世界への挑戦編①
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今回ばかりはガツンと言ってやらなければならない、と木暮を追いかけたはいいものの、すばしっこくて小さいアイツはどこかに身を隠したのか、宿舎の周辺をぐるりと探したが見つからなかった。
仕方がないが水津の様子も気になるしと、木暮探すのを諦めて宿舎に戻れば玄関を入ってすぐの所に響木監督が居た。
「ああ、帰ったか」
「監督!水津の様態は!?」
「呼吸は落ち着いて今は部屋で休ませている」
良かった、とひと息つく。
「木暮は捕まえられなかったか」
「すんません……」
「いや、いい。俺が探して来よう。他の皆は食堂で昼食を取っているから早く行かないと壁山に食われるぞ」
はい、と返事をすれば、響木監督はあと、と言葉を続けた。
「水津の様子を見に行くなら木野が傍についてやってるから、木野にも昼食を取るように伝えてくれ」
そう言って俺と入れ替わるように宿舎を出ていった響木監督を見送って、俺は食堂より先に水津の部屋に向かった。
扉の前に立ち、握った拳を扉の方へ向ける。
それを扉に当てる前に、ひと呼吸する。
「……よし」
コンコン、と扉を叩く。
「水津──、大丈夫か?」
いや大丈夫じゃないだろ。
何かかける言葉を考えてから扉を叩けば良かったと後から後悔する。
そんな俺を置いて扉の向こう側で、木野が水津に出てくるね?と声をかけている声が聞こえた。
それからすぐに扉が少し開いて、木野が顔を覗かせた。
「染岡くん」
「木野、水津はどうだ?」
「過呼吸は落ち着いたんだけど……」
そう言って木野は後ろを向く。
扉の隙間から部屋の中を見れば、ベッドの上に体育座りした水津がいてその両手にはマグカップが握られていた。
「ちょっと放っておける様子じゃなくて……」
そう言って木野はこちらを向き直した。
「染岡くん、お昼は食べた?春奈ちゃん達に任せっきりにしちゃったんだけど……」
「いや、俺はまだだけど、響木監督が皆は食い始めてるって。俺まだ腹減ってねえし、食って来いよ」
「え、けど……」
「心配なら俺が代わりに見とくし」
渋ったようすの木野にそう言えば、少し考えた様子を見せたあと、少しだけ開けていた扉を全開にした。
「なら、任せていい?後で、染岡くんと梅雨ちゃんの分のお昼こっちに持ってくるね」
「ああ、サンキューな」
じゃあお願いと言って部屋を出た木野と変わって、部屋の中へ入る。
流石に、男女2人っきりで密室になるのは……と思い、扉は開けたままにして、水津が座り込んでいるベッドに近寄った。
木野が先程まで座っていたであろう椅子が近くにあって、俺はそれに腰掛けた。
「水津、大丈夫か?」
さっき失敗したと思ったのにまた同じ言葉を繰り返してしまった事を後悔しながら、水津の様子を見ると、両手に収まったマグカップの中身は減った様子がなく、並々とお湯が注がれていた。それを持つ手は小刻みに震えていて、顔を見れば、顔こそマグカップの方を向いているが目は虚ろで、唇は青い。
木野が心配して傍を離れないわけだ。
コイツこんなに小さかったかな。
鬼道と変わらない身長だし、俺より小さいのは確かだし、身を丸めてるってのもあるだろうけどそれにしても今は随分と小さく見える。
気がついたら腰を上げて水津の肩に手を伸ばしていた。
肩からも震えが伝わってくる。
『…………ご、めん』
消え入りそうなほど小さな声だった。
「なんでお前が謝るんだよ」
『……だって、こんな………情けない……』
か細い声でそう言う水津の瞳から大粒の涙が零れて、思わずギョッとする。
「な、なんで情けないんだよ。お前の過去の怪我の事は皆分かってるし」
高いところから落ちるってのが水津に取ってトラウマなんだろうと、北海道で話しを聞いた時に皆知った。
「それにお前のおかげで、俺は何処も怪我ないぜ。だ、だから泣くなよ」
どうしたらいいか、と肩から手を離してオロオロとするが、その間も水津の目からはポロポロと涙が零れ落ちて行く。
『ううん……、寧ろ……一緒に落ちる方が、怪我のリスクが高かったし……。ちょっと考えれば、分かったのに………。でも、気がついたら、手を伸ばしてて……、そもそも、私が今日だって気づいてたら……円堂がカッパの話してたのに、私、忘れて………』
自分を批難する言葉も涙も水津からは止まらない。
「馬鹿、」
先程さ迷っていた右手は、水津の頭の後ろに伸びて、その頭を自分の方に引き寄せた。
「お前だって、人間なんだし忘れることぐらいあんだろ」
すっぽりと腕に水津が納まって、その後ろ頭を撫でる。
馬鹿みたいだな、俺。
昨日の土門と水津も結局、こういう事だったんだろうな。
こうやって、水津も慰めてただけだったんだろうに。
結局、水津が今日の出来事を忘れてたのだって、俺と話す機会をと伺ってたせいかもしれないし。
馬鹿だなぁ、俺。
水津の笑った顔が見たいのに結局いつも泣かせてばかりだ。
でも、とぐする水津の背中に空いた左手を回しその背を摩る。しばらくそうしていればマグカップを握っていた水津の左手が俺のユニフォームの裾を掴んだ。
『ごめん……、カッコ悪くって。私、お姉さんなのに……』
「お前がカッコ悪いんじゃ、俺なんかクソダサくなるだろ。それに、年上とか関係ねぇだろ弱ってる時は……」
素直に甘えろよ
とは言えないけれど。ありがとうと泣き続ける水津の背をそっと撫で続けるのだった。