世界への挑戦編②
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コンドルスタジアムから戻り、夕飯を取るために皆が食堂に集まった頃だった。
ライオコット島のお天気やその日あった試合の放映などをするニュース番組をテレビで流していたら、速報が流れた。
オルフェウスの監督、ミスターKこと影山零治が事故により死亡。
突然の訃報に、せっかくの食事の時間も暗くなってしまい、食事が喉を通らない者も何人かいた。
返ってきたお膳を片付けている最中、私の携帯電話が鳴った。
作業の手を止めて、ジャージのポケットに入れていた携帯電話を見れば、電話を掛けてきた人物の名が表示されていた。
『鬼瓦刑事だ。ちょっと出てくるね』
洗い物をしているマネージャー達に声を掛けて食堂の外に出る。
食堂の中だと、テレビがつきっぱなしだし、食事を終えて話をしている子達もいるしね。
『もしもし、水津です』
《こちら、鬼瓦。お前さん、今日のニュースは見たか?》
はいと返事をしながら廊下を渡り玄関先のベンチに腰を下ろす。
『影山さんが亡くなられた件ですね』
《お前さんは、こうなることを知っていたのか》
『ええ。知っていました』
そう答えて私は来た道の方へ顔を向ける。
鬼瓦刑事からの電話と聞いて、私の後を追ってきたのか、廊下には鬼道が立っていた。
《そうか……。 水津、俺はこれはただの事故だと思っていない。恐らく影山は口封じの為に消されたんだろう》
『そう、ですね。影山さんが使う手段とも似てますしね』
邪魔な者を消す為に交通事故に見せかけるのは彼のお手の物だ。
《ああ。影山自身も恐らく消される事を分かっていた様子だった。それでだ、次に狙われるのはお前さんかも知れないと影山は言っていた》
『……嗅ぎ回ろうとしてたと捉えられてるってことか』
悪事は最初から知ってるし、ただ、神代なる者との接触があるか知りたかっただけなんだけどな……。
彼の者が私の事をどのくらい知っているのかにもよるけど、私が都合の悪い存在であるのは確かよね。
《やはりお前さんは影山の後ろにいた奴の事を知っていたんだな》
『はい。ですが……』
《いや、いい。お前さんの事情は分かっているし、犯人を聞いたところで決定的な証拠がなければ捕まえられん。それと同じで、俺の力では実害が起きてない状況でお前さんに警護をつけることができん》
鬼瓦さんは国際警察ではないからライオコット島で自由に警察を動かせるわけではないだろうしな……。
『それで忠告の電話をくれたんですね』
《ああ。何があるか分からんからな、気をつけろ》
『わかりました。ありがとうございます』
これで要件は終わりかなと思っていれば、鬼瓦さんは、それとと話を切り出した。
《影山からルシェという少女宛に荷物を預かっててな。イタリア代表の中田に頼んで明日の朝、その少女と会うことになっている。影山が最後に用意したものだ。何があるか分からんから一応中身を確認したんだが、アレは鬼道や円堂も見ていた方がいい》
……確かプレゼントと共にルシェ宛の手紙が入ってるんだっけ。
『わかりました。2人に明日の朝、出かける準備をするように伝えます』
《ああ、詳しい場所は追ってメールする》
それじゃあな、と言って鬼瓦さんが電話を切る。
「鬼瓦刑事はなんと?」
近くで立ったままだった鬼道が、私がポケットに携帯電話をしまうのを見てそう聞いてきた。
『影山さんからルシェ宛の荷物を預かってるから、円堂と鬼道にそれを届けるの着いてきて欲しいって』
「そうか」
そう呟いて鬼道は、私と人一人分開けてベンチに腰掛けた。
「やはり、あの人は自分の最期を悟っていたのだな」
『ごめん……、私は……』
どうなるか知っていたのに、何も言わなかった。
鬼道の顔が見れず下を向く。
「どうして謝る。お前は、伝えてくれただろう。最後だと」
どんな表情をして言っているのか分からないが、鬼道の声は震えていた。
『それは……、ちゃんと話をさせたかったから。あの人、歪んた執着をみせてたけど、ちゃんとキミに愛情もあったから』
え、と鬼道が呟いてこちらを向いたのが分かる。
『鬼道が雷門に入った時に、青いマント買ってきたでしょ』
「ああ」
『あれね、影山さんが見立ててお金払ってくれたんだ。それって自分の元を離れたからって憎んでる子にする対応じゃないでしょ?』
「……。…………う、う……」
隣から小さく嗚咽が聞こえてきた。
『鬼道……』
そっと腕を伸ばして背に手を置く。
「う、おおおお……!ああ……ああああっ!」
何かが決壊したように鬼道は大声を上げて泣き始める。
いくら大人びていても鬼道は中学生なのだ。
「……影山、総帥ぃーーっ!」
悪い事を沢山して来た悪人だ。
けど、それでも彼にとって影山零治は師だったのだ。
咽び泣く鬼道に、ごめんね、と私は目を伏せるのだった。
落ち着きを取り戻した鬼道が、ゴーグルを外してジャージの裾で涙を拭い、ゴーグルを付け直して立ち上がった。
「情けない所をみせたな」
『いや、』
「先程の件、円堂には俺から伝えておこう」
そう言って鬼道は食堂の方へ戻っていくのを見送って、気づかれなくて良かったと息を吐いて、伸ばしていた手を見る。
『慰めることすら許されないってか』
透けた手を見て小さく笑う。
『そりゃあそうだよね』
重い腰を上げて、玄関に向かい外へ出る。
夜風と共に歩いて宿舎からグラウンドへ向かった。
『流石に今日は誰も居ないか』
サッカーコートに近づいてサイドラインから中に踏み込もうとした時だった。
「水津!」
後ろから名を呼ばれて振り返れば、グラウンドの入口に息を切らした様子の染岡が居た。
慌てて自分の掌を確認する。
良かった。透けるのは治まってる。
確認してほっと息を吐く合間に、染岡はこちらまで駆け足でやってきた。
『どうしたの?』
「どうしたのって……!いや、お前が一人で外に行くのが窓から見えたから……。こんな時間に女子が一人じゃ危ねぇだろ」
『心配してきてくれたんだ』
そう言えば染岡は、うっ、とか、まあ、とか呟いて顔を逸らした。
照れなくてもいいのに。
「つーか、お前こそどうしたんだよ。こんな時間に外出て」
『あー、ちょっと気分転換?』
まあ、本当は身体が透けてるのが誰かに見つかるのがヤバいから外に出ただけなんだけど。
私の答えを聞いた染岡は、眉をひそめてこちらを向いた。
「……鬼道に何か言われたのか?」
『え?』
「あ、いや……お前を追っかけて食堂出ていった鬼道が一人で戻ってきたから………。それに、鬼道の様子も変だったしなんかあったのかと……」
『ああ……。何もなかったよ。罵倒されてもおかしくないと思ってたんだけどね』
ハッ、と自分自身を鼻で笑う。
鬼瓦さんに事前に影山さんの死を伝えることだって出来たのに、消えなくなくて我が身可愛さに行動に移さなかった。
『正直、罵倒された方が幾分か楽だったな……』
はああ、とため息を吐いてその場にしゃがみこむ。
「キツかったろ、ここ数日」
そう言って同じ目線にしゃがみ込んできた染岡の手が私の頭に伸びて置かれた。
「ずっと様子変だったもんな」
『……キミは本当に良く見てるね』
顔を上げて染岡の顔を見つめれば、染岡は私の頭の上に乗せていた手をバッと離した。
「え、いや、それは……」
『ふふ、心配してくれてありがとうね』
よいしょと立ち上がって、しゃがんでる染岡に手を差し出す。
戸惑いながらも染岡が私の手に手を乗せて、ゆっくりと立ち上がる。
『さあ、帰ろうか』
「もう大丈夫なのか?」
『うん、染岡のお陰でね』
「いや、何もしてねぇけど……」
困惑した様子の染岡の手を離して私は宿舎へと向かい歩き出す。
傍に来てくれただけで十分なのだ
その上、弱音も聞いてくれたしね。