サブストーリー
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少年サッカー世界大会、フットボールフロンティアインターナショナル通称FFIがなんだかんだあったものの終わり、あれから幾日もの月日が経ち、例年に比べれば比較的温かいものの、日の暮れは早くなり外の空気も冷えきっていてすっかり冬になっていた。
王帝月ノ宮中に一星が編入してきて入部したサッカー部にも随分と打ち解けて馴染んできて、俺の前に立つDFの1人が居なくなった違和感も少しづつ薄れていった。
「野坂さん、25日の終業式の後は部活どうします?」
「終業式後そのまま始めて早めに切り上げようか」
「えっ!!」
ミーティングの流れで一星と野坂さんにスケジュール確認していれば、なぜだか竹見が大声を上げた。
なんだ、と皆が竹見を見れば、彼は嘘でしょと言った顔をした。
「クリスマスなのに部活やるの!?」
そう言われて、一同は12月25日はそうだったな、と思い出す。
「他のみんなはともかくとして一星くんは分かってたでしょ!!」
「いや...、ロシアのクリスマスって1月7日なので」
「えっ、そうなの!?」
驚く竹見に一星が、はいと頷いている。
「まあ、クリスマスだからって特にやることもないし部活でいいんじゃない?」
「これだから野坂くんは...」
はあ、とため息を付いて竹見は頭を抱えた。
「せっかくアレスプログラムから自由になったんだし、クリスマス会とかやってみようよ」
「クリスマス会...」
少し悩むような仕草を見せて、野坂さんはそうだね、と呟いた。
「たまには休息も必要だし、やってみようかクリスマス会」
やったー!!と喜ぶ竹見を他所に、そういった行事に縁遠かったサッカー部の者達がヒソヒソとクリスマス会って何をするんだ、と話し合っている。
「参加は全員でいい?」
「あ、丘野先輩と花咲先輩も呼びませんか!」
道端が受験の為、部を引退した三年生2人の名をあげれば、皆、一応声掛けてみようか、という話になる中、ねぇねぇと竹見に肩を叩かれた。
「西蔭くんも参加するの?」
「野坂さんがされるなら当然俺も参加する」
「あー...まあ普段の西蔭くんならそうだろうけど、クリスマスだよ?予定、入ってるでしょ?」
予定の部分をやけに強調して言われたので、12月のスケジュールを思い返すがなにもない。
「嘘でしょ!?西蔭くん梅雨さんと付き合ってるんだよね!?」
「おい、あまり大きな声で言うな」
「大丈夫だよ、西蔭くんと梅雨さんがカレカノなのサッカー部全員知ってるから」
「そうじゃない」
お前の声がうるさいと言う話なんだが。だいたいなんでそこで俺と水津さんが付き合ってる事が関係してくるんだ。
「ともかく西蔭くん!24日も予定ないの」
「ないが」
「嘘だろ。梅雨さんとデートしないの?」
そう言われて、ああ、そういう事かと納得する。
「出掛ける予定は月頭に水津さんから来るが、12月は出掛ける連絡は来てないな」
「はあ!?ねぇ、まさか今までも梅雨さんの方にデートしようって言わせてるの!?」
有り得ないと竹見が頭を抱えた。
そう言われてみれば...俺から誘う事はないな。まあ向こうは受験生だから忙しいだろうと思ってこちらからは余り連絡しない。
「クリスマスくらい西蔭くんから誘いなよ」
「予定を送ってこないという事は水津さん忙しいんじゃないか?迷惑になるだろ」
「いや、絶対西蔭くんからの連絡待ちだって。そう思うよね、一星くん」
「えっ、そ、そうですね。西蔭さん一応聞いてみたらどうですか?」
急に話を振られた一星が戸惑いながらもそう答える。
「一応か。しかしなんと連絡すれば...」
「あーもう、西蔭くん、スマホ貸して」
ん、と手を差し出してきた竹見が数秒そのまま動かないので、仕方なくその手の上にスマホを乗せる。
受け取った竹見は俺のスマホを勝手にいじり出した。
「おい、なに勝手に」
「梅雨さんに予定聞くだけだって。よし、送信」
そう言って竹見はメッセージを送ったばかりのスマホを返してきた。
画面を見れば、クリスマス俺とデートしましょうという直球な文が書いてあった。
「竹見はお前...!これは予定聞く、じゃないだろ」
「西蔭くんじゃ相当遠回しに予定聞きそうじゃん。手っ取り早くていいでしょ」
「いや」
どうするんだこれとメッセージをもう一度見れば、既読マークが着いた。
そして直ぐにポコとスマホが音を立てて水津さんからのメッセージが届いた。
野坂...?そうメッセージ来て直ぐに、また次のメッセージが来た。
いや竹見?と来たメッセージを竹見に見せつける。
「バレてるぞ」
「うわ、梅雨さん凄っ!なんでわかったんだろ。聞いてみてよ」
そう言われて、なんでわかったんですか、と送り返す。
するとまた直ぐに返事がきた。
やっぱり竹見だった?だって文面が西蔭っぽくなかったから。
「なるほど?」
「まあ、西蔭の性格じゃデートしましょうなんて直球には言わないでしょ」
野坂さんがひょっこりと俺のスマホを覗いてそう呟く。
「でもなんで1回僕だと思ったんだこの人...あ、西蔭、またメッセージ来たよ」
そう言われて画面を再び見る。
で、このデートのお誘いの入力は竹見なんだろうけど、西蔭からは誘ってくれないの?
と、あって思わずニヤつく。
竹見ではなく俺からの誘いを待ってくれている。
「ほら西蔭くん早く返事しなきゃ」
「わかってる」
水津さんの都合がよければ、クリスマス一緒に出かけませんか。
そう送れば直ぐに、喜んで!と返事が帰ってきた。
25日当日、終業式が終わるなり早々に駅に向かい電車に乗る。稲妻駅で降りれば、ホームに小さく手を振る 水津さんが待っていた。
「すみません。お待たせしました」
『いやいや、待ってないよ。それにしても学校終わって速攻で来たの?』
俺を上から下まで見た水津さんがそう言って、俺は、はいと返事を返すが...、もしかして制服でない方が良かったのだろうか。いや、水津さんも上にコートを着ているが穿いているスカートを見るに雷門中の制服だ。
『うーん。西蔭、ちょっと屈んで』
「こう、ですか?」
言われるがままに屈めば、水津さんは自分の首に巻いていたマフラーを外して、俺の首に巻き付けた。
「あの...?」
『よし、これで外出ても寒くないね』
満足そうに笑った水津さんを見て巻き付けられたマフラーに触れる。
「俺が着けてしまったら水津さんが寒くないですか?」
『私はコート着てるから平気。なにも防寒具付けてない西蔭見てる方が寒い』
「いや、今年はわりと暖冬なので大丈夫ですよ」
そう言えば、水津さんはいやいやと首を振った。
『私が見てて寒いから着けて』
水津さんは有無を言わさないといった様子で、こういった時は絶対折れない。
「...分かりました。お借りします」
うん、と頷いた水津さんを見て、ん?と首を傾げる。マフラーにコートに防寒バッチリに見せかけてこの人...
「水津さん手袋はしないんですか?」
『今はポッケに入れてる』
「そうですか」
ならホームを出たらするのだろう。
「じゃあ行きましょうか。まずは映画館でしたよね」
そう言って歩き出そうとしたら、水津さんが、はあ...と大きなため息を吐いた。
『にぶちんめ』
そう言って水津さんは俺の左に立ち自身の右手を俺の左手に絡ませてきた。
「水津さん!?」
『こうしたくて手袋してなかったんですけどねー』
ああ、それでにぶちん...。確かにこれは俺の察し力が足りなかった。
「すみません」
『いいよー別に。ほら西蔭、行こう』
繋いだ手をグイグイと引っ張られ、歩き出す。
『ところでその手に持った紙袋凄いね。来る途中にファンの子にでも会った?』
ホームを出て歩きながら水津さんが指したのは繋いでいるのとは反対の手に持った大きな紙袋。
紙袋からはみ出すくらいに色とりどりの箱が頭を覗かせている。
「いえ、ファンには会ってないです。これは水津さんにと王帝月ノ宮の連中から」
『えっ、そうなの!?私の荷物じゃん自分で持つよ』
そう言って水津さんは繋いでいた手をいとも簡単に解いて、持つよと手を差し出した。
「いや、」
差し出したその手を俺の手で捕まえ元に戻す。
「重たいので帰るまでは俺が持ちますよ」
と言うのは建前で、水津さんの手が離れるのが嫌だと言うのが本音である。
『いいの?』
はい、と頷けば、水津さんは少しうーんと唸ったあと、じゃあ、お願いしますと頭を下げた。
『けど、王帝月ノ宮の子達からプレゼント貰えるとは思ってなかったなぁ。今日、王帝月ノ宮にケーキ届くように送といて良かったわ』
「そうなんですか?」
『うん。ほらこのデートのお誘い届いた日。あの後、竹見からクリスマス会やるんだ〜ってメッセ来ててそれならと思って2ホールほどケーキ送るようにしといたんだ』
「なるほど」
『もし残ってたら西蔭も食べてね』
「はい」
その後も軽い雑談をしながら映画館へと向かい、俺は特に観たいものもなかったので水津の観たいものを選んで観た。水津さんは最初何にするか悩んでいたようだが、好きなものでいいですよと伝えたところ、控えめにアニメ映画でもいい?と聞いてこられて可愛らしかった。水津さんがアニメやゲームなどがお好きなのは知っていたのでOKすればそれはそれは喜んでいただけたので何よりだった。
観たアニメ映画はそもそもが少年漫画らしいのでアクションも派手で内容を知らない俺でも普通に楽しめた。興味あるなら原作単行本も家にあるから読みに来るといいよと、お誘いも頂いて、所謂お家デートと言うのの口実ができてしまった。
映画を見終わった後は、カフェレストランで食事をして、軽くウィンドウショッピングもした。
楽しい時間はあっという間で、すっかり日も暮れて、そろそろ寮の閉鎖時間があるので帰らなければならない。
日暮れと共に街のイルミネーションのライトが点灯されていく。
『わー、綺麗だね』
「そうですね」
駅に近づくに連れ、だんだんと歩幅は小さく、速さもゆっくりとなっていき、ついにはピタリと足を止めた。
「人が多いですね」
来た時にはここまでではなかったが、どうやらこの時間はイルミネーションを見に来た人達が多いようだ。
『聖夜、の方が多いのかと思ってたけどやっぱ当日もリア充多いんだねぇ』
「っ、そうですね」
カップル達を見てそう言った水津さんに対し思わず動揺する。落ち着け、名前を呼ばれた訳ではない。せいやはせいやでも字が違うだろ。
動揺を誤魔化そうと、イルミネーションに目を向ければ横の水津さんが、うー...と唸り声をあげた。
「水津さん?」
思わず、水津さんの方へ向き直れば寒さのせいか耳が赤くなっていた。
『いや、うん。ひよったわ』
「ひよる...?何にですか?」
『あー...そのね。名前で呼んでみようかな、と思ったんだけど...』
名前?誰の?...俺の??
『思った以上に恥ずかしくてね、誤魔化しちゃった』
頬を染めて困ったように笑った水津さんを見て、どくりと心臓が脈打つ。
『さらりと政也くんって呼んでプレゼント渡したかったんだけど、思ったよりかっこつかなかったなぁ』
葉音の事や稲森の事を名前で呼び捨てにまでしてる水津さんが俺の名前を呼ぶのに照れてる??
待ってくれ理解が追いつかない。
『とりあえず、これ貰ってくれますか?』
そう言って水津さんがラッピングされた箱を取り出した。
「は、はい。あの、俺のプレゼントも他の奴らのと一緒にこれに入ってるんですけど」
交換と言わんばかりに手に持った紙袋を差し出して、水津さんからのプレゼントを受け取る。
『ありがとう。ちなみに西蔭からのはどれ?』
「俺のは赤い包装紙に緑のリボンのやつです」
『うーん、上の方にはないから底にあるのかな?』
「皆が好き勝手に詰め込んだので恐らく下の方だと」
『そっか。家帰ってから開けてみるね!』
「はい」
女子の好きな物など分からないので、気に入って頂けるか分からないが...それでも真剣に考えて選び抜いた物だ。喜んでもらえるといいが。
「あの、こちら開けてみてもいいですか?」
『うん、どうぞ。男の子の好み分かんなかったから、野坂に相談したんだけど』
「野坂さんに?」
話を聞きながらプレゼントのリボンを解く。包装紙を剥いで箱の蓋を開けるとネックレスが入っていた。
「これは...」
『西蔭、昔アクセしてたって情報を野坂に貰ったから、いいかな?って思ったんだけど...』
「ありがとうございます。家宝にします」
そう礼を言えば水津さんはいやいやと首を降った。
『家宝にするほどのものでは...!でも、遊び行く時とか付けてくれたら嬉しいな?』
「勿論です」
とりあえず汚れないようそっと蓋を閉めて...カバンに仕舞おう。
『さ、そろそろ電車来るし行こうか』
「あ...そう、ですね」
そう言えば水津さんは俺を見上げてニヤリと笑った。
『なぁに。帰りたくなさそうだね』
「そんな事は...。いえ、少し名残惜し気がします」
『そっか。でも寮厳しいからね、帰んないと』
はい、と頷けば、水津さんはめいっぱい背伸びして腕も伸ばして俺の頭を撫でて、それに、と続けた。
来年も再来年も一緒に過ごしてくれるでしょ?
さも当然のように言われたその言葉に、無論です!と大きく頷くのだった。