雷門中対戦国伊賀島の試合は雷門のキックオフで始まったものの、戦国伊賀島の霧隠が速攻でボールを奪い、わざわざDFの風丸に向かっていき、必殺技、残像でディフェンスを突破した。
みたか！とそのまま得意げに霧隠が蹴ったノーマルシュートは円堂が両手でしっかりと捕らえた。

「伊賀島流、蹴球戦術。鶴翼の陣！」

今度は雷門側が切り込んで行くが、戦国伊賀島は初鳥の号令で承知と頷いた選手達が陣形を組んだ。
まるで鳥の翼のようにV字に配置についた彼らは、ボールを持って走る半田と彼からのセンタリングを受けるため上がった豪炎寺を真ん中へと誘い込んだ。

この時期はまだ必殺タクティクスの概念がなかったけれど、これも一種の必殺タクティクスだよね。

フィールド上では誘われるがまま、半田が豪炎寺にボールを上げた。

「「伊賀島流忍法、四股踏み」」

ゴール前に立つ2人のガタイのいい選手が大きく四股を踏めば、その振動が衝撃波となって豪炎寺と半田を吹き飛ばした。

忍術じゃなくて相撲やんけ！というツッコミは置いとくとして、受け身の取り方教えといてよかった。痛そう。


戦国伊賀島の素早い攻撃も雷門DF陣が何とか抑え、上げられたボールは染岡に渡った。

「ドラゴンーーー」
「トルネード！！」

染岡のドラゴンクラッシュから豪炎寺のファイアトルネードが炸裂して、戦国伊賀島のゴールへと紅きドラゴンが飛んでいくが...。

「伊賀島流忍法、つむじの術！」

つむじ風にボールは巻き上げられ、戦国伊賀島のGKにボールをキャッチされてしまう。
キーパーから伊賀島の選手に渡ったボールは、素早いドリブルで全線を上げられ、更には分身フェイントで3人に分かれ雷門のDF陣を翻弄していた。
それでも何とか円堂がボールを止めてと、攻守攻防を繰り返していた。


雷門DFから豪炎寺と共にイナズマ落としを打つため壁山が駆け上がる。
これをチャンスと、戦国伊賀島の長髪の少年、風魔が印を組んだ。

「伊賀島流忍法、くもの糸！」

フィールドに蜘蛛の糸が張り巡らされ、壁山はそれに足を取られ動けなくなった。

『ディフェンスの壁山が上がってきたタイミングで、足止め系の必殺技か。賢いな』

「そうか。ディフェンスが手薄になるのか」

なるほどと頷いて心配そうにフィールドを見つめる影野の横で目金が眼鏡のブリッジを押さえた。

「先程の統率の取れた陣形も去ることながら、敵ながらアッパレと言った所でしょうか」

「あっ、風丸くんが！」

秋ちゃんの言葉でフィールドに雷門ゴール側へ視線を移せば、風丸はセンターラインへと駆け上がっていた。
豪炎寺との炎の風見鶏を打つ気なのだろうが、このタイミングか...。

駆け上がった風丸に松野からボールがパスされ、その前に戦国伊賀島の3番が立ちはだかった。
フェイントで抜けた風丸の後ろから彼は必殺技、影縫いで風丸をすっ転ばした。前のめりに転んだ風丸からボールを奪って手薄になっている雷門陣営をパスで繋いで戦国伊賀島は上がっていく。

「伊賀島流忍法、土だるま！」

パスを受け取った霧隠がボールを蹴り飛ばせば、地を転がるボールは土を巻き上げどんどんと大きくなりゴールへと向かった。2メートル程の大きさになった土だるまは、フンっと霧隠が印を切れば、弾け割れてサッカーボールが飛び出した。

「熱血パンチ！」

咄嗟の判断で円堂はパンチングを選んだが、シュートの勢いを殺すことが出来ずに後ろに弾き飛ばされてしまった。

《ゴーーーール！！》

実況の角馬さんの声が響く中、後ろに飛された円堂は、背中から倒れるのでなく、下手に右手から倒れてしまった。

『...！』

「円堂くん...？」

うぐっ、と呻き声のようなものを上げた円堂の様子に思わず顔をしかめる。
秋ちゃんも気づいたようで心配してるが...大丈夫だろうか。
円堂は立ち上がって、切り替えるように選手たちに声をかけているが...そのままやる気だろうか。

『監督』

「ああ...。ハーフタイムで冷やせるよう準備しておいてくれ」

はい、と頷いて救急箱の用意をする。
他の競技ならタイムを使って様子を見たり、治療したり出来るが、サッカーばかりはそれが出来ないのがもどかしい。それでもボールをセンターに戻す前なら手当可能だが、そのままセンターに戻しているからこのまま続ける様子だし、もしかしたら円堂自身は気づいてないのかも。



《畳み掛けるような伊賀島の攻撃が続く！！》

攻め上がって来た戦国伊賀の9番が必殺技、分身シュートを撃ち、それを何とか円堂は受け止める。
そこでピッピーとホイッスルが鳴り響き、前半戦終了を知らせる。


『春奈ちゃん、秋ちゃん、戻ってきたみんなにドリンク渡して』

はい、と返事をした2人がどんどんみんなに配っていく。

「はい、円堂くん」

秋ちゃんがドリンクボトルを渡せば、それを右手で受け取った円堂が、痛っと、反応した。

「円堂くん、やっぱり。水津さん！」

秋ちゃんの呼ぶ声に、準備出来てるよと返して、救急箱を持っていく。

『円堂、グローブ脱いで』

「え、ああ」

言われるがままグローブを取った円堂の手を、彼の傍にいた風丸が見て驚いていた。

「こんな状態でゴールを守ってたのか！？」

円堂の右手は随分と赤く腫れ上がっていた。

「心配すんなって、左手でも絶対にゴールは許さない！」

「円堂...」

『はいはい、円堂ベンチ座って。氷嚢で冷やして』

円堂に氷嚢を握らせて、ベンチへと促す。

『秋ちゃん冷やし終わったら、包帯巻いて上げて』

「え？ええ。分かったわ。水津さんは？」

『転んだの円堂だけじゃないでしょ？
』

ね？と豪炎寺と半田、そして風丸を見た。

「え、ああ。俺たちか。平気平気」

大丈夫だと手を振った半田に、はあ、とため息を吐く。

『慢心はダメですー！3人ともちゃんと診せなさい』

「お前たち、後半に支障がでないようにするのも選手の務めだぞ」

響木監督の言葉もあってか、3人は大人しく、はい、と頷いた。






3人の怪我のチェックも終わり、秋ちゃんも円堂に包帯を巻き終えた。


「よし！全力で円堂をカバーするぞ！」

「分かってるでやんす！」

風丸の言葉に栗松が大きく頷いた。

「ペナルティエリアには1歩たりとも踏み込ませるもんか！」

「攻撃は僕達が阻止してやるさ」

「いつも俺たちのゴールを守ってくれてるんだ。今度は俺たちが円堂を守る番だ！」

DFもMFもFWも誰もがやる気に満ち溢れていた。

「キャプテンの所には絶対にボールを通さないっス！」

「みんな...！」

ボールを拾って、風丸の手に渡す。
何も言わずにそれを受け取って、風丸は頷いた。

「よし！行くぞ！」

おお！とみんなの声が高らかに響いた。

後半戦がはじまる。


一丸
ゴール前に立つキーパーは1人だけど、サッカーは1人でやるスポーツじゃない。皆それが分かっていた。