世界への挑戦編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
虎丸と共に7人前の焼きそばと飲み物を持って帰ってくれば、残っていた5人は砂浜に敷いたレジャーシートの上に座った状態で、何やら盛り上がっていた。
『ただいま〜』
「はい、焼きそばと飲み物ね!」
虎丸はなれたように5人前の焼きそばと飲み物を配って行く。荷を運ぶ時も、虎丸は出前でなれていると宣言した通り、私には焼きそばと飲み物を2人前しか持たせず、残りを全部運んでくれた。
全員に配り終えた虎丸は、はい、と私の方を見て手を伸ばしてきたので、私の持っている分を1つずつ手渡した。
「2人も座れよ」
綱海がそう言って、空いている染岡と栗松の間を指さした。
はい、と返事した虎丸が先に染岡の隣りに座ってくれて、少しホッとして栗松の隣りに腰を下ろす。
「なんか盛り上がってましたね。何の話してたんですか?」
そうそう。私たちが戻ってきたとき何か盛り上がってわ。
「え、あー……」
染岡が言葉を濁すと、私の目の前にいる土方が口元に弧を描いていた。
「恋バナでヤンスよ!子供の虎丸にはまだ早いでヤンスかね〜」
意地悪く栗松が虎丸をからかうと、彼は明らかにムッとした。
「なんですか!オレだって恋くらいわかりますよ!」
ていうか、この面子で恋バナ?嘘でしょ?と、焼きそばを食べ始めたみんなの顔を1人ずつ見渡せば、最後に染岡と目が合った。
そして、彼は頬を赤くして視線を逸らした。
うん、そうだよね、この手の話苦手だよね染岡は。
それにしても妙に土方がこちらを見て笑っているのはなんだ。
「やっぱり虎丸くんは、乃ノ美さんッスか?」
「乃ノ美姉ちゃん?」
壁山の問に虎丸はキョトンとした。
『乃ノ美さん美人だもんね。初恋キラーっぽそう』
自分に話題が来ないように、悪いが虎丸に犠牲になってもらおう。
「そうッスよね〜。年上のお姉さんって憧れあるッス」
「えっ、違いますよ!!乃ノ美姉ちゃんは近所のお姉さんってだけですからね!」
「またまた〜、そんな事言って本当はどうなんでヤンスか??」
「だから違いますって!」
本当に違いますからね!と虎丸はぷんぷん怒っている。
「年上のお姉さんって言えば、水津もそうだろ?」
おいコラ綱海。私に話題を持ってくな!!!
「あ、そう言えばそうッスね」
『そう言えばって……、君らよりうんとオネーサンですけど??』
なんなら乃ノ美さんよりもお姉さんだよ。
「水津さんはお姉さんっていうより、お母さんじみてますよ」
『虎丸に言われるとダメージでかいわ』
同級生で早くに結婚した子、小学生の子供いるもんな……。
『まあ、もう、お母さんでもいいわよ。あんたらみんな等しくガキだし』
そう、みんな子供だ。全員、小学生6年生から中学3年生までの子供。
そして、その頃は年上の人に憧れを持つ頃。
きっと彼の想いだって一時期のそういったモノだろう。
『私だって、そうだったし……』
「そりゃあ、大人もみんな昔はガキだろ?」
何言ってんだと綱海が首を傾げる。
ああ、口に出してたか。
『そうだね』
「水津の子供の頃ってどんなだったんだ?」
純粋な興味といった感じで土方が聞いてきた。
『私?至って普通の田舎の子供だと思うけど……?』
「ふぅん?フリスタってのはガキの頃からやってたのか?」
『うん。小学生の頃にね、ひとりでボール蹴ってた私に近所の大学生のお兄ちゃんが教えてくれたんだ』
「ひとりで?」
『田舎過ぎてサッカークラブとかなったんだよ。同級生の女の子たちはやってくれないし、男の子たちが遊びでサッカーしてる所に声掛けても「女は入れてやんねー!」って』
「えー!ひどいでヤンス!」
『ねー、ひどいよね』
それに比べてここの子たちは女子がサッカーすることにも寛容だ。
「ああ、それであの時……」
ぽつり、と染岡が呟く。
恐らく尾刈斗中との練習試合の時の事だろう。
『まあ、そういうわけでひとりでボール蹴ってた私に、そのお兄ちゃんが動画見せてくれてね。こんなのあるんだよって見たのがフリースタイルフットボールだったわけ』
ガラケーの中の今とは違う荒い画質の映像。
それでも、小学生の私を驚かせるに十分な動きだった。
「それじゃ、行ってきまーす!」
食事を終えた皆は、元気に再び海に繰り出して行った。
『土方も海行っちゃったし、染岡も行ってきていいんだよ』
レジャーシートに散らばった空のトレーと箸を片付けようとしていた染岡にそう声をかける。
「ばーか。またひとりで変なのに絡まれたらどうすんだよ」
『あんな物好きそうそういないって』
「物好きってお前なぁ……」
はあ、と大きなため息をついて染岡は集めたトレーを重ねひとまとめにした後、私の隣にまた腰を下ろした。
どうやら海に行く気はないらしい。
『そんなに心配しなくても大丈夫だよ。変なの来たら大声で叫ぶし。それに、』
隣の染岡の顔を見れば相変わらず怖い顔をしている。
『……また、助けてくれるでしょ?』
「っ、それは、まあ」
顔を真っ赤にして染岡はそっぽを向く。
うん。やっぱりちゃんと線を引かなくちゃ。
海で泳いでるみんなの方へ視線を向ける。
『私ね、さっき話したお兄ちゃんが初恋だったんだー』
「えっ、」
逸らしていた染岡の顔がぐんと、こちらを向くのが分かったが、海の方を向いたまま、続きを話すため口を開ける。
『さっきみんなと話してた、年上への憧れってやつ。私もそうだったなぁって……』
「それ……」
何か言いたげに染岡は私を見つめる。
『そういうの誰にだってあるよ。でも、きっと一時的な憧れに過ぎない。きっと、本当の好きとは違う』
「んなことねぇよ。俺は、」
『ううん、違うよ』
膝を抱えて下を向く。
だって、あの頃はお兄ちゃんの事かっこいいし優しいと思ってたし、話しかけられてフリスタ教えてくれて嬉しかったし楽しかった。褒められて頭を撫でられた時はドキドキだってした。
だけど、今みたいにこんなに苦しいことはなかった。
きっと君の向けてくる
前にリカちゃんだって、今日のみんなだって、そう言ってた。
だって、そう思わないと私は自分の気持ちに歯止めが効かなくなる。
そんな資格はないのに
染岡が今どんな顔をしているか、見る勇気は私にはなかった。