後半戦が再開したものの、明らかに鬼道は不調であった。
いつもならもっと余裕持って避けられるであろう真正面からのスライディングをギリギリでなんとか避け、いつもならドリブルしながらとっくに指示を飛ばしているはずなのに、ボールを運ぶので精一杯な様子。

「鬼道！みんなに指示を……」

佐久間がそう叫びながら途中で、あっ、としたように口を止めた。
それが先程、私が責めたせいか。
それとも今、鬼道がフィディオへのパスをミスってしまったからかは分からない。

「チッ、約立たずが」

そう言って、あらぬ方に飛んだボールを不動がビオレテと競ってボールを守った。

「中盤は俺が仕切る！後に続け！」

そう言ってドリブルで駆ける不動にオルフェウスのメンバーは、えっ、と困惑の声を上げる。

「俺の指示通りに動けばいいんだよ！」

しかし、とダンデが困ったように呟くが、不動はそのまま上がっていく。

「今だ！フォワード左右に散れ！」

次の指示を不動が叫ぶが、FWである佐久間もフィディオもMFである不動より後ろから、えっ？と困惑の声を上げた。
その声に流石に不動も足を止めて振り返った。
そして、思い通りに動いていない選手達への苛立ちを両手の拳を握って顕にした。

「なんで言う通りに動かないんだ！」

「いきなり司令塔が変わってもプレイヤーは混乱するだけだ」

ド正論を噛ましながら走ってきたデモーニオが不動の後ろから足元のボールを抜き取った。

「ゲームメイクも二流だな」

ボソリとそう呟いて横をすり抜けて行くデモーニオに、ふさげやがってと怒った不動が追いかける。
それに合わせて、デモーニオの正面に回ったフィディオがブロックに入った。

「オレはお前に憧れていたよ。イタリアの白い流星フィディオ・アルデナ。だが今は違う」

デモーニオはそう言ってフィディオを抜き去り、更にその後ろに控えていた、オットリーノとアントンの2枚のディフェンスも軽々と抜き、ゴール前へ躍り出た。
そして、ぴぃゅい、と指笛を吹いた。

「皇帝ペンギンX！！」

彼の足に突き刺さったペンギンがシュートと共に飛ばされて円堂の方へ向かって行く。
1度、見ているから先程より円堂は早くにジャンプした。

「いかりのてっつい！！」

今度は円堂の拳はしっかりボールに当たり地面に叩きつけられた。
だが、

「ぐっ！？」

ボールが跳ねて円堂の腹に直撃した。
痛みに顔を歪ませながらも円堂は両腕でボールを抱きしめるようにし、全身で押さえつけようとした。

「なっ、」
「エンドウ！」

「絶対、止めて、みせる！」

グッと歯を食いしばった円堂は、右手だけ高く上に上げた。

「真 熱血パンチ！！」

地面に拳をぶつけて、その威力でボールに押される力の軌道を変え、ゴールの左側のポストに背中をぶつける形で動きを止めた。

ぐあっ、と鈍い悲鳴を上げ倒れてもなお、円堂はがっしりとボールを抱きとめたままだった。

円堂はすぐにボールを抱えて立ち上がり、フィールドのみんなの表情が明らかに先程よりも明るくなった。
背中は強く打ったようだが、ボールを抱えるためしっかり頭を内側にしていたため、頭はぶつけていない様子。

『っ、ナイスセーブ！円堂！』

後で湿布いっぱい用意しないと。

「みんな、ピンチは凌いだぞ！」

そう言って円堂はボールを地に置いて、そして、大きく蹴り飛ばす事はせず、自分の足でドリブルを始めた。

「行こうぜ、みんな！反撃だ！！」

ゴールを放り出して走り出した円堂に、雷門の円堂を知る鬼道と佐久間以外は、随分と驚いた顔をしていた。

「なっ、ゴールはどうするんだ！？」

円堂に自分のチームのゴールを任せたブラージは気が気でない様子で、隣で立ち上がってアワアワとしている。

『ごめんなさいね。ウチのキャプテン、シュート打ちに行くタイプのキーパーだから』

「シュートを打ちに行くタイプのキーパー！？」

なんだそれはとブラージュはただでさえまん丸の瞳をもっとまん丸にさせた。

『アレが円堂守なのよ』

円堂は物凄い笑顔で実に楽しそうにドリブルで駆けていく。
それを見ていた鬼道が、急に踵を返して走り出した。

「鬼道？」

「佐久間！俺達も行くぞ！」

急に立ち直った様子の鬼道に困惑しながらも、佐久間はすぐに走り出して鬼道に追いついた。

「アンジェロ、ダンテ！両サイドからアントンとマルコを残して全員で攻めるぞ！」

すっかりいつものキレのある鬼道の指示に戻った。

「フィディオは円堂のフォローだ！」

「分かった！行こう、マモル！」

「ああ！」

いつの間にか守呼びになったフィディオと共に円堂は、敵陣に突っ込んで行く。
だが、チームKも対処が早い。ディフェンスが既に固められていた。

「円堂！フィディオにパスだ！」

鬼道の指示で、頼んだぞ！と円堂はフィディオにボールをパスした。
受け取ったフィディオは信頼に答えるかのように、素晴らしいフェイントとスピードであっという間に4人のMF達を抜き去って行った。

『あれが、イタリアの白い流星……』

隣のブラージが俺のチームメイトもやるだろうと言うように、ふふんと胸を張っている。

「俺にパスをよこせ！」

「不動？」

右サイドの後ろから駆け上がった不動の声に、フィディオはよし！とボールをパスした。
パスを受け取った不動は、前方のDFを抜き、中央に上がったフィディオにパスをしボールを戻した。

上手い連携であっという間に終盤にたどり着いたが、流石にゴールさせまいとデモーニオがフィディオにチャージを仕掛けようと詰め寄ってきた。
フィディオが右腕を伸ばし近づいてきたデモーニオを牽制しながらドリブルで進むが、

「あ……」

同じボールを追っていたはずのデモーニオが、一瞬、力が抜けたようにふらついた。

『…………』

「マモル！」

一瞬の隙を見逃さず、フィディオはボールを円堂へ飛ばした。

「おう！」

円堂がドリブルしてボールを運びその後をフィディオが追いかける中、普通なら必死でその後を追わなければならないはずのデモーニオが、困惑したように足を止めた。

ゴールライン手前まで円堂がボールを運べば、チームKのキーパーインディゴは掌に拳をぶつけた。

「来い！」

「フィディオ！」

円堂が左から高くセンタリングを上げればフィディオもインディゴもボールに飛び付くように高く飛んだ。
空を制したのはフィディオで彼はヘディングでボールを飛ばした。
だが、そのボールはゴールから随分と左に逸れた。

「ふっ、何処を狙っている」

インディゴがあざけ笑った瞬間、円堂がここだ！と叫んだ。

「メガトンヘッド！！」

ゴール左に周った円堂が飛んできたボールをヘディングシュートでキーパーの後ろからゴールにねじ込んだ。

ピーッとゴールの笛が鳴る。これで1対1。
やった！と喜び握手を交わす円堂とフィディオの背中を見て鬼道は何か考えている。

『影山に師事受けたことは変えられない事実。でもその後、円堂に会って鬼道が変わったことだって変えられない事実なのよね』

私だってそうだった
円堂に、イナズマイレブンに出会ったから立ち直れたんだもの。