アレスの天秤編
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「野坂、さん……?」
病室に入ってきたマゼンタ色の髪の少年の姿に、ベッドの横に立つ西蔭が困惑したように呟く。
いつものように死んだ目をした彼だが、先程大正解と言った声は、あまりに抑揚がなかった。
『趣味が悪いね、神代。野坂の姿を真似ているのか、それとも彼の意識を乗っ取っているのか』
なっ、と声を上げる西蔭を見て、野坂の姿をした神代は、少し口角を歪めた。
「どちらだろうね?」
『どちらにせよ、私たちに攻撃させない為にその姿で来たんでしょ』
万が一、本当の野坂の体を乗っ取っている可能がある限り、私たちには手はだせない。
それは同時に、向こうからしてもこちらと殴り合いがしたい訳では無いってことなんだろう。
「水津さん、どういう事ですか……?」
西蔭は、話が見えないながらも、野坂ではないとは理解しているようで警戒して野坂の姿をした神代を睨みながら言葉だけを私に向けた。
『覚えがあるでしょ、この不気味な雰囲気。ストーカーだよストーカー』
「ふふっ、ストーカーか。まあ、ずっとキミの事を
「なっ!?」
慌てて戦闘態勢に入ろうとした西蔭を、どうどうと、点滴の付いた腕を伸ばして止める。
『で、さっきの大正解ってのは、本来の王帝月ノ宮では優勝出来ないって事で合ってるってことよね?』
「ああ、よくわかったね。そうだよ、だって──」
1番最初にあった時、神代は
"この世界は君への報酬なんだから"と言った。
だけど、私にとって都合のいい世界ではなく"チャンスをあげる場"と言った。
そして、ここに来た理由が知りたいのなら"王帝月ノ宮の選手として優勝しろ"と言った。
その上で"秘密なんだけど"と付け加えて"野坂悠馬が主人公"と言った。
最初にあった日の言葉は私を、動かす為の言葉だった。
次にあった時の神代は、めちゃくちゃにキレていた。
"君にこのチャンスの場を与えるのにどれだけ俺が頑張ったのか分かってないみたいだから"と。
この分岐した世界を簡単には作るとが出来ないということか、そもそもこの世界の知識を持った人間をこの世界に呼び入れる事なのかわからないが、どちらにしてもそう何度もホイホイできることじゃない、この状況下で神代がずっと望んでいるのは……、王帝月ノ宮の優勝。
だけど、恐らく王帝月ノ宮は優勝できない。
だって、ここは………
「『イナズマイレブンの世界だから』」
神代と答えが重なった。
『……最後はいつも雷門が勝ってた』
アニメでもゲームでも、フットボールフロンティアも、エイリア学園との戦いも、FFIでも、続きのGOシリーズでもそうだ。
「そう。この世界がイナズマイレブンである限り、雷門の勝利は約束されている。たまに負けることがあっても、それでも最後は雷門だった。でも、それっておかしいと思うんだよね。サッカーは皆に平等であるべきだ」
ここが物語の世界でなく、一現実だと考えるならば、確かに神代の言う通り、最終回が決まっているなんておかしな話しだ。
『だから、物語を分岐させて、新たな道を作ろうとしてるってこと?それを、真面目にバク修正してた私にやらせるわけ?』
「ああ。馬鹿真面目だから、結局野坂悠馬を見捨てられず、今こうなってるんじゃないか」
神代は野坂の顔で目を細めて、微笑むようにベッドの上の私を見た。
「そして、本来優勝したら教えるはずだった、君がここに連れて来られた理由は分かってしまったけれど、それでも梅雨はもう野坂悠馬を見捨てて、優勝を目指さないなんてことはないだろう?」
そう言って、神代は人差し指でこめかみをトントンと叩いた。
確かに、あの子の病気と本気の意志を知ってしまったからには、ここで降りるなんてことはない。
『目指すのはいいよ。だけど、私1人入った所で優勝できるとは限らないよ』
だって、イナズマイレブンの世界なんだから。
『これで優勝出来なかった場合はどうなるの?世界をゲームみたいにリセットして、私たちとはバイバイってこと?』
この超次元界には、天使も悪魔も居るし、未来人も宇宙人もいるから世界をどうこうできる奴が出てきてもおかしくはない。
だけど、ここでリセットされて消されたら今を生きている私たちは死ぬって事だよね。
「リセットなんてしないよ。言っただろう。これは梅雨へのご褒美だって。ここはキミが、ボールを蹴る為の世界なんだから、終わりにしたら褒美が無くなるじゃないか」
口角をあげそう言う神代を訝しみながら考える。
サッカーをしないなら足折るとか脅してきたくらいなのに、万が一優勝出来なくてもいいってなんか変じゃない???怪しすぎるんだけど……。
「信用してないね?まあ、いいよ。勝敗が決まれば、その先も自ずと分かるはずだからさ」
頑張ってね。そう神代が言った瞬間、ガクンと野坂の身体が倒れた。
「野坂さん……!」
慌てて西蔭が、野坂の体をキャッチする。
「う、………西蔭?」
倒れる所を支えられた野坂は、ぼうっとしたようすだった。
「ここは………。あれ、僕は、御堂院と話終えてそれで……」
『意識乗っ取られてたパターンか』
最初にあった時も研究員に乗り移ってたもんな。
「僕、幽霊にでも憑依されてたんですか?」
もう大丈夫と言うように支えてくれた西蔭から離れながら野坂は首を傾げた。
研究員さんと同じように、やはり乗っ取られてた時の記憶はなさそうだ。
『あー、うん。ほらあの神代ってやつ』
「なるほど。何かされませんでしたか?」
『今回は、話だけですんだよ』
「あの。そもそもなんなんですか、その神代って。野坂さんも知っているんですか?水津さんも、先程、よくわからない話をしていて………」
訳が分からないと、西蔭はこちらを見た。
まあ、ちんぷんかんぷんだろうな。
『……そうだね、今の事を説明するためには、とりあえず西蔭にも野坂にした話をしなきゃだね』
「梅雨さんの身の上話ですね」
第二回、身の上話大会
かくかくしかじかと、前に野坂に教えたのと同じ事と、ストーカー云々はアイツの事で嘘だよというのを西蔭に説明するのであった。