フットボールフロンティア編
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「ほーら!パスパス!」
「なんか土門くん今日は元気よね」
いつにも増して明るく、グラウンドを走り回っている土門を見て秋ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。
『ね。春奈ちゃんも元気になってよかったよ』
「そうそう。水津さんから春奈ちゃん具合い悪くなって帰ったって聞いてビックリしちゃった」
「あ、はい、すみません。ご心配をお掛けしました」
ぺこりと頭を下げる春奈ちゃんに、いいよいいよと手を振る。
「具合い悪い時は無理しなくていいんだからね?」
「はい。でも、今日はバッチリ元気いっぱいです!」
『ならよかった』
よしよしとその頭を撫でて、皆の練習に視線を戻す。
「あっ、珍しいわね冬海先生が来るなんて」
「一応監督ですから」
「それはそうだけどさ」
『今までほとんど練習なんて見にこなかったのにね』
「やっぱり決勝戦まで行ったからですかね」
そうじゃない?と返事をしつつ、冬海先生の方を見れば、ちょうど夏未ちゃんがグラウンドにやって来て、彼に声をかけていた。
夏未ちゃんにお願いがあるのだけれどと、話しかけられて冬海先生は直ぐに手をすり合わせた。
「お嬢様の願いを断る理由はありませんよ」
「遠征に使用するバスの調子が見たいので動かしていただけません?」
「バ、バスをですかっ!?」
大きな声でそう冬海先生が叫べば、えっ、と練習中だった土門が振り返った。
冬海先生の様子のおかしさに他の者たちも練習の足を止めて振り返った。
「いきなりそんなことを言われましても、私は大型免許を持ってませんし...」
「それは問題ありません。校内は私有地ですから免許などいりませんわ。それにちょっと動かして下さればいいだけですし」
冬海先生は、大量に吹き出た汗を拭くためハンカチを取り出す。
「しかし...」
「あら、断わる理由はなかったんじゃなくて?」
にこやかに言う夏未ちゃんを見て、恐ろしい女だなぁ、と思う。揚げ足取りが上手いなあ。
「はあ...」
困ったように目を逸らし汗を拭く冬海先生に痺れを切らせた、夏未ちゃんが大きな声でその名を呼べば、ビクリと体を震わせ、上擦った声でハイ!と返事をした。中学生相手に情けない大人だ。
「皆、練習は一旦中止よ。車庫に向かいましょうか」
夏未ちゃんの言うままに、サッカー部一同で車庫まで移動する。
シャッターを上げた夏未ちゃんは有無を言わさず、さあ、と言って冬海先生をバスの運転席に座らせた。
『皆は危ないから、もうちょっと後ろ下がって』
万が一、冬海先生がとち狂って、選手達の方へ車を突っ込ませる可能性もある。私が関与しているせいでどうなるか分からない。慎重に越したことはない。皆に十分な距離を取らせて、夏未ちゃんの横に並ぶ。夏未ちゃんの方に来た場合は、私が全力で守る。
「発進させて、止まるだけでいいんです」
ハンドルを握った冬海先生は運転席でガタガタと震えているのが、窓越しでもわかる。絶望した様な顔で、冬海先生はハンドルを見つめて動かない。
「どうなさったんですか?冬海先生?」
「えっ、あ、いや...その...」
「早くエンジンをかけてください」
「は、はい」
言われるがまま、冬海先生は震える手でキーを握り、右に捻った。
「あ、あれ、おかしいですね。バッテリーが上がってるのかな」
「ふざけないでください!」
力強く夏未ちゃんが怒鳴れば、冬海先生は上擦った声で返事をした。
『冬海先生、落ち着いて。大型車で緊張するんですよね。大丈夫。エンジンをかける時はグッと奥に押し込みながら回すんですよ。普通車と一緒です』
「...ぐ、」
冬海先生は、ゆっくりとした動きでキーを押し込み回した。
すると、直ぐにブルンと音を立ててエンジンがかかる。
「さあ、バスを出して」
夏未ちゃんがそう言うが冬海先生はアクセルに足を置かない。
「どうしたんです?冬海先生?」
ぐっ、と冬海先生は唸って、そのまま頭をハンドルに乗せた。
「出来ませんっ」
「どうして」
「どうしても、ですっ」
ガタガタと縮こまって冬海先生は震えていた。
そんな彼に見えるように夏未ちゃんは白い封筒を窓に近づけた。
「ここに手紙があります」
え、と冬海先生は手紙へと視線を移した。
「これから起ころうとしたであろう恐ろしい犯罪を告発する内容です。冬海先生、バスを動かせないのは、貴方自身がバスに細工をしたからではありませんか?この手紙にあるように」
「ほんとかよ...」
「嘘だろ...」
失望したと言わんばかりの目で子供たちは冬海先生を見つめた。
「答えてください。冬海先生」
そう言えば冬海先生は何がおかしいのか、はははは、と笑いながらシートベルトを外し、バスを降りた。
「そうですよ。私がブレーキオイルを抜きました」
「なんのために!?」
「貴方方をフットボールフロンティアの決勝戦に参加させないためです」
なんだって!と円堂が驚きの声をあげれば、冬海先生は不敵に笑った。
「貴方方が決勝戦に出ると困る人がいるんです。その人のために私はやった」
「帝国の学園長か!」
豪炎寺がそう問いかければ、冬海先生は焦ったように彼を見た。
「帝国のためなら生徒がどうなってもいいと思っているのか!?」
「君たちは知らないんだ。あの方がどんなに恐ろしいかを」
「ああ、知りたくもない!」
夏未ちゃんがビシッと冬海先生を指さす。
「貴方の様な教師は学校を去りなさい。これは理事長の言葉と思ってもらって結構です」
「クビですか?そりゃあいい。いい加減こんな所で教師やってるのも飽きてきたところです。しかし、この雷門中に入り込んだ帝国のスパイが私だけと思わないことだ」
えっ、と皆が冬海を見れば彼はさぞ楽しそうに笑った。
「ねえ、土門くん。そして水津さん貴女がどこのスパイかは知りませんが、総帥のお気に入りだということは存じておりますよ」
「えっ」『はあ?』
ここで私も巻き込むのかよ。このクソオヤジ。
思わずガン付ければ冬海は、では失礼しますよ、足早に去っていく。
そんな彼には気をとめず、皆、土門と私に視線を移す。
「そう言えば帝国学園に居たって」
栗松が恐る恐る土門を見て言えば、震えた声で春奈ちゃんが私の名を呼ぶ。
「水津先輩、やっぱり前に帝国のキャプテンと会ってたのは...」
「えっ、」
「そんなのありかよ」
「2人とも酷いっス...」
してやられた。
みんなから野次が飛び、土門は今にも泣きそうな顔で皆を見つめている。
「馬鹿なこと言うな!」
そんな中、円堂が彼を守るように飛び出した。
「今まで一緒にサッカーやってたじゃないか。その仲間を信じられないのか!」
円堂の一言で、皆、野次を止めて、困ったように円堂を見た。
「俺は2人を信じる!」
『円堂...』
円堂は真っ直ぐだなぁ。
「な、土門?」
振り返って円堂が土門を見上げれば、彼は悲しそうに目を伏せた。
「円堂...。冬海の言う通りだよ」
「えっ、」
「悪ぃっ!」
そう言って彼は円堂を振り切って走り去っていく。
「土門っ!!」
いや、あの、うん。土門よ、冬海の言う通りって、それ私も巻き込まれるんだけど。
「水津、お前も...」
「帝国のキャプテンに会ってた。音無、そう言ったよな?」
土門が居なくなったことにより皆の視線を独り占めだ。やったぜ。ってんなことあるか。
思わず、はあ...と大きな溜息を吐いてしまえば、1年生たちがビクリと肩を震わせた。いや、君らを怖がらせるつもりはないんだけどなぁ。
『会ったよ』
まあ、嘘じゃないしそう答えれば、また皆がザワつく。
「じゃあ冬海の言ってた事も」
『いや、それは意味わかんないけど』
「お前、肯定すんのか否定すんのかどっちかにしろよ」
呆れたように染岡が言うが仕方ないじゃない。
土門が勇気を持って告白したのに、彼を利用した私が、シラを切るのは酷すぎるし、かと言って冬海が言ってた総帥のお気に入りってはマジで意味わかんないし。
『そんなことよりも』
「そんなことってなんだよ」
「大事な事だろ!?」
「ホントに水津さんもスパイなんですか!?」
ああもう。ここで私なんかの事で足止めしてる場合じゃないんだよ。
『うるさい!皆黙って!』
ガヤに対しそう言えば、頭に血の登りやすい染岡が、なんだと!と拳を掲げ怒鳴り声を上げた。
それを、まあ待てと豪炎寺が止めてくれる。
『ありがとう豪炎寺。夏未ちゃん、その手紙を皆に見せて』
「えっ?ええ」
夏未ちゃんが封筒から手紙を取り出し広げれば、皆を代表して円堂が1番に覗き見た。
「この字は...、土門の字だ!」
えっ、と一同から声が上がる。スパイだと疑った彼が皆を冬海の罠から守ってくれたのだと誰もが理解した。
「そんな...」
『秋ちゃんなら知ってるでしょ。土門、ここのところずっと思い詰めてた。下手をしたら自殺とか...』
「土門くん...!」
「まさか、土門のやつ!」
そう言って秋ちゃんと円堂が同時に駆けて行った。
土門の事は2人に任せれば大丈夫だろう。
人知れず、ふっと笑って皆の方へ向く。
『皆が私を信用できないならそれでもいいよ。サッカー部を辞めろって言うんなら辞める。だけどさ、土門は良い奴だよ』
「お前...」
怪訝そうな顔で豪炎寺が私を見つめて、それから、いや、と首を振って皆を見た。
「俺も土門を探してくる。お前たちはどうする?」
「豪炎寺さん...」
「チッ、しょうがねぇ。俺も行く」
染岡が名乗りをあげれば、それを皮切りに他の子達も、俺も、僕もと声をあげて、バラバラに散っていった。
そんな中残った夏未ちゃんが、じっと見つめてきた。
「水津さん、貴女の処分は明日話を聞いて決めます」
『うん。それでいいよ』
そう言って笑えば、夏未ちゃんは困ったような顔をしていた。
裏切り者の末路は
決めるのは私じゃない。