率10%だったじゃん』
はーーー、天気予報当てになんねぇ。
折りたたみ傘とか入れてきてないし。
あ、そうだ。
ガサゴソとカバンを漁って、タオルを1枚鬼道に投げつける。
「な、なんだ急に」
それを受け止めて、鬼道は困惑したようにタオルと私とを見比べる。
『ドレッドって、濡れると大変でしょ。タオル被ってな...』
途端にパラパラと雨足が強くなった。
『マジで今日降水確率10%とか嘘じゃん!!もーー!!鬼道!こっち』
ぱっと鬼道の腕を掴んで走り出す。
「お、おい。どこに行くつもりだ」
転ばぬようにか知らないが、鬼道は、意外と大人しく引っ張られて着いてくる。
『家だよ家!こっからなら5分もかからないから!』
それから全力疾走で走る。
普段からフィールド駆け回ってるし、鬼道の体力とスピードなら大丈夫だろう。
本降りになってきた頃に木枯らし荘の屋根が見えてきて、門をくぐって軒下に入って玄関口を開けた。
『ただいまー!』
「あら梅雨ちゃんおかえり」
そう言ってひょこっと、ヨネさんが食堂から顔を覗かせた。
「まあ!雨降ってきたのかい?」
『そ、急にだよ。今朝の天気予報じゃ10%だったのに!ちょっと廊下濡れるけど許して』
「いいよいいよ!と、そちらの坊ちゃんは?」
未だ軒下にいて中に入ってこない鬼道を見つけたヨネさんが首を傾げる。
『ああ、友達!』
「え、おい...」
「ああそうかい。濡れるのは気にせず上がっていいよ」
ヨネさんがおいでおいでと手招けば、鬼道は戸惑ったようにお邪魔しますと行って、木枯らし荘に足を踏み入れた。
『鬼道こっちだよ』
「おい、お前...さっきのはどういうつもりだ」
玄関正面の階段を登りながら2階に向かう途中鬼道がそう聞いてきた。
『さっきの?』
「...友達、ではないだろう」
『うん?そうね。けど説明色々めんどくさいし、嘘も方便よ』
そう言えば鬼道はなるほど、と納得した。
そんな彼を引き連れて自室に入る。
『ちょっと待ってね』
そう声を掛けてタンスを漁る。
鬼道は背もそんな高くないし、細身だし、女物でも着れるんじゃないかな。
うん、これにしよ。
胸に合わせるとどうしても私には大きめになってしまうTシャツと、スウェットパンツなら紐調節出来るし丈も、まあ気にならないだろ。
『はい、鬼道これとこれね。あー、あとバスタオルね』
ほいほいと彼に手渡せば、は?と口を開けて見つめられた。
『あっ、もしかしてパンツまで濡れた!?さすがにパンツは貸してあげられないんだけど...』
「なっ、パッ...!濡れてない!というか、お前!女が恥じらいもなくそんなことを言うな!」
顔を真っ赤に染めて怒り出した鬼道に、ん?と首を傾げる。
『とりあえず風邪ひくからはよ着替えな』
「はあ...。...どこで着替えればいい」
『ここで着替えたらいいじゃない?』
「何を言ってるんだ貴様は...!」
いや、なんで怒ってるんだ君は!!!
えっ、この場で着替えればよくない?
「お前も今から着替えるんだろうが!」
『えっ?あ、ああ、そうね』
忘れてたけど私も着替えないと風邪ひくわな。
「だったら一緒の部屋はダメだろう」
なんだ紳士か?いや、ただの思春期か?ふむ、ちょっといじわるしてもいいかな?いいよ。
『えーなんでだめなの?別に、一緒に着替えてもよくない?』
そう言えば、ニヤついてたのがバレたのが鬼道は怒った様子でドアを指さした。
出ていけ!
そう言って部屋を追い出された。
いや、ここ私の部屋なんですけど!