アレスの天秤編
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結局あの後、野坂が交渉したのか、そして成功したのか、そもそも御堂院の所に行ったかどうかも分からない。
昨日も遅くに帰ってきたみたいだし、今日は朝早くから出ていくし、聞くタイミングもない。
そのせいで、西影は今日は私について回ってくる。野坂が居なくて寂しいんだろうけど……、まあ、居ても脳腫瘍の件以来、野坂が西蔭に対して塩対応だから西蔭は耳の折れた犬のようにシュンってしてるけど。
「そういえば、見ましたか?雷門の……」
西蔭の振ってきた話題に、ああ、と即座に頷く。
『新メンバー、でしょ』
前回の雷門対利根川東泉で、キャプテンの道成が怪我を負ったという情報をみたが、控えの居ない雷門はどうするのかと思っていれば今朝の情報でコレだ。
「はい。まさか、あの灰崎凌兵が雷門に入るとは」
長い灰色の髪の褐色肌の少年の片方だけ見えているあの目が、私を睨んでいた姿を思い返す。
『クックックッ。十中八九、あの子の差し金だろうね』
過去の自分に重ねてほっとけなかったんだろうな、と思わずくつくつと笑いが込み上げて笑う私に、あの子とは?と西蔭が首を傾げる。
そんな彼に、今朝私のスマホに届いたメッセージを見せた。
「……焚き付けたのはお前だからな」
西蔭は書いてあるメッセージを口に出して読んだ。
「送り主は……、鬼道有人」
鬼道からのメッセージにはご丁寧にフットボールフロンティアが公式に発表した灰崎の雷門加入のニュースのページのリンクまで貼ってある。
初戦で当たったあの試合以降、何の連絡も無かったが急にコレだ。
『鬼道、怒ってるかな』
「なら自分が雷門に入りませんか?……って、いや、そうか強化委員だから雷門には戻れないのか」
自分で聞いておいて直ぐに矛盾に気がついて西蔭はそう呟く。
『だから代わりに灰崎を、って話じゃないと思うよ。あの試合の事を元帝国学園キャプテンである鬼道が怒れるわけないし』
彼が怒っているのはラフプレーの件ではないはず。
「では何故、鬼道有人が怒っている、と?」
『彼はね、私が強化委員として王帝月ノ宮に行くの反対派だったんだよね』
「反対派?」
『そう。まあ、強化委員は必要ないと言ってサッカー協会の申し出を断っていたらしいのに、あの動画がバズってから急にスポンサーの意向とか言って申請が来たからね、
「それは……」
『実際その通り、雷門中からの強化委員というブランドに、月光エレクトロニクス主催の出来レースのようなフリスタの大会で優勝して泊をつけたうえで、王帝月ノ宮のスタメン発表』
「……確かに、アレは……元マネージャーをアレスの天秤でここまで育てた、と言うような紹介の仕方でした。水津さんの元々の才能を無視したような………」
西蔭はいつもより更に険しい表情になった。
『こうなることは分かった上で来たから私は別にいいんだけどね。まあ、1つ想定外だったのは、決勝に勝ち上がった強化委員が私だけになってしまったから、結果的にアレスの天秤の効果が証明されたようになって御堂院を更に喜ばせることになってしまったことだけれど』
でも、そのおかげで今回倒れたこともそうだが、ある程度私がおかしな様子を見せても、御堂院は私を決勝戦に出さざる追えない。
つまり、好き勝手し放題ってわけだ。
「要するに、鬼道有人は御堂院にいいように使われていると分かった上で王帝月ノ宮にいる水津さんに腹を立てていると」
話をまとめて戻してくれた西蔭に、そうそうと頷き返す。
まあ実際は怒ってないかもしれないんだけど。賢い鬼道のことだから、私が黙って従っていることに意味があるのだと気づいているだろうし。
「何となくわかる気がします。アンタは、自分を蔑ろにし過ぎだ」
『そうだね。でも、それは私だけじゃないよ』
「ええ、野坂さんもです」
そう言った西蔭に、違うよと首を振る。
いや、正確には野坂が自分を蔑ろにしているのはそうなんだけれど、私が今言ったのは野坂の事じゃない。
『キミだよ』
「オレ……ですか?」
『野坂の事になると西蔭も大概自分を蔑ろにしてると思うよ』
この間だって、自分の本当の気持ちは伏せて野坂に尽くすと決めていた。
それは十分自分を蔑ろにしている。
類は友を呼ぶと言うくらいには、似た者同士が集まってるのかもしれないな。
『野坂に言ってないんでしょ、自分の気持ち』
「それは……、必要のないことですから」
『そんな事ないと思うよ?現に、私は今、西蔭が自分を蔑ろにする私に腹が立つと言うのを聞いて、ちょびっと嬉しかったしね』
そう言って小さく笑えば、西蔭はポカンとした様子で私を見つめた。
だって、私の代わりに怒ってくれてるんでしょ?あの西蔭が。最初は私に興味なんてなさそうだったのに、最近はやけに心配してくれたりするし、そういうの嬉しいもんだけどなぁ。
『野坂に言ってあげればいいじゃない。本当は、手術して欲しいことだって。それでも、野坂がやりたいことがあるのなら、それを支えると決めたことだって』
「…………簡単に言ってくれますね」
『他人事だからね』
「フッ、アンタらしいですね」
そう言って西蔭が小さく笑った。
『え、』
「なんですか」
驚いて西蔭の顔を見れば彼はいつもの真顔に戻った。
『いや、……なんでもない』
笑うと案外可愛らしい
なんて言ったら二度と笑ってくれなさそうだと口を噤んだ。