フットボールフロンティア編
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後半戦は秋葉名戸学園からのキックオフで始まる。
前半戦と打って変わって秋葉名戸サッカー部は一気に攻め上がって来た。
え、とフィールド内の雷門選手達が驚きの声を上げた。
「動きが変わった!?」
ベンチの豪炎寺も驚いているが、オタクってのは馬鹿ではないんだよねぇ。
自分達が体力がない事や運動能力が低い事は自覚しているだろうし、...まあたまに運動の出来るオタクも存在するけど、そういった理由で前半戦は極力走り回らない戦術を取ったのだろう。自覚している分、体力や技術勝負はしない。
DFに守りを固めろと円堂が指揮する中、松野が秋葉名戸4番の無敵からボールを奪おうと近付けば、彼は変身!と大きく腕を振り回した。
「フェイクボール!」
「なにが変身だよって、アレェ!?」
ボールを奪ったと思って自分がドリブルしている物を見て松野は大声を上げた。松野の足元にあるのはスイカで、ボールはといえばそのまま無敵がライトから上がりゴール前まで運んでいる。
ヒーローキック!と叫んで無敵はゴール正面に上がった9番の芸夢と10番の漫画の方へボールをパスした。
そしてあろう事か芸夢は漫画の足首を両手で持ち宙へ掲げるようにした。
「ド根性バット!!」
飛んできたサッカーボールをフルスイングで雷門ゴールへと打ち返した。
円堂が咄嗟に飛ぶが、間に合わずボールはゴールへと突き刺さった。
いやぁ、ゲームで見た時も、アニメで見た時も頭おかしいと思ったけど、現実でやられると更に意味がわからない。なんで人をそんなふうに持ち上げられるのかと、バットにされてる漫画は痛くないのかとか、そもそもそれは野球だろとかいろいろ突っ込みたいがここは超次元サッカー界。何でもありだ。
ボールをセンターに戻して今度は雷門側のキックオフ。目金から染岡にボールが渡りドリブルで上がろうとするが、秋葉名戸は全員守備ラインまで下がっていた。まさか、このオタク達トータルフットボールを知っているのか!全員で攻撃したり、今の秋葉名戸みたいに全員で守備したりするポジションに囚われない戦術だ。
「そうはさせるか!」
芸夢と無敵の2連スライディングを交わして攻め上がった染岡の前にはDFの借沢と筋路の間にFWであるはずの漫画が入って横一列に並んで、彼らは五里霧中と言っておかしなポーズを取った後、グラウンドの足元の土を素早く何度も蹴りあげゴール前に土埃を巻き上げた。
「こんな目くらましで俺のシュートが止められるもんか!くらえ、ドラゴンクラッシュ!!」
大量に舞う土埃の中、染岡がシュートを放ち青いドラゴンが飛んで行く。
「やったか?」
土埃が晴れて、ゴール前の視界が開けると、ボールはゴールからハズレゴールネットの後ろに転がっていた。
そして秋葉名戸GKの相戸留が疲れたようにゴール横に倒れている。
「どうなっているんだ」
ベンチの豪炎寺が怪訝そうな顔でフィールドを見つめている。
染岡のシュートはゴールのド真ん中へ一直線に飛んでいったように見えたのに、不思議だねぇ。私はシュートが外れた原理を知っているので説明できないのが、何とももどかしい。
その後もコーナキックのボールを取って、少林寺や松野もシュートを狙いに行くが、五里霧中で立てられた土埃の中を飛んで行ったボールはみな、ゴールを外れていた。
再び染岡にボールが渡りシュートチャンスが来るがこれも外れてしまう。
「どうなってんだ!?」
焦る染岡の横で目金がじっとゴールを見つめて何か考えている。
「このまま逃げ切るぞ!」
守備を固めて逃げ切る気満々の秋葉名戸を見て、ベンチの豪炎寺は悔しそうに自分の足元を見た。怪我さえなければとか思ってるのかな。
ぽん、と豪炎寺の膝の上に手を置く。
「!、水津?」
『大丈夫だよ』
「大丈夫って水津さん貴女ねぇ...」
夏未ちゃんがバッ立ち上がって、フィールドの皆にもう時間がないわよ!と叫ぶ。
『大丈夫。信じて、皆を』
「...ああ」
頷いて、豪炎寺は視線を足からフィールドに移した。
「...信じて、ねぇ」
同じベンチで控えている土門がポツリと呟いて、彼もまたフィールドを見つめた。
また、染岡がパスカットに成功しボールを奪ってゴールへと駆け上がる。その様子をじっと見ていた目金が、まさか!と声を上げた。
「無理やりにでもゴールをこじ開けてやる!ドラゴンー」
シュート体制に入っていた染岡に、目金が叫ぶ。
「シュートを打っては行けません!!」
その言葉に、染岡が動きを止めるとすかさず秋葉名戸8番の呂簿がスライディングでボールを外に弾き出した。
「目金?」
「見破ってしまいましたよ、シュートが決まらなかった訳を...!」
そう言った彼はどこ行った?と探せば、目金は秋葉名戸ゴールをずらすように押していていた無敵のズボンを引っ張っていた。
「コイツ...!離せ!」
「ゴールをずらしてる!?」
本来あるべき真ん中の位置よりもずいぶん右側にゴールネットもポストも寄っている。
「シュートが入らなかった訳はこれか!」
勢い余って怪我を忘れて、杖も使わず立ち上がろうとした豪炎寺に慌てて肩を貸す。
『興奮するのも分かるけど、君は今怪我してるの。大人しく座って』
「あ、ああ...すまない」
言うことを聞いてベンチに座った豪炎寺の頭を撫でてフィールドを見れば、目金が見破った理由を、日朝にやってる仮面ソイヤーで見たとドヤ顔で語りながら無敵のズボンを引っ張って半ケツにしている。
「よく知っていたな!ズバリその通りだ!」
目金を振りほどき彼に尻もちを付かせ、ズボンを上げた無敵はビシッとポーズを取った。
「これが君達の勝ち方ですかっ!」
「僕達は絶対に優勝しなければならないんでね!」
「だからってこんな卑怯な事を!!」
「勝てばいいのだよ勝てば!!」
珍しく強い怒りをみせている目金に、漫画と野部流がそう言い放てば、
残念なものを見る様子で目金はゆっくりと立ち上がった。
ゆらゆらと立ち上がってフィールドに目金が戻って行く。
「あんなに怒ってる目金さん初めて見ました」
春奈ちゃんの言葉にベンチの一同が、うん、と頷いている。
「でも何だか、今は凄く悲しそうだわ」
秋ちゃんの呟きに、そうだねと返す。
『好きな作品の、作者がアレじゃあね。幻滅したんでしょうね。それに、目金は目金なりにサッカーに思い入れがあるみたいだから...怒るのは当然よね』
半田がサイドラインからのスローインを担当するが、フィールド内の染岡は徹底的にマークが付いている。
「僕にボールをください!」
「目金!?」
「半田!目金にボールを渡せ!」
円堂の指示に、ええっ!?と驚きながらも、真剣な目金の表情を見て半田は決めた。
「頼むぞ!目金!」
半田から投げられたボールをトラップで受け取った目金はドリブルで駆け上がっていく。
「おいおい、目金で大丈夫かよ」
思わず、と言った様子で声に出した土門に、大丈夫だよ、返す。
「さっきから水津ちゃんのその自信はどっからくんのよ」
『そりゃあ信じてるからだよ。それに言ったでしょ。何だかんだ言って練習はちゃんと毎回参加してるし、修練場だってクリアしてる。そこんところは私なんかよりも豪炎寺や土門の方が一緒にやってるんだから知ってるでしょう』
そう言えば、土門は確かに...呟いてと押し黙った。
「あっ見て!目金くんが抜いたわ!」
正面からフェイクボールでスイカとボールを入れ替えようとしてきた無敵を正論でねじ伏せ突破した目金の前に、彼が嵩愛するシルキーナナの作者の2人が立ち塞がる。
「漫画萌先生、野部流来人先生!僕は悲しい!貴方たちが描くシルキーナナの勇気と愛に僕は幾度となく元気を貰いました。なのにその作者である貴方がこんな卑怯な事をする人たちだったとは!シルキーナナに謝りなさい!!」
目金の叱咤に、何か思うところがあったのか、漫画と野部流の2人は足を止めてしまう。
その横からボールを奪おうと呂簿がスライディングを仕掛けるも目金は説教中や変身中に攻撃するのはロボットマニアとして失格と怒りながら両足の間にボールを挟んで飛び越えた。
『うんうん、ちゃんと踝と踝の間に挟んで飛んだね』
以前、ボール挟んで飛ぶのかっこいいので教えて下さいと言われ教えた事がちゃんと出来ている。偉い。
「やるじゃないの目金くん」
そう。運動は得意じゃないにしろ、彼は真面目に練習に打ち込んで来たのだ。やってきたことは無駄じゃない。
焦った秋葉名戸学園は再び五里霧中を発動させる。
「まだこんなことを続ける気ですか!」
「これがオタクの必殺技だ!」
「君たちなどオタクではありませんっ!!」
目金の怒声に、何っと芸夢が聞き返す。
「オタクとはひとつの世界を真摯に真っ直ぐに極めた者。ゲームのルールを破ってまで勝とうとする貴方たちにオタクを名乗るしかく等ありませんっ!!」
目金のド正論アタックに五里霧中を発動しようとしていた4人の選手達はメンタルをやられ動きを止める。
そんなDFの様子に慌てて、GKの相戸留がゴールポストの横に回った。恐らくゴールずらしを行なうつもりだろう。それを見て目金はすかさず染岡にボールをパスした。
「染岡くんドラゴンクラッシュを!」
「だけど!」
「僕に考えがあります!」
そう言って目金は、一足先に駆け出した。分かった、と頷いた染岡はドラゴンクラッシュを撃ち放った。
「ゴールずらし!」
真っ直ぐと飛んで行くドラゴンクラッシュのタイミングに合わせて相戸留がお腹の肉でゴールを横に弾いた。
「フンッ!!」
真っ直ぐと飛ぶボールの前に目金が飛び出す。ボールは彼の顔面に直撃し、進路を曲げた。目金を吹き飛ばした勢いのまま、軌道の変わったボールはゴールへと突き刺さり、審判がホイッスルを鳴らす。
「これぞ、メガネクラッシュ......」
一度立ち上がった目金はその場でクルクルと回り、フラフラとしてばたりとフィールドに倒れ込んだ。その顔にかけたメガネは見事に割れていた。
「目金!!」
『担架早く!!』
フィールド外に出ているのなら駆け寄って様子を見るが、フィールド内で倒れているためサッカーのルール的にタイムにならず試合中の為、勝手に入る訳にも行かず、こっちこっちと秋葉名戸学園の救護班の生徒を呼んで目金を担架に乗せて運んでもらう。
フィールドの外に運ばれる目金を雷門イレブン達が囲うように集まった。
『目金、意識はある?』
「...はい、なんとか」
絞り出すような声でそう言って目金はゆっくりとほんの少しだけ頭を動かして、ある人物を視界に入れた。
「あとは頼みます土門くん」
そう言われて、土門は少し戸惑ったように、ああ、と頷いた。
「どうしてなんだ...」
秋葉名戸側のフィールドからそう声が聞こえて、皆は一斉にそちらを向いた。
「どうしてそんなに姿になってまで君は...」
「目を覚まして欲しかったのですよ。同じオタクとして。サッカーも悪くないですよ」
そう言って少し笑って目金は眼鏡のツルを軽く持ち上げた。
「目金くん...!君の言葉で目が覚めたよ。僕達卑怯な言葉もう辞めるよ!」
「我々も全力を尽くしたサッカーで雷門中に挑もうではないか!」
漫画と野部流の言葉に秋葉名戸イレブンが一斉にうんと頷いた。
それを見て満足そうに笑った目金は担架で運ばれて行く。
その横を付き添って歩き出せば、後ろで雷門イレブン達が意気込を新たにしている。
「このままうちの保健室へ運びますね」
「待って下さい。試合が終わるまでは...」
そう言って担架に寝かされたまま、フィールドの方を見ようとする目金を見て、救護班の肩の肩を叩く。
『脳震盪は...まあ意識もハッキリしてるし大丈夫かな。眼鏡で顔とか目とか切ってなさそうだし...。こちらで手当出来そうなので、ベンチまで運んで貰ってもいいですか?』
「はい」
分かりましたと、頷いた救護班2名にベンチまで目金を運んで貰って、ベンチに沿ってゆっくり担架を降ろしてもらった。秋ちゃんが用意してくれた冷えピタを目金のデコに貼って、ゆっくりと起き上がらせる。
『頭クラクラしたり、吐き気があったらすぐ言うんだよ』
「はい。大丈夫です」
隣に座って目金の背中を支えながらフィールドを見る。
先程と打って変わって、秋葉名戸は全力のサッカーを行って。それに応えるように雷門イレブンも全力を出す。
アディショナルタイムに入り、1対1のまま白熱の戦いが続く。
土門がボールをカットし、染岡にパスが渡る。
がら空きのゴール前に染岡がドリブルでかけ上がれば相戸留が来いと手を叩いた。
「染岡くん!ドラゴンクラッシュです!」
隣の目金が精一杯に声を絞り出し叫ぶ。
分かったと頷いた染岡がドラゴンクラッシュを放てば、真っ直ぐに飛んだ青い竜は相戸留ごとゴールにボールを叩きつけ逆転勝利を決めるのであった。
やる時はやる
この後、目金が秋葉名戸イレブンとフットボールフロンティア優勝特典のアメリカ渡航でコズミックプリティレイナの限定フィギュアを買ってくる約束をして。心の中で宇宙人が攻めて来るから行けなくなるんだよなぁ。ごめん、と合掌した。