フットボールフロンティア編
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響木監督の命令で本日の練習を早々に切り上がった。
そして、その監督に付いてこいと連れていかれたのは稲妻町の商店街だった。
商店街のゲートには大弾幕にフットボールフロンティア地区大会雷門中優勝!の文字が書かれ吊るされていて、そのまま雷雷軒に向かった監督は、本日貸切と書いた紙が貼られている扉を大きく開いた。
「お前たちに優勝祝いだ。俺の奢りだ。好きなのを作ってやろう」
響木監督の言葉に、雷門中サッカー部一同はやったー!!と大声を上げて店の中に入っていく。
なるほど、昨日の勝利を祝うために練習を切り上げたのか。そして私へのあの注意は、今から祝いをするのに辛気臭くするなということだったのか。
地区大会優勝の喜びについては昨日、帝国からの帰りに皆で散々やったから、このイベントがあった事をすっかり忘れてた。
皆が喜びながら席に席に座る中、監督は厨房に入り手洗いを始める。
『響木さん、手伝います!入ってもいいですか?』
「ん?...ああ、前に料理は出来ると話してたな。なら頼む」
あれ?響木さんに話したっけ?
...ああ!前にここで男子達とそんな話をしたか!
失礼しまーす、とカウンター横から厨房に入る。
「俺も手伝う!」
ハイハイ!と手を挙げた円堂に、あー...と響木監督は渋ったような声を出した。
まあ正直そんなに広い厨房じゃないし作る間は邪魔になりそうだよね。
『じゃあ、円堂。決まった子達から注文聞いていって』
「ああ、そうだな。円堂、そこのメモ帳とペン使っていいぞ」
そう言って響木監督は電話の手前にあるメモ帳とボールペンを指さした。
それを代わりに手に取って円堂に手渡す。
『任せたよ』
「おう!」
ニッ、と笑って円堂は受け取って、注文を聞き取りに向かった。
「ラーメンと餃子はある程度先に作っておくか」
そう言って響木監督は冷蔵庫から仕込み済みの材料を用意して調理台に並べて行く。
麺も一食ずつ丸めて打ち粉して置いてあるし、餃子も幾つか皮に包んであるし、チャーハン用の具材の切り込みもされている。用意周到だ。今朝からみんなを祝おうと仕込みしたんだろうか?響木監督優しいよなぁ。
さて、ラーメンに関してはゆで時間とかシビアそうだし湯切りも出来ないし監督に任せるとして。
『餃子やりますよ。こっちの鉄板でいいですか?』
手洗いを終えてそう声をかける。
「ああ、焼き方は」
『大丈夫です』
温めた鉄板に油を引いて、ヘラで鉄板全体に馴染ませるように伸ばしてその上に餃子を手早く乗せていけば、ほう、と感心したように頷いて響木監督は円堂から第1陣の注文を受け取って別の作業に取り掛かった。
「一人暮らしが長いと言っていたが、それにしては大人数の飯を作るのに慣れているような手際だな」
『ああ、昔バイトで飲食の厨房入ってたんで』
フリスタやってた頃は、学生だけど部活でない個人活動だし、サポーターも何もない状態で大会出るにはお金がいるので、小遣いで賄える範囲ではなかったし、そうなると自分で稼ぐしかなかったのでバイトをしていた。
「なるほどな」
『あ、これ。これ水は片栗粉溶きます?そのままでいいです?』
「皮に打ち粉がしてあるからただの水でいいぞ」
了解です、と返事をして、計量カップで汲んだ水を餃子の上に掛けて蓋をして蒸し焼きにする。
いやぁ、いいなこの四角い蓋。餃子作ってる感じする。家じゃフライパンで丸い蓋だもんなぁ。
「お前、マジで料理出来たんだな」
カウンターの1番端に座っている染岡のその言葉に、ア?と振り返る。
『ずっとそう言ってんじゃん』
「いや、そうだけど、実際見てみねぇとわかんねぇだろ」
「結構、カツサンド作って貰えてないですもんね」
テーブル席からそう言った宍戸の言葉に、あー...と零す。風邪引いてぶっ倒れたから、帝国戦前の練習に作って持っていくと約束したの果たせなかったんだったわ。
「えっ、カツサンド!?なにそれ?」
なんの話?と染岡の隣に座った松野が食いついて、彼だけじゃなくてこの間あの場にいなかった男子達は首を傾げていた。
「試合前に験担ぎでカツサンド作ってくれるって約束だったんっスよ!」
「まあ、あの後色々あったからなー」
「スパイ騒動とか」
スパイ騒動はほじくり返すな!私はいいけど、土門が可哀想だろ。ほら、見てみろ、いたたまれなさそうに苦笑いしてんじゃん。
『もー。分かった分かった。今度の学校が休みの日の練習には作って持ってくから』
「ホントか!?」
「やったー!!」
俺、実は楽しみだったんだ〜!なんて可愛らしい事をテーブル席で少林寺が言ってくれてるのが聞こえたので、とびきり美味しいのを作って持って行ってあげようかと思う。
さて、そろそろいいかな、と蓋を開けてみればちょうど水分もなくなっていい感じである。
『響木さん、お皿何処にあります?』
「餃子皿はそっちだ」
『はーい』
返事をして、響木監督が指した方を振り向けば、はい、と円堂が声をかけた。
「これだろ?」
『えっ、ああ、ありがとう』
「へへ、よく来るから監督が何処から皿取り出すか知ってたんだ!」
そう。というかいつの間に厨房に入ってきたのか。まあ、ちょうどいいか。
受け取ったお皿に餃子を乗せていって、はい、と円堂に渡す。
『頼んだ子のとこどんどん持って行っちゃって』
「おう!」
「円堂、これもだ!」
そう言って監督は出来上がったラーメンをどんどん調理台に置いていく。
「えっ、あ、はい!」
そんなこんなで手伝いをした私と円堂は、皆がひとしきり優勝祝いを堪能して帰って行った後、ゆっくりと食事を頂いて、ついでだから最後まで片付けも手伝って帰ろうと円堂とふたり意見が合致し分担して作業に取り掛かった所だった。
ガラガラ、と雷雷軒の引き戸が開かれた。
「すみませんね、今日はもう...」
そう言いながら食器を洗う手を止めて入口を見た響木監督につられてそちらに視線を移せば薄茶色の髪で目が隠れ鼻と口だけが見える男の人が入ってきた。
「浮島!」
「忘れられてなかったか」
そう言って、浮島と呼ばれた男性は入口付近のカウンター席に座った。
「たった今まで思い出しもしなかったがな」
「口の減らない奴だ」
そう言いながらもどことなく嬉しそうな雰囲気が出ていた。
「雷門中が帝国学園を倒したって聞いてな。なんだかお前の顔が見たくなったんだ」
「そうか。こいつがそのサッカー部キャプテン円堂守だ。こっちはマネージャーの」
そう響木さんが私の紹介をしかけていたのだが、浮島さんは円堂を見つめてハクハクと口を動かしたあと絞り出すように、円堂...!と呟いた。
「まさか大介さんの」
「孫だよ」
「そうか、そうなのか...」
「この人まさか!」
「ああ、イナズマイレブンのひとりだ」
その言葉に円堂はやっぱり!と握っていた台拭きを置いて浮島さんの傍に駆け寄った。
「オレ、じいちゃんとイナズマイレブンの話を知ってからずっーと憧れてたんです!伝説のイナズマイレブンに!」
「伝説...」
はい!と元気よく円堂が返事をするが、浮島さんの表情...は目が隠れててイマイチ分からないが雰囲気的に暗かった。
「ものすごく強かった!無敵だったって!カッコイイ!ぜってぇカッコイイ!!」
『円堂』
結果が結果だったから、あまり褒められてもいい気はしないのでは?と思い、円堂のジャージの袖を引っ張って止める。
「なんだ?」
イヤイヤと首を振ってみたが、まあ円堂じゃ雰囲気で察するとかは無理かなぁ。
『結末、知ってるでしょ』
「...知っているのかイナズマイレブンの悲劇を...」
『はい』
そうか、と浮島さんは呟いて円堂から視線を逸らした。
「だけど、イナズマイレブンが強かった事に変わりはないよ!あんな事故さえなければもっともっと勝ち続けたはずです!俺たちももっと強くなりたいんです!イナズマイレブンみたいに!」
「やっぱり来るんじゃなかったな」
「えっ、おじさん!?」
浮島さんは急に立ち上がって、それ以上何も言わず雷雷軒から出ていってしまった。
「オレ、ちょっと追いかけてくる!」
『え、は?』
円堂!と呼び止める間もなく、円堂は雷雷軒の外に飛び出した。
『はぁ...。純粋無垢は恐ろしいなぁ』
円堂は本当に尊敬してるからこそ余計にタチが悪い。
バス事故にあって這ってでも会場に向かおうとした矢先、試合放棄の電話が何者かによって掛けられて不戦敗とされ、心折れた少年たちのようにになりたいなんて、下手すりゃ皮肉に聞こえるけれど、円堂のあのキラキラとした目は本当に、小さな子供がスーパーヒーローをカッコイイと思うのと同じ眼差しで見ているのだから、本来ならば帝国との試合をして伝説を残したかったであろう彼にはその純真さは酷だっただろう。
『あんなことがなければ...か、』
私だって、何度そう思った事か。
あの日あの時、無理して練習を続けなければ、アクロバットを失敗しなければ、そんな後悔何百回何万回として結局どうにもならなくて心折れるんだ。
「......」
じっ、と響木さんがこちらを見詰めて来て、なんだと首を傾げてみる。
「水津。すまんが、店を頼んでいいか」
『え?はい?』
あ、確か、響木さんも浮島さん追いかけて行くんだっけ?
「悪いな。すぐ戻ってくる」
響木さんはエプロンをしたまま、走って雷雷軒を出ていく。
長靴で走るの走りずらそうだな。
しょうがないから、1人で片付けしようと、円堂がほったらかしにした台拭きを手に取ってカウンターを拭いていく。
リハビリしても前のようには動きません。麻痺が残るので運動は無理ですね。医師にそう言われて、絶望した。
今回の大会には出場出来ないけど、足が完治したらまた練習して来年の大会には...、そう思ってた矢先だった。
頑張って来たことが、一瞬で全て無駄になって、目の前が真っ暗になった。きっと向こうの世界での足の動かない私に、円堂のように純粋な心で、凄いプレイヤーだったんですよね!なんて誰かに言われても、成果を残す前に終わったけどな!!ってブチ切れると思う。
フリスタの選手で居られないという事実に、心折れてその状態でのリハビリには身が入らなかったし、死にたいとまで思っていたからやる気も出なかった。きっと当時のイナズマイレブンもやるせない気持ちをズルズルと引きずってサッカーから離れて行ってしまったんだろうなぁ。
なんて、ぼんやりと考えながらカウンターとテーブルを拭き終われば、ちょうど円堂と響木さんが雷雷軒に帰ってきた。
『おかえりなさい』
「水津!」
『ん?』
「日曜の朝河川敷に集合な!」
そう言って円堂はニシシっと笑っていて、どういうこと?と響木さんを見た。
「ああ。練習試合をするぞ!」
伝説のイナズマイレブンと
万が一メンバーが集まらなかったら、うちのチームに入れ、響木さんにそう言われ、キャリー出来ませんよとだけ応えておいた。