世界への挑戦編
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後半戦は早々からジ・エンパイアの必殺タクティクス、アンデスのありじごくに苦しめられた。
ボールを持った選手に7人が流砂を発生させるように囲い、相手を一定の方向にしかドリブルできないように仕向け、テレスの前まで誘導され正面からブロックされる。
しかも現状0-2で負けている。そんな状況で、尚且つ円堂や鬼道がいない。皆の士気が下がったのを鼓舞したのは意外にも久遠冬花だった。
それを受けて立ち上がったのは1年生達だった。
策があると言ったDFの3人は、木暮を中心にドリブルで上がっていき、アンデスのありじごくに囲まれた木暮にありじごくの外から栗松と壁山が指示をだし、木暮のすばしっこい動きでジ・エンパイアたちのフォーメーションを崩し、隙の出来た所から自分の体勢が崩れそうになりつつも咄嗟の倒立で持ち直して、壁山へボールをパスした。
ボールを受け取った壁山がドリブルで走れば、ジ・エンパイアは再度アンデスのありじごくをしかけてくる。壁山は身体が重い分他のみんなよりもずんずんとアンデスのありじごくにのまれて行き、目前までジ・エンパイアたちが来たところで、巨体を活かしてボールを足の間に挟んで守りつつ、前宙で豪快に飛び抜けながらボールを飛ばし、栗松へパスをだした。
ジ・エンパイアも諦めが悪く、またアンデスのありじごくをしかけてきた。
栗松は誘導されないように、自分の向かいたい方へと体を斜めにしながらドリブルで進んで行く。
しかし、木暮ほどの器用さも、壁山ほどの体躯もない彼は蟻地獄の先で待つ選手にボールを掻っ攫わられて
しまう。
それでも繋ぐでヤンス!と根性で、取られたボールを取り返し、豪炎寺へとパスを出した。
3人が必死で繋いだボールを受け取った豪炎寺は、ヒロト、虎丸と共に新必殺技、グランドファイアでジ・エンパイアのGKのホルヘのミリオンハンズを打ち破った。
これまで無失点を誇るジ・エンパイアから一点をもぎ取り、これなら勝てる!と息巻いたその時だった。
無情にも試合終了のホイッスルが鳴り響いたのだった。
試合が終わり、宿舎へ戻ってきた皆は、バスを降りて深いため息を吐いた。
「負けちゃったでヤンス……」
落ち込む栗松の向こう側から、ドタドタと走る音が聞こえて来た。
「みんなー!!」
手を振りながら走ってきた円堂の後ろには、イタリアエリアに行っていたメンバーがついてきていた。
「キャプテン!」
円堂達が無事に戻ってきた事に、皆ホッとしたように息を吐いた。
影山かもしれない人物に会いにいくのはみんな知っていたから心配していた。
「すまない、円堂。勝てなくて」
豪炎寺が1番に謝罪を述べた。その言葉に1度安堵していた皆の表情がまた一気に暗くなった。
『それに関しては、私が謝らなきゃ』
そう言って、円堂達の1番後ろにいた水津が俺たちの前へ出た。
『ごめんなさい。私はこうなるのを知ってて、円堂達をイタリアエリアに連れった』
それは、試合が早まることだろうか?それとも俺たちが負けることだったのだろうか……。
「水津の事情は、フェリーでみんなからあらまし聞いたけどよぉ……」
土方がそう切り出す後ろで、同じように宇宙人との戦いにいなかった虎丸もウンウンと頷いている。
「どうしても言うことはできなかったのか?」
「それは!」
何故かヒロトが大きな声を上げて、その後、あっ、と言うように水津を見て、口を噤んだ。
なんなんだよ、それ。
何か言いたげな様子のヒロトは窺う様に水津を見ている。
『試合が早まるどころではすまない事が起きるから』
真・帝国学園で俺らに伝えた結果、ああいう事になったからな……。流石にそこまではフェリーでの移動時間に説明してなかったもんな。
知らない土方が気になるのもしょうがない。
「水津に思うところがある者もいるだろう。だが、その前にイタリアエリアで何があったか、説明させてもらってもいいだろうか」
鬼道のその言葉に、ダメだと言う者など居らず、鬼道はイタリアエリアでの出来事を話してくれた。
ミスターKと名乗るイタリアの新監督はやはり影山で、そいつが用意したチームKのメンバーは怪しげなプログラムを受けさせられていて、失明するメンバーも居たと。
そいつらは、試合後、水津が引き取る事にして、今は久遠監督と響木監督に経由して病院と警察の手筈を行なってもらってるらしい。
「そりゃあ、水津はほっとけないよな」
俺がそう呟けば、そうだなと豪炎寺も頷いた。
「下手をすれば選手生命に関わる事だったからな。……俺と同じように」
最後にポツリ、と佐久間が付け足した。
救いたがってたもんな、佐久間も源田も……、それどころかこの不動や他の真・帝国の奴らの事だって……。
まあ、しょうがないか、という空気が周りで流れ始める。
「それに、今回、こうなると分かった上でこれを許容したと言うことは、決勝トーナメントへ行ける可能性も残っているのだろう?」
鬼道の言葉に、えっ、と顔を上げたみんなが水津を見た。
『え、あっ、うん。って、これ言っても大丈夫なのかな……』
えっと、と水津は真剣な顔で顎に手を置いて考えだした。
「お前が言えないなら、俺から言おう。他チームの試合結果も関係してくるが……、残りの試合に全勝すれば決勝トーナメントに行ける可能性がある」
鬼道の言葉に、みんなハッとする。
決勝トーナメントに行けるのは上位2チームだ。
1位は無理でも2位に食い込めれば……!
「そうか、全勝すれば……!」
希望を見出した皆に、円堂が、ああ!と力強く頷いた
「よぉーし!残りの試合、全勝目指して頑張るぞ!」
円堂の掛け声で全員が、おー!と拳を掲げたのだった。
「じゃあ、明日からの練習に備えて、みんな今日はしっかり休んでね」
木野が解散と言うようにそう声をかければ、はーいと返事をした皆はバラバラと歩き出す。
「悪ぃ。任せろっつっときながらよ」
そう言って水津の隣に立てば、一瞬ビックと跳ねて驚いた様に俺の顔を見あげた。
『あ、ああ、うん。でも、頑張ったよ。頑張り過ぎて自分でどうにかしようとし過ぎだったけど』
……見てくれてたんだな。
嬉しくて、水津の顔を見下ろせばどこか元気ないように見える。
「お前にだけは言われたくねぇな」
茶化すようにそう言えば、水津は小さくそうだね、と笑った。
「元気ねぇな。さっきのこと気にしてんのか?」
まあ、皆を騙してるみてぇなわけだし、何にも思わないわけねぇよな。
『うーん、まあ、それもちょっとあるけど……。影山と会うのに気を張ってたから、疲れたのかも』
「あー、なるほどな。お前もゆっくり休めよ」
『うん、ありがとう』
そう返事をした水津は弱々しく笑っていた。
見たい顔はこれじゃない
だけど他の声の掛け方が分からなかった。