アレスの天秤編
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ああ、悔しい。悔しいな。
勝ちたかった。
この、王帝月ノ宮のチームを勝たせたかった。
喜ぶ雷門イレブンたち、そしてセンターサークルに集まる野坂、稲森、灰崎の様子を眺める。
「水津さん、」
その声に後ろを振り返れば声をかけてきた西蔭がギョッとしたような顔をした。
「だ、大丈夫ですか?」
すん、と鼻を鳴らして目の縁を拭う。
『…ああ、うん、ごめんね。大丈夫』
「すみません、俺……。ゴールを守りきれなくて……」
『いや、あそこで止められた私が悪い』
万作のスライディングを私が避けれていれば……。
「いえ、そんなことは」
「どっちも悪くねぇよ」
そう言って私たち2人の肩を花咲が叩いた。
「相手が凄かった。それでいいじゃねぇか」
『うん……。でも悔しいね』
「ええ。俺もこんな気持ちは初めてですよ」
そう行った谷崎を中心にMFやFWの子達も周りに集まってきた。
「自由にサッカー出来ると思ったのにな……」
一矢が悔しそうに拳を握る。
その後ろに集まってきた1年生達も泣きそうな顔をしている。
やっとこの子達も子供らしい感情を持ってサッカーを楽しもうとしていたところだったのに……。
野坂が、御堂院に取り付けた約束は、勝つことが条件だった。
なのに、我々は負けてしまった。
「水津ー!」
王帝月ノ宮の落ち込んだ空気をぶち壊すように、観客席の方から大声で名前を呼ばれた。
聞き馴染みのあるその声の方を向けば、観客席を囲っている柵から身を乗り出すように手を振っている円堂と、その隣には豪炎寺と鬼道、そして風丸が居た。
『ちょっといってくるね』
そう声をかければ西蔭が、あ……、と呟いた。
『どうかした?』
「いえ……。どうぞ、行ってきてください」
西蔭の顔を見れば、母親と引き離された子供のような表情をしていた。
その頭にめいっぱい背伸びをして手を伸ばす。
『すぐ戻って来るからね』
よしよし、と頭を撫でた後、私は待ってくれている円堂たちの元へ向かった。
『お待たせしたね』
「いや!それより凄かったぜ!お前の必殺技!!」
『ありがとう。まあ、でも負けちゃったけどね』
「それでも、準優勝だ。胸を張って良いと思うぜ」
おめでとうと風丸が拍手をくれて、その隣の豪炎寺もうんうんと頷いている。
「水津」
今まで黙っていた鬼道が名を呼んできた。
怒ってるだろうね、彼は。
そう思い恐る恐る鬼道を見れば、ゴール越しに真っ直ぐ見つめてきていた。
『えっと、鬼道……』
「例の件だが、こちらの手筈は済んでいる」
『ありがとう。その、怒ってるよね?』
「当然だ」
鬼道は腕を組みこちらを見をろしてくる。
「ちなみにお前が俺への橋渡しに使った染岡にも、お前が好き勝手やった事を話してあるからな。後に奴からも説教を受けることだな」
『はは、怖そうだなー、染岡の説教は』
白恋中の試合を見た後わざわざ染岡に会いに行ったのには意味がある。
御堂院に監視されている状態の私は、スマホやパソコンなど電子機器の中身を監視されていたし、手紙を投函しても、恐らくそれすら御堂院の手のものに見られる恐れがあった。
だからアナログで、尚且つ他人に渡らぬ手でなければならなかった。
そして、当時はまだ西蔭が御堂院の手の者のである可能性も考えていたから口頭で伝えることも出来なかった。
だから、彼とハイタッチをする時あえて力いっぱい叩いた後、ごめんごめんと摩るフリをしてその手に小さなメモを握らせた。
「しっかり怒られろ。お前からのメモの内容に驚いた染岡が直ぐに俺に連絡を寄越してきた。お前、入院するのか!?とな」
『いやだってそう思わせるようにメモしたし』
メモの内容はこう。
"鬼道、入院、鬼瓦連絡"
たったこれだけ。そりゃあ鬼道が入院したと鬼瓦さんから連絡があったと思うことだろう。
でも賢く、直近の試合で私の異常を知っていて、月光エレクトロニクスを最初から怪しんでいた鬼道なら、メモの意味は直ぐに分かっただろう。
私が入院したら鬼瓦さんに連絡して欲しいと。
そして、私の希望どおり、鬼瓦さんを病院に寄越してくれた。
「まったくお前は……」
『でもお陰で準備が出来た』
「2人はいったいなんの話しをしてるんだ?」
そう言った円堂を筆頭に風丸と豪炎寺も訝しげにこちらを見ている。
『ああ、うん。時期に分かるよ。それじゃ鬼道。最後の連絡よろしくね』
「無茶はするなよ」
『大丈夫、』
「梅雨さん、行きますよ」
振り返れば後ろから声を掛けてきた野坂が、円堂たちにぺこりと会釈をしていた。
『ひとりじゃないからね』
またね!と4人に手を振った後、野坂の隣りに並ぶ。
『行こうか』
全てを終わらせに
はい、と力強く頷いた野坂と共に、私たちを待っている仲間の元へ向かうのだった。