フットボールフロンティア編
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一通り警察からの事情聴取が終わり、グラウンドの修復が行われる。
どういう技術か謎だが、帝国スタジアムはぐるりと囲む観客席と真ん中のフィールドとの間に溝があり、1枚の板のような構造のフィールドは取り外して新たな物に差し替えられるようになっている。
『金のかけ方がえげつない』
観客席へと戻る途中で差し替えの様子を見ていたのだが、同じようにその様子をぼんやりと眺めている春奈ちゃんを見つけた。
『春奈ちゃん。みんなの事情聴取も終わったし、そろそろ試合始まると思うよ』
そう声をかければ、彼女はビクッと肩を揺らして驚いたように私の方を見た。
「先輩...」
ゆっくりと歩いて、春奈ちゃんの隣に立ってグラウンドを見下ろした。
「水津先輩は、」
『ん?』
グラウンドから目を離して春奈ちゃんを見れば、彼女の瞳が揺れた。
「なんで、さっき帝国の様子を見に行ったんですか...?帝国は敵チームなのに...」
『あれ...もしかしてまだ疑われてる...?』
そう聞けば春奈ちゃんは、いや、と首を振った。
「私、分からないんです。先輩が本当に悪い人なのか。悪い人ならきっとあの時、知っていたのに何故もっと早くにみんなにその事を伝えなかったのかって突っ込みを入れるはずです。それなのにあっさりと、本当だって言ってたじゃないですか。それは...私の立場を守ろうとしてくれたんじゃないですか?」
『さあ、どうだろうね。私はそんなに物事考えてないよ』
そう言って笑えば、春奈ちゃんは下を向いて、ギュッと拳を握りしめている。
「嘘。水津先輩が皆の事を考えて動く人だって私知ってます。一緒にマネージャーやってきたんだから」
春奈ちゃんはそう言ってくれたけど、私はただ極力物語を変えたくなかっただけで、誰かの為じゃなくて、私のせいでみんなが怪我をしてサッカー出来なくなるのが嫌で、全部自分のせいにしたくないだけで。
「だからこそ、先輩も、お兄ちゃんも、何を考えてるのか全然分からない...」
『...そっか』
握りしめたままの春奈ちゃんの手をそっと取って両手でその拳を包む。
『でも、それが普通だと思うよ。相手の考えてる事なんてみんな分かんないから疑うし不安になるし。寧ろ円堂みたいに自分の思いだけで人を信じれる方が凄いし。まあ、その分この子詐欺とか引っかからないかしらって心配になるんだけど』
そう言えば、春奈ちゃんはきょとんとしてから、嗚呼、と呟いた。
「水津先輩は、どんな時でも水津先輩ですね」
『ん?』
それはどういう意味だろうか?と首を傾げれば、春奈ちゃんは久しぶりに笑って見せた。
「いつものサッカー部のお母さんだなって」
『お、お母さん...』
いつものってなんだ。もしかして私裏でそう呼ばれてんの?いや、まあ、確かにアラサーだし、君らのお母さんの方が歳が近いもんね...。
明らかにしゅんとしすぎたせいか、春奈ちゃんは慌てて、老けてるって意味じゃないですよ!と訂正をくれた。
「みんなのことを見守ってたり、心配してたりって意味で...!それが、私が水津先輩を見てきた中で、ずっと変わらないところだと思ったんです」
『うん?よく分からんけど、人の性格なんて一朝一夕じゃ変わらんし、三つ子の魂百までとも言うし。性格が変わるなんてよっぽど過度なストレスが与えられたりしなきゃ中々ないんじゃない??』
そう言えば、春奈ちゃんは急に真剣な顔つきになった。
「過度なストレス...。けど、あの人は、そんな...」
真剣に考えているのは、おそらく彼女の兄の事だろうか。
『人の根っこなんてそうそう変わらないよ。例え取り繕っていたとしても、一緒に居れば今の私が春奈ちゃんにされたみたいに観察して本質を解き明かされちゃうかも』
「本質...。本当に変わらないんでしょうか?」
『変わったとしたら、きっと″何か″があったんだろうね』
そう言ってポンポンと春奈ちゃんの頭を撫でる。
「...正義感の強いところは、変わってない...」
春奈ちゃんがボソリとそう呟いたのは聞こえなかったフリをした。
『さて、そろそろ本当に試合が始まりそうだよ』
「あっ...そうですね」
『私は監督命令に従い大人しく観客席で観てるから。みんなのことよろしくね』
「はい」
頑張ってと春奈ちゃんの背中を押して、グラウンドに行くため観客席から去っていく彼女を見送った。
「フットボールフロンティア地区大会決勝!果たして優勝は帝国か!それとも雷門か!!」
両選手達がそれぞれのポジションにつき、試合開始のホイッスルが鳴り響いた。
雷門中からのキックオフで、染岡が回したボールを豪炎寺がドリブルで切り込んで行く。
大野と成神のスライディングを交わし、豪炎寺が染岡の名を呼んで、そのままバックパスでボールを渡した。そしてそのボールを染岡が思いっきり蹴りあげる。
「ドラゴン!!」
染岡が放ったドラゴンクラッシュを豪炎寺は上からファイアートルネードの体制で打ち下ろした。
「トルネード!」
赤く染まった龍は帝国ゴールへと渦巻いて飛んでいく。それに合わせて、帝国GK源田は高く飛び上がった。
「パワーシールド!!」
振り下ろした拳が地にぶつかった衝撃派で、源田はボールを受け止めた。
『流石に、簡単に先制点は決めさせてくれないよね』
影山があんな事をしていたから作り上げりたナンバーワンだと思われているだろうが、彼らの実力はちゃんとナンバーワンの名、それに見合うだけのものである。
五条がボールを運び、マークについた少林寺を交わし、鬼道にパスを出す。
ドリブルで攻め上がった鬼道は、最前の寺門へと高いパスを渡した。
高く飛んだ寺門はそこからボールを何度も踏みつけるようにした。
「百烈ショット!!」
大きく両足で踏み飛ばされたボールは真っ直ぐ雷門ゴールへ飛んだ。
「熱血パンチ!」
拳を突き出した円堂が、あっという顔をして、ボールが拳の横から弾いて飛んでいく。
「あっと!弾きそこなった!!」
ボールは運良く、ガンっと音を立ててゴールポストに当たって、なんとかセーフだった。
円堂は不思議そうに自分の手を見つめ手を開いたり握ったりしていれば、風丸を筆頭にDF陣が声をかけていく。
帝国のコーナーキックで再スタート。鬼道がコーナーキックを蹴りあげ、ゴール前にスタンバっていた佐久間が飛び上がり、ヘディングでシュートを打てば円堂の真正面にボールが来た。
それを円堂が両手で取ろうとしたらスカッとグローブが滑ったのかボールが跳ねて前方に飛び、円堂は慌てて抱きしめるように全身でボールを押さえ込んだ。
「慌てて押さえた!!どうしたんだ円堂!!」
実況の角馬くんや、ずっと試合を見てきた者ならわかる円堂の明らかな不調。
円堂はボールを蹴りあげ少林寺にパスを出した。しかしそれをすかさず鬼道が奪って、再びゴールへ向かう。
鬼道は立ちはだかった壁山をヒールリフトを上手く使い交わして、ゴール前、円堂と1対1。
「円堂ぉおおお!!」
ボールを蹴りあげようとしたその足が、ンッと止まった。
「おっと!豪炎寺だ!!」
戻ってきていた豪炎寺がスライディングで鬼道のシュートを阻む。
豪炎寺のパワーに押し負けて、鬼道は後ろによろけ、ボールは横に弾かれた。
「おおっと、鬼道、足を痛めたか!?」
弾かれたボールを拾いにいった洞面が、鬼道が痛そうに足首を抑えるのを見てボールをすかさずラインの外に蹴り飛ばした。
『チームメイトの怪我への判断の速さは流石だな』
サッカーにはバスケやバレーのようなタイムアウトが存在しない代わりに、ボールをラインの外に出して、スローインするのに制限時間がないので、これを利用して治療することはよくあるのだが、如何せん我が雷門中イレブンは即座にそういった判断が出来る子が現状いない。どうにも、大丈夫か!?と駆け寄るほうが優先的になる子が多い。こればっかりはこれまでの試合数の差かなぁ。
鬼道はひょこひょこと足を引きずるように歩き、フィールドの外に出て座り込み、靴と靴下を脱ぎ捨てて足をさすっている。
『大丈夫かな』
じっとグラウンドを見ていれば、雷門ベンチから春奈ちゃんが救急箱片手に飛び出したのを見て、良かったとほっと一息つく。私と秋ちゃんで散々手当の仕方を教えこんだので彼女に任せれば大丈夫だろう。
敵だの、考えていることが分からないだの、なんだかんだ言っていても、春奈ちゃん自身が、彼を大事なたった1人の兄弟だって思っていることは変わらない。だからこうやって飛び出して来たんだろうし。
『不器用な兄妹だねぇ』
春奈ちゃんが氷嚢で鬼道の足を冷やして、二、三言言葉を交わした様子で、その後は2人とも無言で、治療をしていた。
最後に春奈ちゃんが冷却スプレーを足にかけたら、鬼道は靴下を履き直した後、靴を履いた。
立ち上がった鬼道が、春奈ちゃんに背を向けて、少し立ち止まったあと、再びフィールドに戻っていく。
ぱっと、顔を上げた春奈ちゃんは瞳に涙を溜めていたものの、明るい表情をしていた。
変わらぬもの
あ、そういえば、春奈ちゃんを泣かすような事があれば許さないって言ったけど...まあ、これはノーカンでいいかな。