後半戦開始早々の戦国伊賀島の猛攻に雷門イレブンは体を張ったディフェンスで耐え忍ぶ。


「伊賀島流、蹴球戦術。偃月の陣」

今度は攻撃型に∧陣形を組み、雷門陣地へと突撃してくる。
巻き上げた砂塵がまるでドリルのようになってその突進に雷門選手たちが弾き飛ばされていく。
ゴール前で陣形を解き、ボールを持った霧隠が飛び出せば、そのボールへ風丸が食らいついた。
だが、それは霧隠の残像で、本物の霧隠は風丸が抜けたDFの穴をチャンスとばかりに駆け抜けた。

「しまった...！壁山！止めろ！」

ええっーー！！と慌てて壁山は周りをキョロキョロと見た。

「お、俺だけ！？」

貰った！と霧隠がシュートを放つ。

『壁山！』

「は、はいっス！」

前に言った緊張を解す方法。覚えていたのか壁山を大きく息を吸った。

「絶対にゴールは通さないっス！うおおおおぉ」

壁山が雄叫びを上げるとその背中に大きな土の壁が生えた。
その壁に霧隠のシュートはぶつかり叩き落とされる。

「う、おおお？おおお！やったっス！」

自分でも何が起きたかイマイチ分かってない様子の壁山を見ながら、ベンチでよし！と拳を握る。

「クソぉ...！まだだ！」

そう言って壁に弾かれて転がったボールを拾った霧隠が今一度攻め上がった。

「喰らえ！土だるま！」

「うおおおおぉ！！！」

先程の壁山の気迫に負けないくらいの雄叫びを上げながら風丸が土だるまに突っ込んでいく。
そんな風丸の目前で霧隠が印を解き、土の塊から弾け飛んだボールが風丸の横を過ぎ去りゴールへと飛んでいく。


「ゴッドハンド！」

いつものように右手で出してしまったゴッドハンドでボールを受け止めようとするが、痛みに耐えかねて、すぐさまオレンジの巨大な手が割れた。

「ああっ...」

点が取られると、誰もが思ったその時。
ゴールとボールの間に、風丸が現れた。
流石は疾風ディフェンダー。風のような速さでボールに追いつき、ゴールを死守した。
そのまま風丸はドリブルで上がっていく。

「はあ！」

風魔が風丸を捕らえようとくもの糸を発動する。

「そんのものに捕まってたまるか！」

そういって更にスピードを上げた風丸が風魔を抜く。

「なんだと！？」

「行くぞ豪炎寺！」

おう！と豪炎寺が返事をして、風丸は自分と結ぶ線の豪炎寺の中心にボールを蹴りあげた。

「「炎の風見鶏」」

何度も練習したそれは、紅く燃える羽を大きく羽ばたかせて、ピィーという音と共に戦国伊賀島のゴールへと突き刺さっていた。

「やった。2人が決めたよ！」

今まで炎の風見鶏を成功させる鍵となっていた影野が、ハイタッチしあう風丸と豪炎寺を見て嬉しそうに笑っている。

『よかったね』

「うん」

「これで同点ですよ！行けますよ！」

みんな頑張ってー！と春奈ちゃんが声援を送る。

試合終了まで後少し。

「このままじゃ終わらせない！」

「ああ！勝負だ！」

ドリブルで駆け上がる風丸に霧隠が食らいつく。
霧隠は猛スピードで風丸に追いついて、彼の足元のボールを狙い、横からチャージしていく。

「お前の速さじゃ俺を振り切れない！」

「足が速いだけじゃダメなんだよ、サッカーは！」

「なにぃ！？」

風丸は途中でターンして、そこからボールをつま先で高く蹴りあげた。
蹴りあげたボールは霧隠の真後ろに落ち、すぐさま彼の後ろに回った風丸はボールを持って駆け上がる。

「何っ！？」

風丸はサッカー初心者であるものの、根は真面目だし、そもそも陸上でもトップと競いたいと思うほどの向上心の持ち主だ。
そんな彼がサッカーでただ速くボールを運ぶ事しか練習してないわけないのである。

「豪炎寺！」

風丸からのパスを受け取った豪炎寺は、その場から高く飛び上がってファイアトルネードを撃つ。
そのボールを戦国伊賀島のキーパーは正面から受け止めるものの、威力を殺すことが出来ずに、そのまま後ろへと飛ばされた。
ゴールにボールが入り、ピッピッピーとホイッスルが鳴った。

《試合終了ー！雷門中1回戦突破だ！！》

2対1で雷門の勝ち。
やったやった！とベンチのみんなで喜び合う。

『...よかった』

「夏未さんにいい報告ができるわね」

秋ちゃんの言葉に、うん、と頷いた。







『みんなー、来た時よりも美しくね』

使用したロッカールームの片付けを促せば、疲れきった声で皆がはーい、と返事をした。

「水津先輩、マネージャーっていうより先生みたいでやんす」

「いや先生っていうよりお母さんじゃない？」

『栗松、少林寺。なんでもいいからちゃっちゃと帰る準備する』

そう言えば、はーい、と返事した後、少林寺がほらね？と栗松に言っている。

「うーん...」

『春奈ちゃん、どうしたの？』

何か悩んでいる様子の春奈ちゃんに声を掛ける。

「それが、風丸さんの姿が見当たらなくて」

「御手洗じゃない？」

「さっき俺、トイレ行ってきたっスけど、他に誰もいなかったっスよ？」

秋ちゃんの言葉に壁山がそう言えば、みんなして首を傾げる。

「風丸くん、何も言わずにどっか行くタイプじゃないはずだけど」

「ですよね」

『ちょっと探して来ようか。秋ちゃん、春奈ちゃん。みんなに帰る準備促しといてね』

ええ、任せて下さいと頷いた2人にお願いして、ロッカールームを出る。

まあ、恐らく宮坂に会っているんだろうけど。あれ何処であってるんだろうか...ってちょうどいいな。
廊下を歩いていれば、向かい側から雷門中の学ランを来た金髪少年が走って来た。

『あっ、宮坂』

声をかければ、無我夢中に走っていた様子の彼は、私の横を通り過ぎた。

『ちょっと！宮坂！』

慌ててもう一度声をかければ、気がついた様で、ん？と彼は振り返った。

「ああ、サッカー部の」

そう言って彼は一応、といった感じにぺこりと頭を下げた。

『風丸見なかった？』

「...風丸さんならそこ曲がった先にいますよ」

『そう。ありがとう』

バイバイと手を振って歩き出せば、あの、と宮坂が後ろから声をかけてきた。
なんだろう、と振り返ってみれば、彼は真っ直ぐこちらを見ていた。

「あなたの言う通り、サッカーしてる風丸さんもかっこよかったです！それじゃあ！」

大きな声でそう言って宮坂は金の髪を翻して走り去っていった。

『だってよ、風丸』

曲がり角を曲がって、廊下に備えられたベンチに座っていた彼にそう言えば、少し照れくさそうに笑っていた。


疾風ディフェンダー
楽しかった？そう聞けば、風丸は満面の笑みでああ、と頷いた。