世界への挑戦編②
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散々喜びあった後、みんなでベンチで待つ久遠監督の元へ駆け寄る。
「久遠監督!」
「俺に言わせれば、まだまだ欠陥だらけだ。お前たちは今、世界で1番マシなプレーが出来るチームになった」
相変わらずの久遠節にみんな、顔を見合せて笑う。
「よくやった」
その本音の一言にみんな、ありがとうございましたと声を揃える。
それから、フットボールフロンティアの運営委員に呼ばれて、トロフィーの授与と写真撮影が行われた。
写真撮影は最初俺たち選手だけで撮って、その後監督を入れて撮った。
その後カメラマンさんが、マネージャーの方々もと声を掛けたところで気づく。
「おい、水津は?」
水津がいない。
「え?梅雨ちゃん?」
木野がキョロキョロと辺りを見回す。
「あれ、居ないですね」
どこに行ったんでしょう?と音無が首をかしげる。
「御手洗にでも行ったのかしら」
心当たりがないと言ったように雷門がそう呟く。
違う。それならきっとアイツは声を掛けて行くと思う。
嫌な予感がして、俺は施設内に向かって走り出した。
「あ、おい、染岡?」
驚いたような円堂の声が後ろから聞こえる。
「マネージャーたち、悪いんだけどトイレ確認してきてくれる?他のみんなは水津さんを探すの手伝って!!」
「え?どういうこと……」
「説明はあとだ!このままお別れは嫌だろう!」
ヒロトがそう叫ぶ。事情を知っているからヒロトも俺と同じように思ったのだろう。
アイツが、ひとりでに消えようとしているって。
なんでだよ。約束しただろ。
くそっ、と歯を食いしばりながら駆ける。
「水津ー!!」
「水津さーん!」
「梅雨先輩ー!」
追いかけて来てくれたみんなが声をだし叫び、一緒に探してくれる。
「トイレにはいなかった」
木野と雷門がやって来てそう告げる。
「ロッカールームも見てきたが……」
豪炎寺から報告を受ける。
「水津さん一体何処に……」
身体が消えかかっている状態だ。ヘヴンズゲートの時のようにそこにいても気づかない可能性もある。
目を凝らしてよく見ながら廊下を進んで行けば、曲がり角の先に水津はいた。
「水津!」
「水津さ、」
えっ、と、俺とヒロト以外から驚きの声が漏れる。
そりゃあそうだ。今の水津の姿は下半身が消えている。上半身もうっすら透けて見えている。
恐らく下半身から消えていったせいで、ここで立ち止まる他なかったのだろう。
『あはは、なんで、見つけちゃうかな……』
乾いた笑い声と共に水津がそう呟く。
「馬鹿野郎……!約束しただろ!!」
歩み寄ってその肩を掴むがするりと空を握った。
「くそっ、本当に、もう……」
水津の透けた手が俺の頬に触れる。触れているはずなのに感触は何も無い。
『せっかくのお祝いムード、壊したくなかったのになぁ……』
そんな事だろうと思った。
「バカが、勝手に居なくなる方が……、」
『うん、そうだね』
ごめんね、と水津が小さく呟く。
「水津。その姿は……、元の世界に帰るということか?」
状況を考察して鬼道が問う。
それに対して水津はにっこりと微笑んだ。
『そういうことになるかな』
違う。
「ええっ、そんな!」
「水津先輩帰っちゃうんスか!?」
後輩たちが驚いている。
『うん、本当はもうちょっと居たかったんだけどね』
知ってる。
「来た時も唐突だって言ってたものね……。帰る時も唐突なのね」
悲しそうに雷門がそう呟く。
『うん。私がどうこうできる問題じゃないみたい』
「そう……。寂しくなるわね」
雷門の素直な言葉に水津は優しく微笑んだ。
「水津」
円堂が近づいてきて、水津に手を伸ばす。
水津は、俺に触れてた手を離して、円堂の手に触れた。
「お前とやるサッカー、楽しかったぜ!」
『こちらこそ!』
円堂の言葉に泣きそうなのを無理やり笑顔にして水津は答える。
「元の世界に帰っても、サッカー続けてくれよ!」
円堂のその言葉に、バカ!と風丸が叫ぶ。
「水津さん元の世界じゃ足が悪いって言ってただろ」
円堂の傍に駆け寄って風丸が小突く。
「円堂がすみません。でもトレーナーとしての水津さんの能力に俺たち助けられました。向こうでもサッカーに関わること諦めないでください」
そう言って風丸も手を伸ばす。
『そっか……、うん。そうだね』
足が悪いどころか水津は………。
風丸と水津が握手を交わせば、今度は土方と綱海が割り込んできた。
「世話になったな!」
「口うるせえなと思う時もあったけど、楽しかったぜ!」
きっちりと礼をする土方と軽口を叩く綱海に水津が笑う。
『土方。帰りの飛行機でも綱海が騒ぐと思うから面倒よろしくね』
「えー、なんだよそれー」
「ははは!任された!」
ドンと胸を叩き、他の奴も話したいだろうからと土方は綱海を連れて引き下がる。
「水津さん」
「姐さん」
「「お世話になりました」」
そう言って虎丸と飛鷹が頭を下げる。
『こちらこそ。ふたりとの夜食会楽しかったよ。チャーハン随分上達したよ』
「あ、ありがとうございます」
「えー、あれじゃまだまだですよ」
何の話か分からないが、飛鷹が照れた様子で礼を言い、虎丸がからかっている。
『虎丸。お母さん大切にね』
「はい!もちろんです!」
『飛鷹。響木さんのこと定期的に様子見に行ってあげて。飲食業って高血圧なりやすいから』
「了解っす!」
それじゃあと2人は離れていく。
「梅雨先輩っ!」
泣きながら音無が抱きつく。腕が体をすり抜けて、音無は更に顔を歪めた。
『春奈ちゃん……』
よしよしと透ける手で水津は音無のアタマを撫でている。
「うぅ、先輩行かないで欲しいッス〜!!」
音無と同じように泣きながら壁山が近づく。
『成長したのに泣き虫な所は変わらないわねぇ』
届いてはいないが、音無を撫でる手と反対の手でよしよしと空を撫でている。
「水津さん色々とお世話になりました。特訓メニュー帰ってからも続けますね!」
そう立向居が声を掛ける。
『うん。がんばってね。応援してる!』
「オタク仲間が居なくなるというのは……寂しいものですねぇ……」
メガネを片手で押さえながら目金がそういう。言葉は少し震えていた。
『そうだねぇ。こっちのアニメもゲームも面白かったなぁ』
「くっ、別世界の人がいなくなるのは、ありきたりな展開で見慣れているはずなのに……!うわーん!」
目金は声を上げてわんわんと泣き出す。
『君ら双子は泣き方そっくりだね。弟くんにもよろしくね』
「は"い"」
ズビズビと泣きながら下がる目金を見てからまだ抱きついて泣いている音無とその傍で泣いている壁山に立向居が、行きましょうと声を掛けて引き剥がす。
「第一印象は最悪だったんだけどな」
そう言いながら佐久間が歩み寄る。その後ろに鬼道と不動が続く。
『お互い様だし、なんならあれは鬼道が悪いよ』
「お前たちそれを掘り返すのはやめろ」
そう言って鬼道は頭を抱える。
それを見て水津は、あははと笑った。
「まあ、最初はあんなだったが、今じゃすっかり信頼できる仲間だ。寂しくなるな」
佐久間の言葉にそうだなと鬼道が頷く。
「そうか?オレはせいせいするけどな」
「唯一の友達だったのにいいのか?」
「唯一じゃねーよ!」
佐久間がからかうように言えば、不動は怒ってそう返す。つーか、友達というところは否定しないんだな。
『そうだね。佐久間と鬼道がいるもんね』
その言葉に、ケッと悪態をついて不動は離れていく。
『照れちゃって』
「ま、ああいうやつだからな」
「水津。俺にとってもお前は友人だ。色々と勉強になった。礼を言う」
そう言って差し出された鬼道の手を水津は握った。
『こちらこそ。一緒に作戦練ったりトレーニングメニュー考えたり楽しかったよ。鬼道はいいプレイヤーにも、いい指導者にもなれると思う。がんばってね』
「そうか。ありがとう」
ふっと笑って鬼道は手を離す。それを合図に佐久間も離れて、鬼道もそれに続いた。
「水津さん」
入れ替わりで吹雪とヒロトと豪炎寺が歩み寄る。
「いっぱい迷惑をかけてごめんね」
『迷惑だなんて思ってないよ。私の方こそ上手く寄り添えなかったから……』
恐らく吹雪と水津はエイリア学園との戦いの時の事を話しているのだろう。
「そんなことないよ。あの時、士郎って呼んでくれて凄く嬉しかったんだよ。また呼んで欲しいな」
吹雪がそうねだれば水津は小さく笑った。
『士郎。もうひとりじゃないから大丈夫よね』
「うん!みんながいるからね」
満足そうに吹雪が微笑んだ横から豪炎寺が手を差し伸べる。
「俺も色々と心配を掛けた」
『まー色々あったね。でも、全部どうにかなって良かったね』
夕香ちゃんの事とか、家庭の事がゴタゴタしてたみたいだからな。
『夕香ちゃんとこれからも仲良くね』
「ああ」
握手を返して、豪炎寺は場所をヒロトに譲る。
『ヒロトには私の方がたくさん迷惑かけたね』
「水津さん…………。ごめん、力になれなくて……」
『ううん。たくさん力になってもらったよ。ひとりじゃ上手く隠せなかっただろうし』
話しによれば、アジア予選の頃からヒロトは水津の状態を知って協力してたらしい。
『直接伝えられなくてもうしわけないんだけど、瞳子さんにもありがとうって伝えてくれる?』
「もちろん」
ヒロトとも握手を交わして、3人が離れる。
入れ替わりで今度は、木野と久遠が近寄った。
「梅雨ちゃん!一緒にサッカーの話ができる女の子が増えてすっごく楽しかった!」
『私も!』
「いっぱいいっぱい、話したいことも学びたいこともあった、のに……」
ポロポロと木野の瞳から涙が零れる。その背に久遠が触れる。
『秋ちゃん……ありがとう』
「私も、私も水津さんともっとお話してみたかったです」
木野の背中を擦りながら久遠がそう話す。
『そうだね。私も冬花ちゃんともっと話してみたかったよ。ありがとうね。あなた達と過ごした日々、最高に楽しかったわ』
そう言葉を交わした後、泣きじゃくる木野を久遠が支えて離れていく。
これで全員と話せただろうか……。
水津の身体は、もう胸の上くらいまでが消えている。
「嫌だ」
1番後ろからそんな声が聞こえた。
「でも木暮、これが最後だよ」
優しく立向居が木暮に声をかけた。
「嫌だ!別れの挨拶なんかするもんか!オレの前から黙って居なくなろうとするなんて、サイテーだ!消えるなんて、許さないんだからなッ!!」
駄々を捏ねるように木暮が叫んでいる。
誰よりも水津懐いていたのもあるだろうけど、コイツは母親に置いていかれたトラウマがある。
『木暮……』
笑って過ごそうとしていた水津の顔が一瞬歪んだ。でもすぐに優しい笑顔に変わった。
『私の事は許さなくていい。こんなサイテーな奴、大っ嫌いでもいい。だけどね、キミのことを置いていきたくて消えるんじゃないって事だけ分かって欲しい。本当、なら、』
言葉の端が震えだして、水津は1度息を吸い直した。
『みんなのことずっと見守って居たかった』
吐き出された本音に対して木暮は何も言い返さない。ただ、後ろからは啜り泣く声が聞こえた。
いつもの水津なら駆け寄って抱きしめた事だろう。けれどもう、足どころかうでも消え、ほとんど頭だけの状態だ。
だけど俺は再び腕をのばして、抱きしめる。
「水津……」
水津の最後の姿だというのに視界が滲んで上手く見えない。
『染岡……あのね、 』
すき
その言葉は音もなく紡がれ、それと共に水津の頭部が消滅した。水津梅雨を形取るものは全て消え去り、俺はただ、声を上げて泣き叫ぶことしかできなかった。