フットボールフロンティア編
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約束の日曜日。河川敷に向かう途中、道の端で肩にかけていた紐を外して荷を下ろす。
『あー...重』
ぐるぐると首を回して、肩に手を置く。
よし、頑張ろう、と再び肩に紐をかけれる。
『せーの...』
「なんだ、その荷物」
再び持ち上げようとした矢先そんな言葉が後ろから聞こえて、首だけ振り返ってみた。
『染岡!』
おはよう、と声をかければ、おう、と頷いた彼は隣に並んだ。
よっこいしょ、と肩にかけた紐ごと荷物を持ち上げて歩き出せば、染岡も着いてくる。まあ行くところ一緒だしね。
「どうしたんだ、そのクーラーバッグ」
『これ?ほら今日、イナズマイレブンの人達来るでしょ。その人達の分の飲み物!』
皆は、各自のドリンクボトルがあるけど、イナズマイレブンのおじさんたちはおそらく水筒持ってきたりもないだろうし。
「はあ?それ中身全部飲み物かよ」
『うん。さっきスーパーでペットボトル買ってきた』
「あー、それでこっち側から来てんのか」
木枯らし荘から来るなら逆方向だもんね。帝国戦前のアレコレで皆に家がバレてるから、こんな所に居たらなんでだ?ってなるよね、そりゃあ。
「重くねぇの?」
『重いけどまあ、筋トレになるし!』
「それ何本入ってんだ?」
『ん?えーと、何人くるかわかんないし、とりあえずキリがいいから12本買ってきた』
多分アニメ基準なら11人ピッタリしか来なかったはずだから足りるはず。
「ふーん」
そう言って染岡は右手を差し出した。
『何?握手?』
「いやなんでだよ!それ貸せつってんだよ」
いや何も言ってなくない?
『貸せって、持ってくれるって事?』
「そう言ってんだろ!!」
『え、重いよ?』
「筋トレになるんだろ?だいたい、お前に任せてたら着くまでに日が暮れるだろ。さっきみたいにちょいちょい休憩してたら」
そう言って染岡は勝手にクーラーバッグの上部の取っ手を掴んで、私の肩にかけていた紐を自分の方へと引っ張って掛け変えた。
というか、もしかして染岡、ちょいちょい休憩してた事を知ってるって事は結構前から後ろに居たな。
しっかりと自分の肩にクーラーバッグをかけた染岡は、ほら行くぞとさっさと先を歩いていく。
『染岡って意外と優しいよね』
「は?なんか言ったか?」
『いや、なんも!』
そう言って、軽くなった身体で走って先ゆく染岡の隣に並んだ。
河川敷に着けば、我々雷門サッカー部と響木監督率いる雷門OBチーム、そして審判を買って出てくれた鬼瓦刑事が集まっていた。
『みなさん、備流田さんの指示に従ってしっかりストレッチしてください』
集まったおじさん達に、響木さんが用意したOBユニフォームを手渡しながら声をかける。
スポーツジムのインストラクターの備流田さんは普段から身体を動かしているであろうが、他のおじさん達は喫茶店のマスターだったり、理髪店の店主だったり、普通のサラリーマンだったり、正直急に運動して大丈夫かなと心配である。
雷門中の生活指導の菅田先生はまあまだ動けるだろうし、夏未ちゃんとこの執事の場寅さんとかはアニメとかドラマとかの影響で執事のじいちゃんは強いイメージあるせいか多少の運動は大丈夫そうだけど、他の明らかな中年体系のおじさんたちがね...。
一応怪我しないように、備流田さんが率先してOBのみんなにストレッチ指導してくれてるから助かるな。
現雷門イレブン達が、伝説のイナズマイレブン相手に心躍らせる中、試合が開始する。
OBチーム先行で始まり、FWの備流田さんがキックオフと同時に大きく足を振りシュート体制を取った。皆がキックオフシュートか!と身構える中、振り下ろされた備流田さんの足はボールにかすりもせず、彼は背中から後ろにコケた。
雷門イレブンは、口をあんぐりと開けて驚いているが、いくらジムのインストラクターやってても球技ばかりは長いことボールに触れてなきゃ感覚が鈍るだろう。
コケたままヘラヘラと笑って参ったなと頭をかく備流田さんの目の前を、早々に切り替えボールを取りに行った半田がドリブルで過ぎ去っていく。
半田から豪炎寺にパスされて、ノーマークの豪炎寺は普通のシュートを打った。
「オーケー」
余裕で取れるといった様子でキャッチ体制に入った響木さんの視界を遮ったのはDFの場寅さん。
ブロックしようと飛んだ場寅さんだったが、クリア出来ず頭にボールがぶつかり弾かれ、響木さんの予測コースと軌道の変わったボールはいとも簡単にコロコロと転がってゴールに入ってしまった。
その後も圧倒的というか、なんというか。あっさりとボールは奪えてしまうし、ブロックもかわせてしまう。
気の抜けたようなシュートは円堂がバッチリと止める。
伝説のイナズマイレブンを期待をしていた雷門イレブン達はガッカリした様子だった。
歳だし、長いことサッカーやってなければこんなものか。それはOBのおじさん達も、雷門イレブン達もみんながそう思った。でも、円堂だけは違った。
「どうしていい加減なプレイをするのさ!こんな、魂の抜けた試合して。おじさん達の好きなサッカーに対して恥ずかしくないの!」
真っ直ぐな強い言葉。
おそらく、前回の帝国との戦い、鬼道と春奈ちゃんの件で試合に集中出来てなくて、豪炎寺からファイアトルネード治療での叱咤を受けているからこその言葉。
その言葉をかけられた浮島さんは何も言わずに、ポジションに戻る。
試合が再開されて、豪炎寺の打ったシュートを響木さんが今度はパンチングで弾き飛ばした。それを浮島さんが蹴って会田さんにパスを飛ばせば、その合間に染岡が飛び込みパスカットして弾かれたボールを豪炎寺がトラップして取った。
「浮島止めろ!」
響木さんの指揮でドリブルで駆け上がる豪炎寺に浮島さんが立ちはだかるが、豪炎寺は立ち向かうようにボールを足元で右左と移動させた後、一瞬で後ろを確認して、踵でボールを蹴りバックパスを出した。
パスを受け取った松野はマークに付かれる前に速攻で豪炎寺にボールを蹴り返した。松野から戻ってきたボールを豪炎寺は高く蹴りあげ、今度はファイアトルネードを打てばボールはゴールへと突き刺さった。
しかし、響木さんは流石だな。届かなかったものの、ファイアトルネードにしっかり反応して、シュートコースの方に腕を伸ばしていた。
浮島さんは自分のサッカーは諦めた時に終わっちまったと自らを鼻で笑い、他のおじさん達もまあ、こんなもんだよな、なんて気の抜けた会話をしていて、その様子を見た響木さんは噤んでいた口を開いた。
「お前達!なんだそのザマは!!」
「響木...」
「俺たちは伝説のイナズマイレブンなんだ!」
そう言って響木さんは真っ直ぐ反対側のゴールの方へ指をさした。
「そしてここにその伝説を夢に描いた子供たちがいる!」
監督...!と円堂が感嘆の声を上げる。
「俺たちにはその思いを背負う責任があるんだ!その思いに応えてやろうじゃないか!本当のイナズマイレブンとして!」
子供達の思いに応える、響木さんの言葉が響いたのか、そこからおじさん達...いや、イナズマイレブン達の動きが変わった。
明らかにパスが繋がるようになって来たし足がもつれるようだったドリブルも上手くなっている。いや、上達したと言うよりは、昔を思い出したよう。ううん、きっとずっと昔でも練習して身につけた事を今も身体が覚えてるんだ。
私も、向こうじゃ10年以上ボールに触ってなかったけれど、まあこちらで若くて健康な身体に変わったから動けたというものあるが、まこちゃんが飛ばしてきたあのボールをとる時だって、咄嗟にトラップしてリフティングにまで持っていってた。
やってきた事の全てが無駄になった訳では無い、か。
フィールドを見れば、喫茶のマスター、民山さんがクロスドライブという必殺シュートを放ち、熱血パンチで対抗した円堂の拳の横をすり抜けて見事ゴールにシュートを決めていた。
その後も、染岡のドラゴンクラッシュを響木さんがゴッドハンドで止めきって。
「さあ、浮島見せてやれ!」
にやりと笑った響木さんはDFである浮島さんにそういったにも関わらずフィールドの中腹へと大きく弧を描いたボールを投げた。
「備流田ァ!!」
おう!と返事をした備流田さんと浮島さんは空から落ちてきたボールを同じタイミングで高く蹴りあげ、2人は大きくジャンプした。
浮島さんがオーバーヘッドの状態でボール蹴るのに合わせて、更に高く飛んだ備流田さんがボールを蹴れば、火の鳥のようなボールがピッーと物凄いスピードでゴールへと突き刺さった。
「そうだ!それでこそイナズマイレブンだ!」
響木さんがグッと拳を握る反対側で、止められなかった円堂は悔しがるかと思いきや、すげぇ!と感動している。
それからハッとした様子で審判をしてくれている鬼瓦刑事の元に走って向かってタイム!と叫んでいる。
「サッカーにタイムはないぞ」
「大事な事なんです、お願いします!」
円堂の熱意に、わかったよ、と呆れながらに鬼瓦刑事かそう言えば、円堂はありがとうございますと深々と頭を下げて、みんな来てくれ!と雷門メンバーを集めた。
イナズマイレブンの真の姿
40年に止まったサッカー少年のまま