アレスの天秤編
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むつかしい顔を続ける西蔭に、言いたいことがあるならちゃんと話しておいでと背を押して、王帝月ノ宮中へ戻った。
部屋に戻ってしばらくして、コンコンと控えめなノック音がした。
『はーい』
急いでドアに寄って扉を開ければ、先程より険しい顔をした西蔭が立っていた。
『おいで』
彼の腕を引いて部屋の中へ入れ、そのまま椅子に座らせる。
『あの馬鹿、折れなかったでしょ?』
西蔭が説得したって、聞く耳を持たなかったのがこの表情から想像できる。
「………関係ない、邪魔はさせないと言われました」
うわぁ、キッツ。適当に受け流すだろうと思ってたから想像してたより酷いな。
献身的に傍に居てくれる西蔭に対してそれかぁ。
『ほんっと、馬鹿だねぇ野坂は』
「………野坂さんは馬鹿ではありません」
酷く小さな声で西蔭がそう返す。
こんなにも思ってくれているのに酷い話だ。
「神代ってのが言っていた、水津さんが野坂さんを見捨てれないと言うのはこの事だったんですね」
『あの子があそこまで覚悟決まってんのに、大人の私が逃げる訳にはいかないでしょ』
「だから水津さんも倒れてまで……」
西蔭は目を伏せ小さく息を吐いた。
「俺は………」
開かれた西蔭の目が真っ直ぐに私を見つめた。
「正直、野坂さんには今すぐにでも治療を受けて欲しいです。俺は、少しでも長く、あの人のそばに居たい」
やっぱり、
だって、西蔭はこんなにも感情的なんだもの。
でも、それで良かった。
『野坂は自分を蔑ろにしがちだから、西蔭みたいに思ってくれる人が傍にいて良かったよ』
「自分を蔑ろにしがちなのは水津さんあなたもですよ。あなたが倒れた時、俺は……肝が冷えました」
『そっか、それはごめんね』
「はい。ですが、あなたがそこまでして野坂さんを見守るというのなら、俺は、野坂さんとあなたを傍でお2人を支えます」
真剣な眼差しで、そう言う西蔭に私はただただ、分かったと頷くのだった。
翌日、野坂を最後まで支えると決めた西蔭は野坂と共にフットボールフロンティア準決勝、雷門中対利根川東泉中の戦いを見に行った。
私はというと、決勝に向けて数日のブランクを埋めるのと落ちた体力の回復に務めるため、校内で他のサッカー部員達と練習を行っていた。
「水津さん、行きますよ。水津さん!」
飛んできたボールが自分の横を通り過ぎて行って、ボールを蹴った一矢の声でハッとした。
『ああ……、ごめん』
「大丈夫ですか?まだ、体調よくないんじゃ」
飛んで行ったボールを代わりに拾ってくれた香坂が、心配そうに近づいてきた。
『ううん、体調はもう大丈夫よ』
心配かけたね、と香坂の頭を撫でる。
『ちょっと、考え事をね』
「考え事っすか?」
『うん。雷門対利根川戦始まったかなって』
「ずるいですよね、野坂さんたちだけ」
そう道場がボヤいて、おい、と咎めるように桜庭が言う。
「いや、俺もそう思う」
そう言ったのは草加だった。
珍しい、自分の意見を言うなんて。
「だって、あの円堂さんの試合ですよ?見たいじゃないですか」
「そうだな」
わかるぞ、と言うように丘野が頷く。
なんだか空気がいつもと違った。彼らの中にハッキリとした意思がある。
「水津はあの円堂守と同じチームにいたんだろ?そりゃあ気になるよな」
ぽん、と花咲に肩を叩かれた。
いつの間にか、みんな練習を止め私たちの周りに集まっていた。
『まあ、そういうことだけど、練習はしないとね。次、決勝だし』
「けど、野坂さんと西蔭は練習していないよね。道場がズルだと言うのも仕方ないよね」
谷崎が言うことは最もだが………。
『しょうがないじゃない?アレスの天秤に決められた事だし』
そう言えば皆押し黙った。
しばらく沈黙が続いたが、それを奥野が破った。
「それがおかしいのではないですか。アレスの天秤に決められた通りのサッカー。スポーツマンシップも何も無い、ただ勝利を目指すためだけのサッカー。それがまともではないから水津さんはいつも試合後に吐いていたのでは?」
『奥野……それは……』
冷静な分析官である奥野だからこそ、アレスのおかしいさに突っかからずには居られなかったか。
「俺も、あんなプレイがしたくてサッカーを始めたわけじゃない」
グッと一矢が膝の横で拳を握った。
「俺だって、アレスの天秤に決められたサッカーなんて………」
草加もそうボヤけば他の子達も次々と、アレスの天秤に疑念を抱いていることを口に出し始めた。
もう皆、アレスの天秤を信じてはいない。
灯火
点いた火が消えぬように、私にできることは……。