アレスの天秤編
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フィールドに戻り、ゴール前のディフェンス位置に立てば、ゴールエリアの西蔭が心配そうな顔をして寄ってきた。
「水津さん!野坂さんは!?」
『外傷はないし、意識もある。……戻って来るまでは、任せるって』
そう伝えれば西蔭はホッとしたように息を吐いた。
『一応リベロだし私がFWに上がって、交代で道端に入ってもらおうかとも思ったけど、野坂本人が戻る意志があるんだもん』
戻って来るなら野坂を交代で下がらせられない。
サッカーは1度交代した選手は戻せないから。
「つまり、野坂さんが戻るまで10人で試合を行う、ということですね」
『そう。しかも私が野坂に代わって指揮と攻撃に回る。ディフェンスが薄くなるけど……』
「ゴールは俺が守ります」
グッと西蔭は力強く拳を握りしめた。
『頼もしいね。任せるよ』
さて、と前を向く。
野坂の代わりなんて荷が重いけど。
なんなら目の前で憎悪を向けてくる灰崎の視線も重いけど。
灰崎のチャージでボールが出たから王帝月ノ宮のスローインで再開する。
スローインを行うのは草加で、いいですか?と言うようにこちらを見てきたので、強く頷いた。
タッチラインの外から草加が頭上に持ったボールをフィールドへと投げ入れる。それを、万作と競り合って丘野が奪い取った。
現行ワントップのFW、一矢にはしっかりマークが付いている。
雷門が次に警戒するなら、MF達だろう。
「水津!」
そこを見越してMFである丘野は前ではなく後ろにいるDFの私にパスをだした。
そして、丘野が私の名を叫んだと共に、ずっと一緒に必殺技の特訓をしていた一矢がマークを振り切って走り出したのが見えた。
あれをやるって事か、いいよ。
『いくよ!』
グーにした両手を上下で重ねて現れた剣を振るう。
そうすればフィールド全体に群れ雲が発生し雨を降らせた。
《おおっと!?パスを受け取った水津いつものアクロバット技ではない!?新必殺技かあ!?》
実況も雷門イレブンも、私を気にして気づいていない。雨の中を姿を隠した葉音一矢に。
『
「
DF位置からゴール前までの超ロングパス。それを皆が姿を見失った一矢へと飛ばせば、雨の中現れた彼がそれをダイレクトにゴールへシュートした。
ピッーとゴールが決まったホイッスルがなった。
《ゴ、ゴォオオオール!!!!》
「え……」
のりかちゃんがパチパチとまん丸い目を瞬きさせた。その背ではゴールネットが揺られてボールが落ちていた。
《超ロングパスからの速攻シュート!野坂の抜けた王帝月ノ宮中。10人での試合で不利に思えたが、そんなことは無いと、水津と葉音の新必殺技で早々に知らしめた!!!》
よし。これで2対0。
「完成していたんですね。葉音との連携技」
そう言った西蔭の方を振り向いてVサインを見せる。
『結構前にね。今までは、使うタイミングが無かっただけで』
相手チームをボコボコにする戦法でやってきたから使う必要がなかったし。
『さあ、今度は雷門のボールで再開だよ』
センターラインに視線を戻せば、稲森が線の上にボールを置くところだった。
稲森と小僧丸が目配せをした後、足先でちょんと稲森がボールを蹴ってホイッスルが鳴り響いた。
稲森が蹴ったボールを受け取って小僧丸が走り出す。
野坂のいない今、実質的ワントップの一矢がボールを奪いに向かうが、小僧丸はボールをレフトの灰崎へパスしてそれを避けた。
彼にボールを持たせるのは本当に良くない。
向こうのレフト側。つまりうちのライト側にいるMFの丘野と草加を灰崎は得意のラフプレーで抜いていく。
まあけど、ひとりで抜いてひとりで得点するだけの力を持った灰崎は、他の選手にパスをせず自力だけで上がってくる。そこが狙い目だ。
『花咲!奥野!』
ライトのディフェンス2人に声をかければ、了解と言うように2人は灰崎へ向かって駆け出した。
ガタイのいい花咲が、真正面からぶつかりに行き、奥野はスライディングを仕掛けた。
「へっ、甘い甘い!そんなんでこのオレが止められるかよ!」
花咲を避け、奥野の上を飛び越えた灰崎は、自分が中央へと追いやられたことに気づいていなかった。
『甘いのはキミ』
中央に来てくれたおかげでレフト側の私も彼の傍に追いついた。
「勝負ってわけか。いいぜ」
そう言って灰崎は悪い顔で舌なめずりをする。
真っ向勝負と、飛び出した私を灰崎は右に避けた。
あっさりと灰崎に避けられた私はそのままセンターラインに向かって掛けていく。
「なん、」
なんだ、と灰崎が言いかけた瞬間、私の影に隠れていた香坂が、灰崎の足元からボールを掬うように奪い取った。
「水津先輩!」
素早くパスされたボールをトラップする。
《おっと、これまたは先ほどの連携シュートか!》
一矢の方を見れば、先程の事もあってか流石に万作と岩戸の2人がマークに付いた。
『と、なれば。谷崎!』
谷崎にボールをパスして前へと走り出す。
ドリブルの苦手な私より、谷崎に運んで貰う方が確実だ。
谷崎は華麗なドリブルで奥入を抜いて、ゴール前までやってきた。
「水津さん」
谷崎が上げたのは高いセンタリング。
それに合わせて高く飛び上がれば豪雨に降られた。雨のカーテンが身を隠す中、バク宙から体を捻って足を振り下ろす。
『篠突く雨!』
「止める!」
そう言ってのりかちゃんは頭上て腕をクロスさせた。
「マーメイドヴェール!」
彼女が腕を振り下ろして現れた海に雨を纏ったボールは飲み込まれ、ピンクのヴェールに包み込まれてしまった。
『あー、くそ』
ボールをしっかりキャッチしてのりかちゃんは、よし!と喜んだ。
もう一点とは行かなかったか。
「氷浦!」
反撃開始と、のりかちゃんから氷浦へとボールが飛んだ。
ボールをトラップし走り出した彼を、一矢、奥野、丘野、草加の4人が囲いに行った。
それを見て氷の微笑と呼ばれる氷浦は小さく微笑んだ。
ちょんと膝上位にボールを浮かせた彼が、くるりとターンすると周りに冷気が起こった。
その冷気はボールをカチコチに凍らせる。
「氷の矢!」
そのボールを大きく蹴り飛ばし、王帝月ノ宮ゴール前にいる剛陣へと繋げた。
「いっけぇ!」
剛陣がセンタリングを上げたのは、稲森。
「シャイニングバード!」
高く飛び上がった稲森がオーバーヘッドでボールをければ、光を纏った鳥たちが現れる。
そこにさらに、小僧丸がファイアトルネードの炎の渦と共に飛びたがった。
「爆熱ストーム!!!」
オーバーライドしたシュートがゴールに向かって飛んでいく。
「止める!─王家の盾!」
西蔭が盾を生み出し掲げた瞬間、彼を呼ぶ声が聞こえた。
「それはシュートじゃない!」
野坂の声だった。
「なに、」
野坂の言う通りボールはシュートではなくゴールラインより手前に落ちた。
そして、反動で跳ね上がったそのボールをDFから上がってきていたリベロ、万作が軽く蹴るだけで、隙の生まれたゴールに入ってしまった。
「なっ、」
《決まったァ!リベロとして上がっていた万作がねじ込んた!キャプテン不在の王帝月ノ宮、無失点の記録が破られてしまった!》
やられた。
私が、もう一点を欲張らなければ……。
そう思いながら、自分達のゴールをみれば、落ちたボールを拾いながら西蔭は笑っていた。
『………あぁ、』
やっぱり西蔭は笑うと可愛いね。
そんな彼の傍に野坂が歩み寄っていく。
「西蔭!体制を立て直すぞ!」
「すいません、野坂さん……」
「いいんだ。まだ、梅雨さんと葉音が繋いでくれた1点がある」
「野坂さん」
そう名を呼んで西蔭は野坂から視線を逸らし、手元のボールを見つめた。
「俺たち、サッカーを楽しんでいるんでしょうか」
西蔭の問に、野坂は真顔になる。
サッカーを楽しんでいる、か。
前に似たような話をした時、彼らはそれは無いと言う結論に至っていたけれど。
野坂は真顔から目をつぶって、小さな笑みを浮かべていた。
もう、彼には新たな答えが出ているようだ。
「俺、なんか……」
西蔭はまだ分かっていない、という様子だが。
『知りたいんならもっと戦ってみればいいよ』
難しい顔をしている西蔭の前へ歩み寄る。
「水津さん……」
「勝負はここからだ、西蔭」
行こうと言うように野坂は振り返って数歩前へ出た。
「……、ですね」
楽しさを教えるためにも
貪欲に勝ちに行こう。