アレスの天秤編
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ついにやってきたフットボールフロンティア決勝戦。
その会場であるフットボールフロンティアスタジアムのロッカールームで、野坂がみんな聞いてくれと声をかけた。
着替えや精神統一をしていた各々が手を止め、一同の視線が野坂に集まった。
「君たちは感じているはずだ。サッカーの素晴らしさを知り、勝つためのだけのサッカーをする虚しさを」
野坂…!?と丘野が驚いた表情を見せる。
「だから僕はオーナーに掛け合って、この試合に勝てば全員を自由にするという約束を取り付けた」
えっ、と一同が驚きの声と表情を顕にする。
そりゃあそうだ。みんなが掛け合った時の野坂は取り付く島もないほど、怒っていたのに。
『全員にはちゃんと野坂も含まれてる?』
この子なら自分を犠牲にみんなの解放を交渉した可能性もあると、野坂を見つめれば、彼は穏やか顔をして自身の胸に手を置いた。
「ええ。僕も、強化委員である梅雨さんも含め、12人みんな自分の道を切り開くことが出来るんだ。誰でもない自分自身で」
野坂のその言葉にみな、嬉しそうに、はいと返事をして立ち上がった。
「みんな、勝って自由になろう!そしてこれが僕たちの最後の戦いだ!」
はい!と力強い返事をして、キリリと表情を引き締めた皆は試合のためにロッカールームを出ていく。
「野坂さん、ありがとうございます」
谷崎が深々と頭を下げて出ていったのを見た後、私と最後の西蔭も野坂を置いてロッカールームを出た。
西蔭が扉を閉じてすぐに、野坂の呻き声が聞こえてきた。
頭痛が酷いのだろうが、試合前だしドーピング判定されかねないから薬も飲めないのだろう。
『……西蔭。私は行くけど、』
眉間に皺を寄せたまま、扉の前で立ち尽くす西蔭に小声で話しかける。
『………』
いや、言葉は要らないか。
頑張れ、と言うようにその背をトントンと叩いて私は先行く皆の後を追った。
サッカーグラウンドに出れば天井からの光に少し目を細める。
いい天気だ。まさに決勝戦日和。
対戦相手である雷門中は既にベンチの周りでアップを始めていた。
見つめていれば、視線に気がついたのか稲森がこちらを振り返った。
約束は覚えているだろうか。
稲森はペコッと小さく会釈をして、それに気がついた灰崎がなんだと言うようにこっちを向いたあと、直ぐにキッと眉を釣り上げ睨んできた。
『ふふ、嫌われたもんだなあ』
「何笑ってるんですか」
半ば呆れ気味な声が聞こえて振り返れば、西蔭とその隣には野坂が居た。
彼らの表情を見るにどうやらちゃんと話ができたようだ。
『いや、灰崎の雷門ユニ似合ってないなって思って』
雷門の彼らに背を向けて、王帝月ノ宮側のベンチへ歩いていく。
『私ね、王帝月ノ宮に来て良かったよ』
そう言って後ろを着いて歩く2人に笑いかける。
「ユニホームがカッコイイですからね」
真顔でふざけた事をいう野坂に更に笑う。
『そうね。それもあるけど最高の仲間に会えたから!だからね、』
すう、と1つ息を吸う。
『勝とうね。どんなことをしても』
野坂が少し目を伏せる。
「……ええ。勝ちます」
はい、と西蔭も静かに頷いた。
《さあ、始まります!雷門中対王帝月ノ宮中。少年サッカー日本一を決める大会フットボールフロンティアの頂点に立つのは果たしてどちらか!》
実況の角馬さんの声と共に、スタジアムの電光掲示板にスターティングメンバーの情報が出されていく。
GKはもちろん西蔭。
DFは桜庭、奥野、花咲、私、香坂の5人。
MFは丘野、谷崎、草加の3人。
FWは野坂、一矢の2人。
いつものフォーメーション5-3-2。
守備を固めてボールを奪い、2トップで点を点を稼ぐ。
対する雷門側は、
GKはのりかちゃん。
DFは日和、岩戸、万作の3人。
MFは服部、奥入、稲森、氷浦の4人。
FWは剛陣、灰崎、小僧丸の3人。
3-4-3の攻撃的なフォーメーション。
何度か試合を見たが、雷門はディフェンスが薄く、前線に上がっていた小僧丸と稲森が戻ってきてディフェンスしていたぐらいだし、そこを突く戦略を本来ならうちの戦術の皇帝様に考えさせてあげたかったが……。
野坂の表情を見るにあまり余裕は無さそうだ。
ホイッスルが鳴り試合開始する。
キックオフは王帝月ノ宮から。
「10分でカタを付ける」
一矢からボールを受け取った野坂がそう告げた。
「では、グリットオメガを……?」
「それが彼らのためでもあるんだ」
そう言って野坂が先頭を走り出し、王帝月ノ宮の選手はゴール前の西蔭だけを残し、全員、野坂に合わせて駆けていく。
私も、例に漏れずただ真っ直ぐに駆け出すのだった。
グリットオメガ
最短で終わらす。それは、野坂の為でもあるから。