サブストーリー
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授業が終わり、いつものように野坂と部活の為に王帝月ノ宮のサッカースタジアムに足を踏み入れた西蔭は、パンッと弾ける音と共に眼前に降ってきた紙吹雪とテープにパチクリと瞬きした。
「「『西蔭、お誕生日おめでとう!』」」
まるで、してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべた目の前の少女を見て西蔭は混乱したように、えっ、と呟いた。彼女の後ろには部を引退したはずの3年生の花咲と丘野もいる。
「なんで、水津さんが...?」
強化委員制度が終わり、雷門中へと帰った彼女が何故、王帝月ノ宮中にいるのか西蔭は理解出来ずにいた。
「なんでって、お前の誕生日を祝いに来たんだろ」
なあ、と花咲が梅雨に聞けば、うんうんと彼女は頷いている。
「いや、それは分かってるが...」
「関係者以外立ち入り禁止なのにどうやって、って事だよね。僕ら来るなんて聞いてないし」
代弁する野坂がそう言えば、西蔭はコクリと頷いた。
『野坂に連絡取っちゃうと、いっつも傍にいるからバレちゃうでしょ。秘密裏にしたくて丘野と花咲に協力してもらいました!』
いえーい!と3人はハイタッチを交わす。
仲良さげな3人の様子に西蔭はじり、と胸を焦がした。
「...学校はどうしたんですか」
自分達が授業を終えたばかりなのに、何故別の学校に通っているはずの人物が先にスタジアムで待っていたのか...。
『ん?ああ、雷門は合格通知来た者から自由登校だから休んだよ。お昼過ぎぐらいにこっち来て、2人と遊んでた』
「そう、ですか」
確かに王帝月ノ宮の3年生も既に授業課程は終わっており、寮制故に学校には来るもののほぼ自習のようなものだと聞く。先輩2人は自習を抜けて来たということだろう。以前の王帝月ノ宮生じゃ有り得ない現象である。
遊んで居たというのは、まあこの3人なら恐らくここでサッカーでもしていたんだろうが...、少し妬けるなと、西蔭は仲良さげな3人を見つめた。
「「「お疲れ様です!」」」
そんな挨拶と共にスタジアムに入ってきた王帝月ノ宮サッカー部にレギュラー入りしている1年生3人が、えっ?と言う顔で足を止めた。
「水津さん?」
一星がそう呟けば、本当だ、と香坂。
「水津先輩だ!!」
そう言って走り出した道場の後について香坂も追う。そうして近づいてきた2名を彼女は嬉しそうにまとめてぎゅっと抱きしめた。
『わー!香坂、道場久しぶりー!』
「おいおい、俺達は無視か?」
「あっ、花咲先輩いたんですね」
「丘野先輩も花咲先輩もまだ寮内で会うじゃないですか」
訊ねた花咲に随分な塩対応をした1年生2人を腕から離して、梅雨は2人の頭をわしゃわしゃと撫でた。2人とも同じDFだったからか、在学中から随分と可愛がっている。
『一星もおいで』
「えっ。俺はいいですよ、恥ずかしいし...。ところでなんで水津さんが居るんですか?」
西蔭と野坂の傍に並んで一星は2人を見た。
「来るなんて言ってましたっけ?」
「ううん、僕らに内緒で西蔭の誕生日サプライズしたかったんだって」
「えっ、西蔭さん今日お誕生日なんですか!?」
おめでとうございます!と1年生達がそれぞれバラバラと言えば、西蔭はああ、と頷いた。
「へぇ、水津さんは西蔭のお祝いに来たんですね」
『そうそう。...ん?ああ!』
別の声に頷いて居た梅雨はスタジアムの入口を見て手を挙げた。
声の主である谷崎を先頭にぞろぞろと残りの2年生達がスタジアムに入ってくる。
『谷崎、一矢、桜庭、奥野、草加、竹見、久しぶり』
「雷門との試合ぶりですね」
これまた梅雨が在学中に仲の良かった葉音と竹見が彼女の元に駆け寄った。他の者達も、久しぶりに話がしたいのかソワソワとした様子で、彼女を見ていた。
「......」
「西蔭、顔」
野坂にそう言われて西蔭は、えっ?と野坂を見つめ返した。
「凄い顔してたよ。そうだな...俺を祝いに来たはずなのに他の者ばっかり構ってる、とか思ってた?」
「え、いや...、はい」
最初は否定しようとしたが、野坂には見透かされているだろうと、西蔭は諦めたように頷いた。
「自分でもこんな些細な事で、とは思うんですが...」
「ふふ、西蔭さんは水津さんの事か大好きですからね」
「い、一星」
照れたように名を呼んだ西蔭を見て一星は笑って、素敵な事ですよ、と返す。
他の者達と楽しそうに話をしている梅雨に西蔭が視線を戻せば、ちょうど彼女は周りに他のメンバーをチョイチョイと呼んで囲いを作りヒソヒソと何かを話出した。
それから梅雨のGo!と言う合図と共に、その場に居たもの達が一同にこちらへと駆け出してきた。
「えっ、なんですか!?」
一歩、一星が後ろに退き、野坂はこれは...と目を細めた。
「悪いね野坂」
そう言って1番先頭を走って居た谷崎が野坂に手を伸ばしてその肩を掴もうとした。
「おっと」
野坂はするりとそれを避けて、走り出した。
「逃げたぞ、捕まえろ!」
丘野がそう言って、指させば皆同じ方向に走り出した。
「野坂さんを追いかけてる...?」
何を言ったんだ、と一星と西蔭が梅雨を見れば、彼女はニッと笑いながらゆっくりと歩いて2人の方に寄ってきた。
「あの、なんで野坂さん皆に追いかけられてるんですか?」
一星が訊ねれば梅雨は、1対10の状況で追尾を避けている野坂を目で追った。
『ん?西蔭の誕生日プレゼント』
その言葉に、西蔭は、は?と口を開いた。
『ギリギリまで悩んだんだけど決まらなかったからさあ。現地調達』
「いや、現地調達って...」
『西蔭何が好きかなー?って考えた結果よ?野坂の事好きでしょ?』
「え、いや、お慕いはしてますが尊敬の意ですよ!?」
何を言ってるんだ、と西蔭は混乱したように梅雨を見た。
『えっ、嬉しくない...?私は推し貰ったらうれしいんだけど...』
「いや、嬉しくないというか野坂さんご迷惑をおかけするのは...。それに、そういう理論で言うなら俺は、」
そこで言葉を途切らせて、西蔭が梅雨を見つめる。その様子に一星は、あっ、と呟いた。
「俺も行ってきますね!」
行くって何処にだ、とつっこむ間もなく、逃げる野坂を追う王帝月ノ宮サッカーに混じる一星を見て西蔭は、あー、呟いてと頭を搔いた。
あの人数なのに未だに野坂を確保出来ないのは恐らくわざとで、皆、自分に気を使ってくれたのだと察する。
『やっぱり普通に、野坂のレアプレカつくしちゃんに交換して貰ってくればよかったな...』
それは誕生日プレゼントとして普通か?と首を傾げながら西蔭は梅雨に向き直す。
「あの、だから、俺は野坂さんが好きなわけではないですよ??」
『え...野坂厨なのに...?』
「それはよく分かりませんけど...。俺が好きなのはアンタなんで」
少しぶっきらぼうにそう言って西蔭は、梅雨から顔を背けた。
『...、それって』
「私がプレゼント!の方が嬉しいって事だろ」
『うわ、びっくりした。花咲か』
いきなり肩を掴まれてグッと押された梅雨は驚いて頭だけ振り返らせた。
それを見た西蔭は梅雨の腕を取って自分の方に強く引いた後、ギッと花咲を睨んだ。
「おい、気安く触るな」
「へいへい。怖ぇ彼氏だな」
西蔭の腕の中にすっぽりと収まり、おお...と驚きの声を上げてる梅雨を見て花咲はニッと笑った。
「大事にしろよ。王帝月ノ宮サッカー部からの誕生日プレゼントだからよ」
それだけ言って、花咲はいつの間にか野坂を追うのを辞めて全員で足を止めてこちらを見ていた皆の元に戻っていく。
それからそれぞれがバラバラに散っていつものようにパス練やトラップ練を開始する。西蔭の抜けた穴には丘野と花咲が交代で入るようだ。
『皆に気を使わせちゃったわね』
腕の中で顔を見上げるようにして梅雨が言えば、西蔭は、はいと頷いた。
『プレゼント私なんかでいいの?』
「なんかではないですよ。水津さんがいいんです」
『そっか。なんか照れるね』
そう言って、頬を染めた梅雨を見て西蔭はそっと右手を彼女の頬に添えて、ふと、動きを止めた後、バッと手を離した。
「ここだと、その...。他の奴らがいるんで、俺の部屋に場所移しましょうか」
少し耳を赤くして言う西蔭を見て、可愛いなぁと梅雨は、くす、と笑った。
『練習はサボっていいの?』
「今日くらいは許してくれますよ」
『誕生日だから?』
「はい」
そう、と頷いた梅雨の手を西蔭が取って、2人はスタジアムを出ていくのだった。
Happy birthday!西蔭!
きちんとしたプレゼントはまたバレンタインに用意するね。そう言えば西蔭は期待してますと返すのだった。