世界への挑戦編
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試合再開後すぐに異変は起こった。
ビアンコがキックオフしたビオレテに渡り、後ろから名を呼びパス要求してきたデモーニオに、ビオレテはバックパスをした。
そのボールを受け取ろうとデモーニオは走り出したのだが、途中で足を止めてしまいボールはラインの外へ転がってしまった。
「ボール……、ボールはどこだ……」
デモーニオは赤いゴーグルをした目元を手で覆った。
「デモーニオ?」
「お前、まさか、目が……」
駆け寄ったビオレテとビアンコが声をかければ、デモーニオは膝から崩れ落ちた。
「拒絶、反応………」
ぽつり、と呟くデモーニオを見て、私は反対のベンチにいるミスターKへと事前を移した。
恵まれない子供達に機会を与えただけだったならいい人だったのにね。そうじゃないからなぁ、この人は。
「お前には鬼道有人を超える存在になれるプログラムを与えた」
何ッとフィールドから鬼道がミスターKを睨む。
「だが、お前の才能ではプログラムを100%開花させることは出来なかったようだな」
デモーニオは両膝を地に着けたまま、悔しそうに拳を握りしめた。
「拒絶反応が出たのはそのためだ」
最初から副作用があるの分かっててやってるから達が悪い。
それでも、そのプログラムをデモーニオに受けさせたのは彼に鬼道を超えれるかもしれない可能性が少なからずあったって事なんでしょうけど。
「大丈夫です。まだ、やれます」
そう言ってデモーニオは立ち上がる。
「もうやめろ!アイツはお前を利用しようとしているんだぞ!自分の野望のために!」
鬼道が止めようと必死で声を張る。
だが、デモーニオはそれを笑った。
「構わないさ。お前には分からないだろう。俺たちの思いなど」
世界で活躍出来るのは選ばれた者だけ。
でも、環境によって選ばれるまでの所にさえ行けない者たちがいる。
学校に通えて、整ったグラウンドがあって、ボールやスパイクが買えて、練習ができる。これって実は凄く恵まれている。
彼らの気持ちもちょっとわかるよねぇ。私も田舎で女子が"サッカー"できる環境じゃなかったらフリースタイルを始めたわけだし。
「総帥は俺たちに世界と戦える力をくれたんだ。その力の代償と言うなら、この程度の苦しみ耐えてみせる!」
狂気とも取れる笑みを含みデモーニオは鬼道にそう宣言する。
「俺は究極!俺こそ最強!誰も俺に勝つことなど出来ない!」
自分を鼓舞する上なら、そのマインドは悪くないとは思うけどね……。
「力、か……」
「似ている……。力を求めていたあの頃の俺たちに」
不動と佐久間は彼に過去の自分を見ているのだろう。
哀れみとも取れる視線をデモーニオに向けた彼らの傍に鬼道が歩み寄る。
「アレをやるぞ、不動」
鬼道からかけられたその言葉に不動はキョトン、というように目を丸くした。
「ああ?……アレを?ここでか!?」
「影山の野望を打ち砕くにはそれしかない」
「しかし、あの技は未完成だ。上手くいくかねぇ」
そう言う不動に鬼道はニヤリと笑みを浮かべた。
「出来るさ」
自信満々な鬼道の様子に不動は驚いた顔を見せた。
『さっきの顔は少し、帝国の鬼道っぽかったな』
影山が絡んだ時は鬼道は不安げだったり怒ったりした顔の方が多かったから、不動は見慣れてなくて驚いたんだろうな。
「影山の人形でも作品でもない、今の俺たちならな」
そう言って鬼道が一瞬、私の方を見た。
私の意地の悪い言葉の裏も分かったんだろうな。鬼道は賢い子だから。
「ふっ、確かに……。奴に突きつけてやるにはちょうどいいかもしれねぇな」
そして、自信に満ち溢れた彼らを中心にオルフェウスボールで再開した試合が展開されていく。
「行くぞ、不動!」
「お前こそ遅れるなよ!」
ドリブルで上がる鬼道に並走するように不動が走り、2人は切り込んでいく。
ここだ!と鬼道が2人の先の中央になるようにセンタリングを上げ、落ちたボールを2人は共に蹴り飛ばした。
デスゾーンの色に似た紫の禍々しい光を放つシュートがチームKのゴールへと飛んでいく。
だが、
「おしい!」
ゴール直前で大きくボールがカーブし逸れてしまった。
「今の……!」
驚く佐久間の前で、鬼道と不動は失敗か、と険しい顔をする。
「なんで上手くいかねぇ……!」
悔しがる不動と鬼道を見て、佐久間は考え込んだ。
「……人間ダメな時は何やったってダメ………そんなことは………、鬼道なら……。いや、それがダメなのか……?鬼道がダメな時は俺が………、俺が……!」
なにやらブツブツ呟いていたと思ったら、ハッとしたように佐久間は私の方を向いた。
「そういうことか!」
大きくそう叫んで、鬼道、不動!と佐久間は彼らの元に駆け寄っていく。
「今のシュートは、」
佐久間がそう声をかければ鬼道は、うんと頷いた。
「2人で特訓していた必殺シュートだ。だが見ての通りまだ完成していない」
「チッ、これなら影山に一泡吹かせられるってのによ」
2人のその言葉を聞いて佐久間は、ふっ、と優しく笑った。
「2人がそんなことをしていたとはな」
それから佐久間は、すまない不動と頭を下げた。
「はあ?」
「俺はどこかお前を疑っていた。いつか裏切るんじゃないかと」
佐久間のあまりにも素直なその言葉に不動は怒るでもなく、ふん、と鼻で笑い返した。
「だが、その疑いはもうない。俺にも協力させてくれ!不動、鬼道、俺たち"3人"ならそのシュートを完成させられるはずだ!」
「お前……!」
不動は佐久間の変わり様にすっかり驚いているようだ。
三人寄れば文殊の知恵ともいうし、しかもその3人が鬼道、不動、佐久間よ?凡人でも案が出るならこの3人なら妙案でしょうよ。
それに、元々帝国学園は3人連携が得意だ。
デスゾーンだって、皇帝ペンギン2号だって3人技だったし、帝国学園と練習し雷門が派生させてもらったデスゾーン2だって3人技だったわけだし。
不動への蟠りも、鬼道への引け目もなくなった対等な彼らなら、やれる。
チームKのゴールキックのボールをロッソと競ってフィディオが奪った。
彼は華麗なフェイントで後ろにつこうとしたロッソを交わしてゴールへと上がっていく。
「フィディオ!俺に考えがある。あと1回だけチャンスをくれ!」
未完成な技をやろうとする彼らに対し、代表の座が掛かっているのだからそのまま自分がシュートを打つことも出来ただろうが、それでもフィディオは分かった!と強く返事をしてドリブルで上がっていく。
「俺は究極だ!究極の存在なんだ!」
そう叫び続けながら、デモーニオがフィディオの前に躍り出た。
「究極のものなんて存在しない!!」
「なに!?」
「皆、究極のプレイを目指して努力する。努力するから進化するんだ!」
なるほど。そういう考えだから3人に期待する事にしたのか。
「自分を究極だと認めたら、進化はそこで終わるぞ!」
「だまれぇええええ!!!」
「イタリア代表の座は渡さない!」
激情しボールを奪いに突っ込んできたデモーニオを呆気なく躱し、フィディオは鬼道へとセンタリングを上げた。
「……あ、」
終わった、というように足を止めるデモーニオと反対にボールをもらった鬼道はゴールへ駆け上がった。
その彼に合わせ、不動と佐久間も真っ直ぐに前を見て走った。
「お前たちのシュートは高さが足りないんだ!」
「何?」
「高さ?……高さか!」
「そう言う事かよ」
佐久間のたった一言のヒントで彼らは、どうするのかピンと来たようだった。
「いくぞ!」
鬼道の掛け声におう!と返事した2人は彼と共に宙に飛び上がった。
ピィュイと鬼道が指笛を吹く。
「アレは……!」
ゴールから見守る円堂が見覚えのあるそれに声を上げる。
飛び上がった3人はボールを中心に3角に陣形を取り、彼らの背後を5匹の紫のペンギンがぐるぐると周回する。
ペンギンの回転で溜まったエネルギーを、3人はデスゾーンと同じようにボールを上から同時に踵で叩きつけ蹴り飛ばした。
「「「皇帝ペンギン3号」」」
5匹のペンギンが周囲を囲うように紫のエネルギーを纏ったボールと共にゴールへ待ち構えるインディゴの前れ飛んでいく。
「デモーニオ!?」
インディゴが驚き声を上げたのは、そこにデモーニオが割って入ってきたからだ。
「そんな技!」
デモーニオはピィュイと指笛を鳴らした。
「俺の皇帝ペンギンXで!!」
現れたペンギンがデモーニオの脚に突き刺さっていく。
「ぬぅうう!皇帝ペンギン、エッークス!!」
皇帝ペンギン3号をデモーニオの脚が受け止めようとした。
『……ッ』
真・帝国との戦いを思い出し思わず目をつぶる。
「なにっ!?」
「デモーニオ!?ぐあっ!!」
驚くデモーニオの声の後にインディゴの呻き声が聞こえ、そっと目を開ければ、シュートに弾かれたデモーニオごと、腹にぶつかる形でインディゴはゴールネットへ叩きつけられていた。
ピッピーと得点のホイッスルが鳴り響く。
「完成したな」
「役に立つじゃねぇか、お前」
不動が悪態を付けば、なにっと佐久間はむくれた。
「この技が完成したのは佐久間、お前のおかげだ」
「鬼道……」
そう言い合って嬉しそうな3人とは別に、ゴールへ叩きつけられたデモーニオは膝だけでなく両手も地について項垂れていた。
「俺の皇帝ペンギンXが負けた……。なんなんだ、今の技は………」
そんな彼の元へ3人は歩み寄る。
「俺たちが生み出した、俺たちだけの技」
「皇帝ペンギンの最終進化系」
「皇帝ペンギン3号だ」
どや、と3人は胸を張って、デモーニオを見下ろすのであった。
過去を無駄にしない新たな形で
どんな形であれ、彼らは進んで行くのだろう。