フットボールフロンティア編
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根岸色の外ハネのショートカットの後ろ姿が見えて、下駄箱にローファーを入れて上履きに履き替えようとしていた彼女に声をかけた。
『おはよう、秋ちゃん』
「あっ、おはよう水津さん」
挨拶を返してくれた秋ちゃんの顔を見て、思わず首を傾げる。
『なんか今日元気ない?』
「えっ?そんな事ないよ!元気元気!」
目の前で握り拳を作って見せた彼女を見て、気のせいかなと首を傾げながら自分も靴から上履きに履き替える。
「途中まで一緒に行きましょ」
クラスは違うものの、同じ学年は同じ階に教室があるため向かうところ一緒だ。
断る理由もないので、頷いて共に並んで歩き出す。
「うーん...」
ポツリと呟いた秋ちゃんの横顔を見て、首を傾げる。彼女は真剣な表情で何か考えている。
『どうしたの?悩み事?』
「あ、ううん。私が悩んでる訳じゃなくて...」
ブンブンと違うよと頭を振った秋ちゃんは困ったような顔をしている。
「あのね、なんだか土門くんの様子がおかしい気がして」
『おかしい?』
「うん。なんだか、何か思い詰めてるみたいな」
ああ。なるほど。あのイベント今日か。
土門か。円堂達からの仲間扱いに時々戸惑ってたしなぁ。試合に出てる時なんかは普通にプレイしちゃったりしてるし、自分の立ち位置が分からなくなって来た頃だろう。
『そっか。秋ちゃんはよく見てるね』
「えっ?そうかな、昔馴染みだからかも」
『まあ、今は幼なじみとして、そっと見守ってあげなよ』
下手に動かれて話が変わってしまっては困るし。
「そうだね」
『うん。たださ、彼がどうしようもなくなってしまった時は声をかけてあげてね。きっと秋ちゃんの言葉なら響くはずだから』
そう言えば秋ちゃんは少し驚いたような顔をした後、ふふっと笑った。
「そうね!でも、その時は水津さんも土門くんに声をかけてあげてね!土門くんと仲良いし水津さんの言葉も響くよ」
ニコニコと笑ってそう言って、それじゃあ放課後と手を振って秋ちゃんは自分の教室の方へと歩いていった。
自分の教室の前で足を止めたまま、その背を見送る。
『仲良い、ねぇ...』
ごめんね、秋ちゃん。
ただの利害関係だし、私が声をかけたところでなんだよなぁ。
溜息を1つ吐いてから教室へと向かった。
夏未ちゃんのお力で借りることに成功した校内のグラウンドのトラックで選手達はランニングを行っていた。
ファイト!ファイト!と円堂の掛け声に合わせ、後から他の部員たちも復唱する。
そして、そのペースが落ちないように私はピッピとホイッスルを吹きながらリズムを取る。
んー、だんだん1年生のペースが落ちてきている。ホイッスルを口から外し、それを首からぶら下げたままトラックの中に入り彼らに並走する。
『栗松、宍戸、壁山、呼吸が乱れてる。大きく深く息吸う意識して』
「...はいでやんす」
『はい、吸って』
3人は言われるがままスーーッと長く息を吸った。
『はい、吐いて』
今度はハーーッと大きく息を吐く。
『そのまま続けて頑張って』
言われた通りに深い呼吸を繰り返しながら走る彼らから、自分の走るペースを落としながら離れて、またピッピとホイッスルを鳴らす。
次に向かうは半周遅れの目金の元である。
ゼーハーゼーハー肩で息しながらフラフラとした足取りで死にそうな目金がやってくる。
ピッピとホイッスルを吹きながら、走れ走れと腕を回す。
目金を応援しながら先行く皆の方を見れば、フラフラと土門が集団から抜けるのが見えた。
それから直ぐにその後を追うように春奈ちゃんが小走りにかけていくのが見える。
うんうん、順調に進んでいる。修羅場シーン生で見たい気もするけど我慢我慢。軽く頭を振って、口からホイッスルを離す。皆は最終を走り終わり、呼吸を整えるために歩いたり、疲れたとグラウンドに寝そべったりしている。
『ほら、目金!もうちょっと!頑張って』
「はいぃ」
死にそうな声で返事をして、ペースを上げた目金は何とか最後まで走りきるのだった。
『お疲れ目金。夏未ちゃんからドリンク貰ってきな』
無言で頷きながらヘロヘロの目金がベンチへと向かって行く。
「よし!FWとMFはシュート練習だ!水津!DFの練習入ってくれ!」
円堂に声をかけられて、はーい、と返事をする。DF組は5名だし1体1での練習だと1人余るのでよく入る。
「悪いな」
DFを仕切っている風丸の元に行けば、そう謝られた。
「せっかく来てもらったんだが、土門のやつどっか行ってて」
『トイレじゃない?』
「黙って行くなんて相当お腹下してたんッスかね?」
かもね、と適当に返事をする。
『とりあえず2ー2で別れてパスカットとドリブル練したら?』
「ああ、そうする。なら俺と影野。壁山と栗松がペアでやるか」
「フフフ...よろしくね」
「お、おう」
ぬっ、と背後に回った影野にビビりながら風丸が返事する横で、壁山と栗松はペアでやんす!と微笑ましく会話をしてる。
『土門戻ってきたら参加するね』
「ああ、悪いな」
『いいよいいよ』
バイバイと手を振ってベンチに戻る。
「水津さんお疲れ様」
『うん、ありがとう。春奈ちゃんは?』
まあ知ってるけど一応ね。
「土門くんを探しに行ってもらったんだけど...、遅いわね」
『ミイラ取りがミイラになってるかなぁ。2人、探してこようか』
「お願いしていい?」
任されたと返事をして、グラウンドを駆けて出る。
何となくこの辺りじゃないかな、と思い当たる場所に向かえば、案の定春奈ちゃんの姿があった。
防風林で囲まれた薄暗い校舎裏に1人でぽつんと立っている。
『春奈ちゃん?』
離れた場所から声をかけるが反応がない。
近づいてポンと肩を叩きながら声をかければ、肩を跳ねさせようやく気がついた。
「水津、先輩...」
どこか泣きそうな顔で春奈ちゃんはこちらを見つめた。
『どうしたの?大丈夫?』
「私...、」
そこまで言って春奈ちゃんはハーフズボンの裾を握って下を向いた。
そんな彼女の頭にポンと手のひらを乗せる。
『迎えに来たんだ。一緒にグラウンド帰ろうか』
ゆっくりと春奈ちゃんの頭を撫でて、彼女の返事を待つ。
「水津、せん、ぱい」
『ん、』
なあに、と優しく声をかければ、春奈ちゃんに正面からぎゅっと抱きつかれた。
どうしたの、とその背に手を回して撫でる。
「先輩が、私の...兄弟だったら、良かったのに...」
『それは...』
胸に顔を填めてきた春奈ちゃんの髪を指で梳く。
私じゃ代わりにはなれないよ。君の兄は彼だけなのだから。
だけど、彼は本当に不器用だな。本当はどうであれ、お前の様子が気になってこっそり見に来たんだとか言えばいいのに。いや、父親との約束を果たすまで会わない、というそれを彼自身が誓約としているのだから難しいか...。
『春奈ちゃん。今日はもう部活上がっていいよ』
「...え、けど」
『その代わり今日はしっかり休んで、また明日元気な春奈ちゃんに会わせて』
ね?と声をかければ、春奈ちゃんはそっと私から離れて、うん、と頷いた。
想う人と想われる人
想われる側は気づかない。