フットボールフロンティア編
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雷門サッカー部一同は、新築のアパートを見上げていた。
「ここに水津が...」
よし行こうと、皆で敷地内の庭に足を踏み込むと、一足先に車で来ていた夏未がアパートの扉を開けたまま首を傾げていた。
「やっぱり、おかしいわね」
「どうしたの夏未さん?」
「このアパートの管理人の女性が一緒に住んでいたはずなんだけど、居ないのよ」
「ちょうど買い物にでも出てるんじゃないか?」
豪炎寺がそう言えば、夏未は首を振った。
「水津さん、自分の電話にもメールにも出ないからと、昨日と今日とこちらのアパートにも電話をかけたのだけれど出なかったのよ」
一同がえっ、と騒めき出す。
「まさか...」
「アパートの管理人ってのもグルだったんじゃないか?」
「いや、もしかしたら何か水津の秘密を知って...消された、とか」
半田と松野がそう言えば、1年生達が怯えたようにヒェッと悲鳴を上げ抱き合っていた。
「そんな、たまたま出かけてただけだろ?とにかく入ってみようぜ」
そう言って円堂を先頭にぞろぞろとアパートの中に入る。
「お邪魔します!」
円堂が大きな声でそう言うが、返事は帰ってこない。
「誰も居ないみたいだな...」
「今住んでるのは管理人の風秋ヨネさんと水津さんだけだって言ってたわ。他の住人は居ないはずよ」
「で、その水津の部屋はどこなんだ?」
「たぶん2階よ」
「たぶんってお前、友達だろ家来たことなかったのか?」
円堂がそう言えば、夏未はムッとした。
「悪かったわね来たことなくて!迎えに来た時は2階の窓から手を振ったりしてたから2階だと思ったのよ!」
「まあまあ、夏未さん。私たち皆は住んでる場所も知らなかったんだから、2階だって分かるだけでも助かりますよ」
「そ、そうなら、いいけれど」
「兎に角上に上がって見ましょう」
秋の言葉に全員頷いて、玄関から真正面にある階段を登っていく。
「とりあえず虱潰しに開けてくしかないな」
「ああ、そうだな」
豪炎寺の言葉に頷いて円堂は階段を上がってすぐ右側の部屋の扉のドアノブを捻って開けた。
「ちょっと円堂くん、ノックくらいしな...」
そこまで言いかけて夏未は空いたドアの隙間から、人が倒れているのを見つけ、きゃあああ!と悲鳴を挙げた。
それと同時に円堂は中に入り倒れている人物に駆け寄った。
「水津!」
ぐったりと床に伏せて倒れている水津に円堂は声をかける。
ドアの前でズルズルとへたりこんだ夏未を秋が支える。
「な、何があったんだ...!?」
「まさか、死んで...!」
廊下にいるサッカー部員達に嫌な予感が走る。
「入るぞ」
へたりこんでいる夏未に豪炎寺がそう声を掛けて、彼女を避けて中に入る。それに染岡と土門と春奈が続いた。
部屋の中では円堂が必死で梅雨の名を呼びかけている。
その横に豪炎寺はしゃがんで梅雨の顔の前に手をかざした後、彼女の右手を取って手首を掴んだ。
「...息もしてるし、脈もあるな」
「じゃあ、生きてるんだな!?」
良かった、と皆が一息つく。
「だが、手が異常に熱い」
そう言って豪炎寺は梅雨の前髪を上げておでこに手を置いた。
「多分熱があるんじゃないか」
「ホントだ!すげぇ熱い」
円堂も梅雨の手を握って、その熱さに驚いた。
「体温計とかないか?」
「水津さん、なら救急箱くらい置いてるんじゃないかな」
夏未に寄り添っていた秋が部屋の中に入ってきてそう言う。
「私探してみますね」
そう言って梅雨の部屋を見回り出した春奈に秋はお願いと頷いて倒れている梅雨の傍に寄った。
「とりあえず、ベッドの上に寝かせましょう。染岡くん、土門くん手伝ってもらっていい?」
おう、と頷いた2人に梅雨をベッドに運んでもらう中、秋はタオル濡らしてくるね、と部屋を出ていく。
「音無さん、私も探すの手伝うわ」
「夏未さん、もう大丈夫なんですか?」
「ええ、少し驚いただけよ」
そう言って梅雨の部屋のクローゼットを開ける夏未と春奈を見て残った男子たちは、勝手に女子の部屋を漁っていいものかと固まっている。
「ないわね」
「机の引き出しとかに体温計入れてないですかね」
そう言って春奈は今度は梅雨の勉強机に寄って見た。
「これ...」
「音無さん?」
机の上に何枚かあったルーズリーフを1枚手に取って、それをじっと見つめている春奈を不思議に思った夏未は彼女に近寄った。
「何を見てるの?」
「夏未さん...これ」
そう言って春奈がルーズリーフを1枚夏未に手渡した。
「どうした?」
体温計捜索を辞めた女子2人の様子に、皆首を傾げる。
「見てみたら分かるわ」
そう言って夏未は机の上にあった計13枚のルーズリーフを取って、1枚1枚を男子たちに配った。
「これは...」
「円堂守。練習メニュー、キャッチングトレーニング、ポジショントレーニング、スローイントレーニング...。筋トレメニュー、GKに必要なのは速筋。重りを持っての10回スクワット。その後50メートルダッシュ3回やると筋肉がより早く動くようになる...。食事はカリウムが含まれている物がオススメ。大豆、アボカド、ほうれん草など...。試合直前はめちゃくちゃなタイヤ特訓は控えること、怪我をしても知らないからね......」
ルーズリーフは雷門サッカー部の選手それぞれの名前が記入されていて、それぞれにあった練習メニュー、筋トレ方、オススメの食事、そしてアドバイスと一言のコメントが書いてあった。難しい練習方や筋トレなんかは絵での図解もある。
「これ、俺たちそれぞれに違う事が書いてあんのか」
「いつもの、部室に置いてあるトレーニング表より詳しく書いてあるな」
ルーズリーフとベッドの上の梅雨を見比べ皆感傷に浸る。
「ちょっと、通してね」
そう言いながら廊下に溢れている選手達の間を抜けて、桶と取っ手の付いた箱を持って秋が部屋に入ってくる。
「ちょうど共同キッチンみたいな所に救急箱が置いてあったから借りてきたんだけど...皆それ何読んでるの?」
「水津さんがそれぞれに宛てて書いたトレーニングメニューよ」
なんでそんなものが?と首を傾げつつ、秋は水の入った桶から漬けていたタオルをしだして絞って水津の額に乗せ、救急箱を開けた。
「良かった。体温計もあるみたい。これ脇で挟むタイプかしら?」
体温計の保護キャップを開けて、スイッチを押して梅雨の服の首もとから体温計を入れようと秋が手を伸ばす。
『ん...、』
「水津さん?」
『...、秋、ちゃんが、いる...』
開かれたぼんやりとした虚ろな目で水津は秋を捉えてガラガラな声でそう言った。
『...水...、』
「お水?待ってて今持ってくるから」
「水なら俺が取ってくるでヤンス!」
そう言って廊下にいた栗松が一同部屋に顔を覗かせた後、ドタドタと廊下を走り階段を降りていった。
『...栗、松...???』
「もう。意識戻ってよかったわ...」
「本当ですよ!」
そう言って夏未と春奈が秋の横に並べば、梅雨は更に混乱した。
『は...?』
ドタドタという音が再び聴こえて、栗松が部屋に飛び込んで来た。
「水持ってきたでヤンス!」
「ありがとう。水津さん起きれる?」
そう言った秋ちゃんの手を借りてゆっくりと上半身を起こせば、どうぞ、と栗松がコップを渡してくれたので、ありがとうとその頭を撫でてコップを受け取った。
カラカラの喉を潤すために水を飲んだあと、部屋全体、そして開けられっぱなしのドアから除く顔をを見て梅雨は口を開いた。
『なんで、皆いるの?練習は?次決勝戦だよ!?』
「はあ!?こっちは、お前が学校に2日も来ないから心配して...!」
そこまで怒鳴るように言って染岡は、自信に注目が集まっている事に気がついた。
「染岡、心配してたのか」
「何だ!やっぱり染岡も最初から信じてたんだな!」
豪炎寺と円堂がそう言えば、染岡は顔を真っ赤にさせた。
「別に、心配なんかしてねぇよっ!!!」
「いや、今、自分で言ったんじゃんか」
『ふっ、』
松野がツッコミを入れれば、梅雨がすくすくと笑いだして、皆の視線が移った。
『皆が、心配して来てくれたんだよね。ありがとうね』
そう言えば、幾人かが目を逸らした。
「悪い、水津。俺は、お前が信用出来なくて来た」
目を逸らした中の1人、風丸が部屋に入りながらそう言った。
「俺も。監督命令で解決してこいって言われたから」
そう言ったのは半田で、うん、と松野も頷いている。
「俺は...水津さんの事、悪い人には思えないから、話を聞きに来た」
いつの間にか部屋に入っていた影野が、ヌッ、と円堂の後ろから現れてそう言えば、廊下にいて入口から顔を覗かせている1年生たちがウンウンと頷いている。
『そっか。...新監督見つかったんだね。よかった』
自分のせいで新監督探しが進んでいないなんて事が起こらず良かったと梅雨は一息ついて、風丸の方を見た。
『何が聞きたい?春奈ちゃんが言ってた鬼道と会ってたって話?』
「いや、それならいいよ。昨日鬼道が謝りに来てさ、水津と会ったのかって聞いた」
円堂の言葉に、皆がえっ?と彼を見た。
「お前昨日そんな話したなんて俺らに一言も...!」
「で、鬼道はなんて言ってたんだ?」
「会ったけど、可愛い妹分を泣かすなと言われたって鬼道は言ってたぞ?」
その言葉に、春奈が肩を揺らし、秘密を知っている土門だけが彼女を見た。
『うん言ったよ?鬼道ってば、真剣にうちのベンチのマネージャー達の事見詰めてたから、手を出して泣かせるような事があったら許しませんよーって』
「土門を二重スパイに勧誘したっていうのは?」
『本当だよ。影山の行動を探りたかったんだ。今ならみんなも影山がどんな危険な奴かわかるでしょ?』
うん、と皆が頷く。
『私は...、古株さんからイナズマイレブンの話を聞いた時に、古株さんが言い淀んだ事が気になって、あの後色々調べたのよ。そして出てきたのが、40年前のバス事故の話。そしてそれ以降帝国が40年間無敗を誇るという歴史。そうなってくると怪しいのは帝国でその理事長である影山で。彼の事を調べる為に土門を利用したし、土門の影山の信頼を得るために皆のデータも流させた』
「なんで私にも黙ってたのよ」
『危険な奴だって思ったから。極力巻き込みたくなかった』
そう言えば夏未ちゃんは頭を抱えため息をついた。
「貴女ってそういう人よね」
「じゃあ、やっぱり水津さん、悪い人じゃなかったんっスね」
良かった、なんて廊下にいる1年生達が呟いている。
『いや、そんな簡単に信じるの?君らの将来詐欺とか引っかからないか心配になってきたわ』
「お前だから、だろ」
そう言った染岡を思わず見上げる。
「一緒にやってきたんだ。皆、水津がどんな奴か知ってるよ」
にししと円堂が笑う。
「しかし、水津さん。この練習メニューは一体なんのために?」
そう言って目金が、手にしたルーズリーフをピラピラと振る。
『えっ、それ皆見ちゃったの!?』
「何か見られてまずいものでもあるのか?」
『いや、見られるのは別にいいけど、まだちゃんと完成してないからさ。その言い分だと風丸はまだ信用してないんでしょ?前も言ったけど君らが部をやめろって言うなら辞めるつもりだからさ...。辞めた後、練習とか筋トレとか困らないようにと思って』
そう言えば、ガシッと秋ちゃんに手を掴まれた。
「辞めるなんて簡単に言わないで!!ずっとサッカーしたかったって水津さん言ってたじゃない!!」
『秋ちゃん...ありがとう。でもね、納得できない人がいるなら私は居ちゃいけないよ。そもそも、本来なら私は...「ああもう!!」
そう言いながら風丸が自分の頭をわしゃわしゃと掻いた。
「俺が悪かった。意地の悪い事を言った」
そう言って風丸が頭を下げれば、傍にやって来てその肩を松野がポンと叩いた。
「ボクももう疑っちゃいないよ」
「まあ、これ見た時点で、な?」
そう言って半田も疑って悪かったと頭を下げた。
『いいよ別に。私だって私みたいなのいたら疑うし』
「だよねー」
「だよねーってマックスお前なぁ」
おちゃらけでみた松野は半田に小突かれていた。
「水津、辞めるなんて言うなよ。初めて会った時、俺にサッカーは面白いって言ったのはお前だろ」
風丸の言葉に、梅雨は、そんなことも言ったなと頷く。
『まだ居てもいいの?』
「そんなの当たり前だろ!」
円堂の言葉に全員が、うん、と頷いた。
和解
本当は、当たり前なんかじゃないんだよ。そう思って、ひっそりと目尻の涙を払った。